4 狩りの下手な青年
青年は川を渡った。
小さな川は4つの石がまるで道になっているかのように交互に並んでいる。その内の2つの石を踏めば簡単に渡れるくらいの小さな川だったけれど、青年は丁寧に一つずつ石を踏み、4つすべての石を使って川を渡った。
きれいな川だった。
汚れなどまるで知らないかのように澄みきった水が清らかに流れている。川底にある小さな石によって描かれる波紋がより川を神聖にみせた。
青年は腰を下ろし、手持ちの鞄を横に置くと、川をじっと眺めた。何かを探すように、何かを思い出すかのように、その端正な顔を保ったまま川を見た。
しばらく川を眺めていると、何かの視線を感じた。
野うさぎでもいるのだろうか。それならば捕まえて土産にしてもいい。久しぶりに会う姉に柔らかいうさぎの肉を使ったスープでも作ってあげようか。
そう考えて青年は川の向こうをじっとみた。
よくよく目をこらして見ればそこにいたのはうさぎではなく、十七、八になる少女だった。少女は青年が少女を見ていることに気がついていない。ただ木の陰から青年と川を見て何かを思案している。少女がいることに驚いた青年はじっとその少女の顔を見て思わず出そうになる言葉を飲み込んで声をかけた。
「・・・・っねぇ、・・っ、」
口をついて出そうな言葉と感情を咽の奥に流し込み、言葉を切った。
驚きながらも青年は少女が逃げ出さないように声をかける必要があった。だからできるだけ優しく声をかけた。少女は丸い大きな眼を開いたまま動かない。
「ねぇ・・・・・・君、」
なんと呼びかけたらよいのか分からず、ひどく弱弱しく情けない問いかけになったが、少女にとっては滝にでも打たれたかのような衝撃だったらしい。その小さな顔を青白く強張らせている。
青年は極力怖がらせないように優しげに笑みを作るが、どうやら失敗したようだった。少女は素早く体を回転させ走った。青年と少女の脚の長さは目に見えて違っていたので、すぐに追いかければ少女捕まえることはできたけれど、青年は追いかけなかった。追いかけて捕まえた途端に少女が消えてしまうのではないかと恐れたから。
何事も慎重にしなければいけないのだ。
うさぎを捕まえるのも少女に話しかけるのも。
青年はまだうさぎを捕まえるのが上手ではなかった。




