①
4年前にクリスマスに書いた作品を手直ししたものです。
サンタクロースのお話し。
僕は入社5年目。
当然クリスマスは5回目。
「はあ…」
「なんだなんだあ?今夜は年に一度の外回りだぞ」
溜め息を付いた僕に、上司のサンタクロースが僕の肩を軽く叩いて声を掛けてきた。
「あ…スミマセン」
僕はデスクで慌てて姿勢を正して上司を見上げた。
「いや…まあ、しっかりろよ」
上司は何故か苦笑いして、更に二度僕の肩を叩いて自分のデスクに着いた。
「何々…お悩みか?」
軽い調子で囁き、僕の隣の先輩サンタクロースが声を掛けてきた。
「はあ…まあ、ちょっと」
僕は曖昧に答えた。
先輩サンタクロースは肩をすくめた。
「テキトーにさっさと終わらせちまおうぜ」
「…良いんですか、それ」
僕は何か釈然とせず、眉をしかめて先輩から目を逸らした。
「仕方ねぇじゃん、俺らの仕事なんて、さ」
「先輩…」
伸びをしながら答える先輩サンタクロースに、僕は呆れながら、若干の抗議を込めた視線を送った。
「そろそろ行こうぜ。俺らのとこ、夜になるし」
先輩サンタクロースはそういうと、立ち上がりオフィスの出入り口に歩いて行った。
僕が勤める会社は、名をサンタクロース株式会社という。
その名の通り、サンタクロースの会社だ。
たくさんのサンタクロースが、世界中のエリア毎に部署に分かれて、年間を通して子ども達を見守っている。
そして、クリスマスの晩に、子ども達が真に一番願っていることを祈り歩くのが、その年最後の仕事だ。
僕もこの社に入り、今まで、色んな子ども達の願いを祈った。
『病気が治りますように…』
僕は祈った…、けれどその子は治ることのないまま、死を迎えた。
『パパとママが仲直りしますように…』
僕は祈った、けれどその子の両親は別れて家族はバラバラになってしまった。
叶わなかった願いはどこにいくのだろう。
僕はこの仕事に、辛さと虚しさを感じていた。
「…行くか」
僕は何かを吐き出すように溜息をつき、重い腰を上げて、更衣室に向かった。
短いお話ですが、10年ほど温めてきたお話です。
ほんわかしていただけると良いのですが、如何でしたでしょうか。