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不変の部屋  作者: 瑞雨
43/50

43 名前の秘密



いつかリックはメリーという名前の理由を尋ねたことがあった。

するとメリーは楽しげに声を鳴らして歌を歌った。



「  わたしのかわいい()(リー)ちゃん

   小さな小さな子羊ちゃん

  美味しいスープになっちゃった

  かわいそうな子羊ちゃん

   胃袋の中でおねんねよ     」



内容はとても子供に聞かせるような可愛らしいものではなかった。



「この歌が私の名前の由来。どうしてこれが由来かって言うのはまだあなたには早いから、これで納得してちょうだいね」



この歌がどうしてメリーの名前の理由なのか。それはメリーにとって戒めを忘れない大切な歌だった。



ランドルに穢されてしまったリオ。

ランドルに喰べられてしまったリオ。

スープになるかのようにじっくりと体を弄られ、最後にはその体の中に入れられてしまう。



それはまるで狼に食べられる羊のようで。



メリーはその歌を川で歌うことで、リオの穢れを自分に移そうとした。

忌々しい行為を目撃した後、足がもつれるのも構わないで川へと走り、頭で考える間でもなくいつの間にか口ずさんでいた歌。



食べられたのはリオではなく、自分。

狼に狙われているのはリオではなく自分で、子羊は自分メリー

そう言い聞かすかのように、メリーは歌い続けた。



「どうして子羊がメリーなの?」



歌が名前の理由だというのは分かったけれど、どうして子羊がメリーとイコールになるのかは小さなチロには分からなかった。


子羊はbaby sheep、child sheepもしくは食肉としての子羊ならばa lambと発音される。

どこにもメリーなどという言葉は入らない。



歌の内容を詳しく聞くことは許されなくとも、子羊がメリーとイコールになる理由は聞いてもよいだろうと、チロはメリーに尋ねた。



小さなチロの疑問にメリーはくすくすと笑いながら答えた。



「あのね、私があなたくらいの時にね、姉さんが歌ってくれた歌があってね。


Mary had a little lamb(メリーさんの羊)

little lamb, little lamb(メェメェ羊)

Mary had a little lamb(メリーさんの羊)

Its fleece was white as snow(まっ白ね)


私これを聞いて、メリーさんって羊の名前だと思っていたの」



メリーはその時のことを思い出すかのようにころころと咽を鳴らして笑った。

メリーの楽しげな様子にリックも笑みがこぼれる。



「だから子羊は私にとってメリーさんなのよ。私も子羊みたいに可愛らしいでしょう?ふふ」



メリーはおどけたようにくるりと回って、メェと鳴いた。

そんな姉の様子にチロも一緒になってメェメェと可愛らしく鳴く。



「でもね、チロ。あなたはこの歌を歌ってはだめよ」



メリーは突然まじめな顔をしてチロに告げた。

チロはどうしてその歌を自分が歌ってはいけないか不思議に思った。


自分もメリーと一緒に歌を歌いたい。


それがメリーがいつも歌う歌ならば、メリーの名前の由来ならば、一緒に歌いたい、そう思った。

けれど、メリーは首を縦には振らない。いつも優しいメリーがこの時ばかりはとても怖い顔でチロに諭す。



「この歌はね、私しか歌ってはいけないの。私が歌わないと意味がないの。だからあなたは絶対にこの歌をひとかけらも口ずさんではダメよ?絶対に。約束してちょうだい」



至極真面目に述べるメリーにリックはしっかりと首を縦にふった。

メリーが歌う歌を自分が歌うことができないのはとても悲しいけれど、メリーの言うことは絶対で、メリーに嫌われたくはなかったので、チロはその歌を歌わないことを約束した。



羊が食べられてしまう歌。

それは姉ではなくメリーだと、言い聞かし、その罪を自分に移すもの。

罪をかぶるのは、姉と自分だけでいい。




愛しい弟のチロはそれを知らなくてもいい。



罪を被る歌をチロは歌ってはいけない。





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