自証行為
白い華奢な手首に薄い皮膚が覆い、血管が青く映る。
そこに平行にカッターナイフをあてがい、浅く、引く。
すると血が珠になって、緩やかに流れていく。
裂けた皮膚と細かい血管が切れる痛みに、生理的な涙を浮かべ眉を寄せる。
生きている故の痛み。生を実感する瞬間というのは何故こんなにエクスタシーを感じるのか。
思わず同じように真っ直ぐカッターナイフを走らせてしまう。手首に浮き上がる細い骨を覆う皮膚を切る時は刺激的だ。
間もなく手首は真っ赤に染まり、興奮から少し深く裂いてしまった部分もある。
痛みに嗚咽が出て、鼻腔が染みるように痛み、涙腺を刺激する。
完全に忘我してしまったようだ。今日は一段と酷い。死ぬつもりは無いから馴れた手付きで消毒し包帯を巻く。
生を実感するための自傷行為で死んでしまっては意味が無い。
止めたくたって、もうどうしようも無い。
だってこの上なく感じるのだ。生を、自分の存在を。
浮き世の娯楽なんかたかがしれてる。そんなものから快感なんて感じない。
被虐趣向で飄々としてなきゃ生きて行けない。虐げる者も虐げられる者も分別できないし。ただ、虐げられている者である今だけは。この痛みに溺れて生を棄てないでいたいのだ。