表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不変の部屋  作者: 瑞雨
41/50

41 神への冒涜



姉さんはね、私が死んで悲しかったでしょうけど、それと同じくらい安心したと思うの。


それはランドル爺さんと姉さんの秘密を知る人がいなくなったということ、それがいつ外に漏れるかを心配しなくてもよくなったこと、実の祖父に犯され、それを拒むことができず何度も体を許してしまったことで私に嫌われてしまったのではないかと思わなくてもよくなったんだもの。



姉さんはとても気が弱い人だったし、ランドル爺さんは力が強かった。それに金銭的にも助けてもらっていたことを考えると姉さんがランドル爺さんを拒むことができなかったのは仕方がないことだったの。


だけど姉さんは神を裏切る行為をしてしまったことに心を悩ませたわ。姉さんはとても優しい人だから、あの日、助けることのできなかった私を責めも恨みもせず、むしろランドル爺さんから私を守るかのようにランドル爺さんの気が自分に向くように振る舞ったの。


姉さんは何よりもランドル爺さんの手が私に伸びることを恐れ、私が姉さんと同じ経験をしないように必死で私を守ったわ。



あなたが生まれてからもそれは続いた。ランドル爺さんにとっては幸いにも、うちはお母さんもお父さんも死んでしまって私たちしかいなかったし、私とチロを追い出してしまいさえすれば姉さんを好き勝手にできたもの。



お母さんが死んでしまってマリアおばさんは私たちを引き取ろうとしたけど、私たちはお父さんたちと暮らした家を離れたくなかったの。それに何よりもランドル爺さんがそれを是非としなかった。


だって私たちが一緒に住んでしまうとマリアおばさんの目があるから姉さんを好き勝手にすることはできなくなるでしょう?だから金銭的には工面するから兄弟で暮らしなさいって、それらしき理由をつけてマリアおばさんを無理やり納得させてしまったわ。



まぁ、姉さん自身、ランドル爺さんの娘であるマリアおばさんに実の父親であるランドル爺さんが孫の自分を犯していることを知られたくなかったし、罪悪感や恐怖から顔を見ることも避けたいくらいだったのだから、マリアおばさんと暮らすことは賛成しなかったわ。



もしこの『神への冒涜』をマリアおばさんに知られてしまって、祖父をたぶらかすいかがわしい淫魔、なんて言われた日には姉さんは狂って死んでしまったでしょうね。


マリアおばさんはそんなことを言わないって分かっているけど、それも絶対ではないわ。それに、自分の実の父親が孫を犯しているなんて知ったらマリアおばさんはどうなるの?マリアおばさんも心の病に侵されてしまうわ。



姉さんはそんな思いをするのは自分一人だけでいいと思っていたの。だから誰にも言わないで、ただじっと耐えていたわ。




私は姉さんを本当の意味で助けることができないから、川へ祈りを捧げることで姉さんの罪を洗い流そうとしたの。もちろん、姉さんは全く悪くなかったけれど、それでも姉さんが未婚なのに男に体を許してしまったこと、そしてそれが実の祖父だったということは、許されざるべきことで、いくら私が姉さんが悪くないといったところで、世間からみれば立派に罰せられるべきことだったの。


だから私はその日から毎日川へ行くことにしたの。



姉さんもそれを勿論気がついていたわ。

私が川へ行くようになったこと、そして川で何をしているのか、それを姉さんは分かっていた。


あの日、あの考えるのもおぞましい光景を目にした私は、気が動転して階段を大きな音を立てて降りたのだから、姉さんに私がそれを目にしたと知られるのは簡単なことだったの。けれど私たちはお互いにそれを口にすることはなかった。ランドル爺さんは姉さんに夢中になっていたからあんなにも大きな足音を立てていたにも関わらず私が覗いていたことには気がつかなかったでしょうけどね。



それで、なぜそのことが姉さんが私の部屋を掃除することになった原因かと言われると、ランドル爺さんが姉さんを組みしいたのが、私の部屋の、私のベッドの上だったからよ。



なぜランドル爺さんが私の部屋を選んだか、考えるのも馬鹿馬鹿しいほど簡単なことなのよ?



ランドル爺さんは、私の部屋で、その行為を行うことで、姉さんがより私への罪悪感を抱くようにしたの。


背徳に苛まれるように。


何よりも背徳者なのはランドル爺さんなのに、ランドル爺さんは姉さんこそが背徳者であるように振舞った。そして言うことを聞かないと、ここでお前にしたことと同じことをペチカにもするぞ、ってきっとそう言ったのよ。



だから姉さんは私を守るために抵抗することをしなかったの。




姉さんは、私の部屋に残る、忌々しいにおいやランドル爺さんの気配を消すために必死に掃除したの。なぜ7日に一度かと言うと、ランドル爺さんが家を訪ねてくるのがその頻度だったから。だからランドル爺さんが来た日は、私の部屋を姉さんは狂ったかのように掃除し続けた。



それはランドル爺さんが床に伏せるまで続いたわ。



ランドル爺さんが家を訪ねてくるときは姉さんは私にチロを連れて川へ行くように言った。あの光景を知るのは私と姉さんだけでいいと考えたから。姉さんは私を守ると同時に、チロ、あなたのことも必死で守ろうとしたの。だから姉さんは必要以上にあなたに近づかなかった。自分が近づくことであなたが穢れてしまうと感じたからよ。



姉さんはあなたを愛していたから、あなたを遠ざけた。そのことを知っていたから、私はあなたに姉さんの分まで愛情を注ごうと、あなたを愛したわ。私があなたを愛すれば愛するほど、姉さんは私を愛し、あなたを愛した。




姉さんが掃除をし続ける理由は、私の部屋で行われる残酷な行為の後を清めるため、そして私が死んでからは私が死んでしまったことを認めたくない姉さんが、私がまだいるということを自分自身に納得させるためなのよ。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ