44 悲しみのカンパニュラ
「姉さん、大丈夫?」
リオとランドルの秘密を話し終えたメリーはしばらくぼぉっとしていた。
リックにとってリオとランドルの秘密は驚愕に値するもので、憤りや悲しみを一度に味わった。
けれど、それを知った自分よりも、そのことをずっと隠し続けていたメリーの方が、ずっとずっと辛い思いをしていたのだろう。
死んで、自分の年や季節、チロのこと、それらの記憶があいまいになっていてもなお、その秘密だけは覚えていた。
ランドルに体を弄ばれたリオと同じようにその秘密を心に抱えたメリーも、深い深い傷を負っていたのだろう。
「姉さん、少し休んだら?」
メリーはリックの言葉にはっとした。そしてその内容の可笑しさに笑った。
「ふふ、やっぱりチロは優しい。ありがとう、チロ。でも大丈夫よ?だってわたし、死んでるんだから。ふふ」
死んだ自分に休息などいらない、そう言うメリーは心底可笑しげだった。
死んでいるからだろう、その顔色が悪いのは。
けれどリックにとっては顔色が悪いのは死んでいるからだという理由ではなく、秘密を漏らしてしまったこと、自分が死んでいることを知ってしまったことで心的に疲労がたまったとしか思えなかった。
けれど、本当に可笑しそうに笑うメリーを見ると、リックは何も言えなくなってしまう。
「チロ、私、時間がないのよ。だってきっと、わたし、消えてしまうわ」
メリーの言葉にリックは今度こそ息がつまったかのような気がした。
「ど、して」
なんとか出た声は、まるで誰かに咽喉を閉められているかのように弱弱しい声で、リックは自分が動揺していることを感じた。
「あのね、私、きっと今度こそあなたの前から消えてしまうわ。だって私、自分が死んでいるということをちゃんと理解しているから。死人が生きている人の前にいてはいけないわ」
「でも、姉さんは「リオ姉さんは!」
リックの言葉を遮ってメリーは大きな声を出した。そのメリーの行動にリックは恐怖さえ感じる。
「リオ姉さんは!私が死んだことを認めていないの!だから私が見えないの。私が見えてしまったら、今度こそリオ姉さんは本当に狂ってしまうから。あなたに私が見えたのは、私が死んだことをちゃんと受け止めていたから。それに私が私であるということを理解して、そして私が死んだということを私に知らせるためだったのよ。きっとそう」
メリーは確信をもった瞳と強い口調でリックにそう言った。
「だから、もうじき私、あなたの前から消えてしまうわ。時間がないの。あなたにすべてを話さないと」
メリーは怒鳴るように矢次早に告げて、イライラと指先を弄くった。そして机の上にあるカンパニュラを見つめて、大きな深呼吸をひとつして自分を落ち着かせた。
「私がカンパニュラを好きな理由、教えていなかったわね」
メリーは小さなチロがいつも見ていたのと同じ、優しくて包まれるような温かさをもった笑みでリックを見つめた。