⑤
「そんな事ないよ」
僕は何度も横に首を振った。
僕の手を温めている、女の子の手に僕はもうひとつの僕の手を添えた。
女の子の小さな手はとても温かかった。
僕の中で何か堅く尖ったものが解けだしていくようだった。
「ありがとう」
そう口にした途端、僕の両目から涙が溢れ出した。
女の子の手が、ビクッと揺れた。
僕はあわてて手を離して涙を拭った。
「どうして泣くの?」
心配そうに女の子が聞いた。
「うれしいから…」
僕は涙を流しながら微笑んだ。
心に宿る真の願いの灯りに、知っているよ、忘れないでね、と共に祈ってくれる人が居るのは、なんて素敵ことなんだろう。
「うれしいのに泣くの?」
不思議そうに女の子が聞いた。
「変だね」
僕はそう言うと、女の子の頭に手をのせた。
「とても素敵なプレゼントをありがとう」
女の子は目をぱちくりさせて僕を見た。
「サンタクロースお母さんと同じこと、言った」
「えっ?」
今度は僕が目をぱちくりさせた。
「サンタクロースが祈ってくれるのは、素敵なことだって、お母さん言ってたの」
女の子は、ぎゅっと両の拳を握りしめ、少し興奮したように言った。
そんな女の子の様子をみて、僕は、自分が柔らかい笑みを浮かべているのを感じていた。
「そうだよ。君の祈りで僕の願いは叶ったから」
女の子はまるで、花が咲き誇ったかのような笑顔を浮かべた。
「ほんとに?」
「うん」
僕は力強く頷いた。
「さあ、もう、おやすみ。今度は僕が祈る番だよ」
女の子はコクンと首を縦に振ると、布団に横になった。
「おやすみなさい、サンタクロース」
僕は女の子の額に手をかざした。
まもなく女の子は安らかな寝息をたてた。
「ほんとうに、ありがとう」
僕は女の子を起こさないように、そっと呟き部屋を出た。