プロローグ
「ただいま~。」
「おかえり。どう?楽しかった?」
「うん。久々に中学のときのダチと会ったからね。」
「そう……。それは良かった。」
そう言うと母さんは台所の方へと消えていった。 我が家はいわゆる一軒家というやつで、玄関から入ってすぐ左に居間、右には和室がありその和室には二階へとあがる階段がある。
台所は玄関から直進したところにあってトイレと浴室を挟むことでそれぞれ玄関と和室に繋がっている。
俺は母さんを見送ると和室へ入り、そこから二階にある自室へと向かった。
「疲れた~。」
浴室の真上に位置する自室のベッドに横たわり脇に置いてあったデジタルの目覚まし時計を見てみると、時計は『7月14日(日)20:07』と表示していた。
「彼女………か…。」
言いながら今日久々に会った中学のときの友人との会話を思い出してみる。
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『ユウちゃんおっひさ~。』
『ユウちゃんって呼ぶのやめろよな。』
俺は小学生のときから下の名前の『祐紀』からとって『ユウちゃん』と呼ばれており、それは中学でも継続された。高校生になった今となってはさすがに誰もそのあだ名で俺のことを呼ぶやつはいない。
まぁ、小・中の同級生が同じ高校にいないっていあのもあるのだが。
ちなみにコイツ……啓介は中学のとき同じ部活だった友人だ。
『つれねぇなぁユウちゃんは。久々の再会だぜ?』
『久々っていっても、中学の卒業式以来だから…… まだ4ヶ月だろ?』
『十分久々だろ~。
あ、そういやさ……じゃーん!』
そういって啓介が取り出したのは1枚のプリクラ(正式にはプリントシールと言うらしい)だった。
『これ何?』
『え?プリクラ。』
『そんぐらい見たら分かる。』
『あー。彼女とのプリクラなんだ~。』
『は?!お前彼女なんかいたの?!』
『馬鹿だなぁユウちゃんは。』
俺からプリクラを受け取りながら啓介は答えた。
『高校に入ってから付き合ったの。』
『は、早くねぇか……?』
『そんなもんだぜ?
うちの高校には先月…だったかな?に付き合い始めて、二週間前に別れたやつもいるんだぜ?』
『1年なのにか?』
『1年だからこそ、だよ。』
俺が理解に苦しんでいると
『ユウちゃんは純情だねぇ。
ま、早いとこ気になる女の子ぐらいは作っておきなよ。』
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こんな感じでその後も俺たちは中身のないどうでもいい話をダラダラと続けた。
「気になる女の子……ねぇ…。」
クラスにいないこともないんだよなぁ。
けど、静かっていうか、話しかけにくいっていうか。
入学してからまだ一回もまともな会話すら出来ていないのだ。そもそも、この感情が『好き』というものなのかすら分からない。
大人しいから話してみたいだけなのかもしれないし、クラス全員と仲良くしたいだけなのかもしれない。それに………
「………どっかで会ったことある気がするんだよなぁ。」
ぼやきながらも目を閉じて俺は思った。
(そういや風呂も飯もまだだ。まぁ、明日の朝でいいか。あぁ、明日からまた学校か……やだなぁ。)