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不変の部屋  作者: 瑞雨
40/50

40 ランドルと姉さんの秘密



姉さんとランドル爺さんの秘密だけれど、これはあなたが生まれる前の話よ。

私が8歳で、姉さんが11歳のとき。



その頃ランドル爺さんは度々家を訪れて、私たちに薬草やキノコの知識を与えてくれたわ。残念なことに姉さんに森の知識を理解するだけの才能はなくて、その変わり私はぐんぐんとその知識を吸収したわ。



姉さんは薬草やキノコを見分ける能力はなかったけれど、誰よりも優しくて、誰よりも美しくて、誰よりも家事が上手だったわ。


体の弱いお母さんを助けながら、そして私の面倒を見ながら姉さんはそのときほとんどすべての家事を行っていたの。お父さんは残念なことにあなたを身ごもっているときに死んでしまったわ。原因は過労。


私たち、貧乏だから、それは仕方がないことなのよ。そしてお母さんもあなたを生んですぐに死んでしまったの。元々体が弱かったし、出産に耐えられるだけの体力がなかったのよ。

だけどそれは決してあなたのせいで死んでしまったわけではないということを、私たちは何度もあなたに言ったでしょう?

だからお母さんが死んだのもお父さんが死んだのも誰のせいでもないのよ。


あぁ、話がそれてしまったわね。



なんだったかしら。


そうそう、姉さんの秘密ね。



ある日、いつもと同じようにランドル爺さんが家を訪ねてきたの。お母さんは出産が間近だからお父さんの妹であるマリアおばさんのところに身を寄せていたの。だから家には姉さんと私の二人だけだったわ。



その日はなぜかいつもと違って、ランドル爺さんはしきりに私に外で遊んでくるように指示したわ。私は不思議に思いながらも、ランドル爺さんの言葉に従ったの。



そして私ははじめて一人で森の中を歩いたわ。

森の中はとてもきらきらとしていて、とても美しかった。私はワンピースの裾が跳ねるのがおかしくてくるくると回りながら森の中をまるで踊るように駆けて行ったの。



そしたらそこには『神聖なる川』があったわ。


はじめて見るその川は、言葉にできないほど美しくて、私は自分の息をのむ音を聞いたくらいよ。

そこで夢中になって遊んだ。今では軽々と越えられる4つの石の上を、その時は石の上に乗るのにとても勇気がいったわ。けれど私は一生懸命、石の上を跳ねて、何度も川を渡りながら往復したの。



何度か繰り返したところで、私は姉さんにこの川を見てほしくなって、一度家に帰ろうと思った。姉さんにこの川を見せたら、姉さんは喜んでくれるだろう、頭を撫でて褒めてくれるかもしれない。そう思ったら楽しくなって、私は行きと同じようにぴょんぴょんと跳ねながら森を抜けて家へと向かった。



息を弾ませながら、家につくと、1階には誰もいなかったの。


それで私は二人が2階にいると思って、階段を上ったわ。下から3段目の階段がギシリと音をたてたとき、私はなぜか、それがとてもよくないことだと思ったの。


音を立ててはいけない、なぜかそう思ったわ。



そして、姉さんの部屋に行く前に、私は二人を見つけた。




うっすらと開いた扉の向こうには、思った通り二人がいた。

けれどその様子はとても考えていたこととは違っていた。



私は何が起こっていたのか理解できなかったの。



息を荒々しげにしているランドル爺さんの体の下で服を纏っていない姉さんが涙を流しながら横たわっていたわ。姉さんは虚ろな目で天井を見つめ、その目からただ静かに涙をこぼしているだけだった。そんな姉さんをランドル爺さんは厭らしい目で見て、恐ろしい笑みを携えて、皺だらけの手で姉さんの膨らみかけた胸をまさぐっていた。



私はその行為が何を示すものかその時は分からなかったけれど、ただそれをランドル爺さんと姉さんがするのは間違っていると感じていたし、とても恐ろしいものだとは理解したの。そしてその行為を姉さんは望んでいなかったということも分かったわ。



けれど私はその行為を止めるために部屋に入ることはできなかったし、飛び込んだところでどうしたらよいか分からなかった。ただただ足がすくんで動けなかった。



けれど、ひときわ大きな声でつんざくような悲鳴で姉さんが叫んだとき、私は姉さんがランドル爺さんに穢されてしまったことを悟ったの。



それを知った瞬間、私は急いで階段を駆け抜け、森を走り、川へと向かった。

そして、姉さんがとてもいけないことをされてしまったこと、姉さんが神様に嫌われてしまったのではないかと、そう思うととても悲しくて、必死に祈った。



どうか姉さんを助けて。

どうか姉さんを許して。

どうか姉さんを見放さないで。

姉さんは悪くないの。

悪いのはぜんぶあいつのせい。





私はこの時、川へ祈りを捧げなければいけない、それは一日も欠かしてはいけない、それが自分の役目だとはっきり感じたの。


そうすることで私は姉さんを助けることができるって、そう思った。







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