③
僕は担当エリアの町を、子ども達を訪ね歩いた。
いつかは忘れたり消えたりするかもしれない、いろんな夢や望みを心に持っている子ども達。
その中でも温度の違う一際輝く特別な心の灯が、真に願うもの。
野球選手になりたい。
歌いたい。
もっと遊びたい。
友達がほしい。
夢がほしい。
もっと食べたい。
生きたい。
花屋さんになりたい。
……。
『どうかその願いが叶いますように』
僕は自身のもやもやした迷いや言い知れぬ不安を忘れたくて、今までの年よりも、今年は強く強く祈った。
今年の外回りも残すところ数軒になった。
次の家を見つけ、僕は首を傾げた。
子ども部屋に明かりが点っていた。
「あれ?」
僕は不思議に思いながらも、クリスマスは明かりを点けたまま寝る子も、多くはないが居てることを思い出した。
僕はそっと窓から様子を窺った。
ところが、部屋の中で女の子が起きていた。
クリスマスは、子ども達は普通早く寝る。
その女の子は、布団の上に座り、小さな手を組み、熱心に何か祈っていた。
僕はどうしたものか判断が出来かね、とりあえずいつものように部屋に入ることにした。
女の子の祈りを邪魔しないように、そっとそっと気を付けながら。
部屋に入り、少し離れたところから女の子をみると、女の子は手を堅く握り目を閉じ天井の方を見上げ、言葉1つ発することなく、ただ祈っていた。
「何を、してるの?」
僕は余りに熱心に何かに祈る女の子に、その理由が無性に知りたくなり、声を掛けてしまった。
女の子はきょとんとして、僕を見た。
「あのっ…ごめん。僕…その…」
「もしかして、本物のサンタクロース?」
慌てた僕に、女の子は聞いてきた。
僕はおずおずと頷いた。
「お祈りしてたの」
女の子は、嬉しそうににっこり笑った。
「お祈り?」
「うん、そう。サンタクロースの願いが叶いますようにって」
女の子のただ言葉をそのまま返しただけの僕の問いに、首を縦に振ってゆっくりと答えた。