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不変の部屋  作者: 瑞雨
35/50

35 9年前の真実


9年前のあの日10歳だった僕と、21歳だったリオ姉さんはランドル爺さんのお見舞いに行ったんだ。


けれどペティ姉さんは行かなかった。川に行かないといけないから、って。



本当は僕も行きたくなかった。ペティ姉さんが行かないのなら、僕も行きたくなかった。僕はいつも姉さんと一緒にいたかったから。けれどリオ姉さんはそれを許さなかった。



嫌がる僕をペティ姉さんは、いつもみたいに優しく頭を撫でて、リオ姉さんの言う通りにするように言った。だから僕はリオ姉さんと一緒にランドル爺さんのお見舞いに行ったんだ。



姉さんはいつもランドル爺さんのお見舞いには行かなかった。そしてリオ姉さんはいつもそんなペティ姉さんを咎めていたけれど、本当はリオ姉さんが本気で怒ってはいないってことを僕は知っていたんだ。怒ったふりをしているけれど、何より、誰よりもペティ姉さんをランドル爺さんに近づけたくないって考えてたのはリオ姉さんだってことに僕は気づいていたんだよ。だから僕もランドル爺さんに近づきたくなかった。


けれど、リオ姉さんはいつも僕を置いていくことは良しとはしなかった。ランドル爺さんの見舞いに行くときは必ず僕を連れていった。



リオ姉さんは、僕とペティ姉さんが二人きりになるのを恐れていた。ペティ姉さんが、リオ姉さんの秘密を僕に話してしまうことを怖がっていたから。だからランドル爺さんの見舞いに行くときに、僕を必ず連れて行った。



姉さんと二人きりにさせないために。




リオ姉さんが、僕とペティ姉さんが二人きりで川へ行くことを許していたのは、ペティ姉さんが川をとても神聖なものだと考えていて、その川ではリオ姉さんの秘密を話すことは絶対にないと、そう確信していたから。だから川へ行くときは僕と姉さんを二人きりにさせてくれた。



そして、夜、天井の模様が恐くて眠れなかったときに、ペティ姉さんの部屋に行って一緒に寝ることも、リオ姉さんは黙認していた。ペティ姉さんの部屋でも絶対にリオ姉さんの秘密を話すことはないと、そう確信していたから。



リオ姉さんの秘密をペティ姉さんは知っていて、ペティ姉さんがリオ姉さんの秘密を知っていることをリオ姉さんは知っていた。そしてその秘密が僕に漏れることをリオ姉さんはとても怖がっていた。


僕はその時10歳で、まだまだ子どもだったから、口が軽い子どもがいつその秘密を周囲の人に漏らすかが不安だったんだ。だからリオ姉さんは必死でその秘密が漏れないようにしていた。




けれど、僕はその秘密を知っていた。



いや、それは本当ではないかな。僕はリオ姉さんが秘密をもっているということ、それを隠したいということ、その秘密はランドル爺さんに関係しているということを知っていた。でも詳しい内容は知らない。




ねぇ、姉さん知ってる?



10歳って大人から見たら小さな子供だけど、本当は大人が思っているよりもいろんなことを知っているんだ。10歳は大人が思っているよりも子供ではないんだよ。


だけど自分が思っているよりはずっと子供なんだ。


だから僕はリオ姉さんが秘密にしていることがあって、それを僕に知られまいとしていたことを知っていたんだ。その秘密が何かは知らなかったけどね。けれどリオ姉さんがそれを隠したがっていたことは知っていたし、それが誰かに知られるとまずいってことは分かっていた。だから僕は知らないふりをしていた。


きっと今でもリオ姉さんは僕が姉さんが秘密をもっていることを知っている、ということに気がついていないだろうね。




ペティ姉さんが死んだのは、僕とリオ姉さんがランドル爺さんのお見舞いに行った9年前のあの日。



お見舞いに行ったら、ランドル爺さんはもう死の淵をさまよっていた。もうすぐにでも死んでしまうだろうって状態。声も出せない状態のランドル爺さんをマリア叔母さんは悲しげに見つめていたけれど、僕とリオ姉さんはただそれを眺めていただけだった。リオ姉さんはマリアおばさんの前では悲しげな様子を見せていたけれど、マリアおばさんが見ていない時は、ランドル爺さんを破れた靴下を見るかのように無感情に眺めていた。




結局、ランドル爺さんは見舞いに来た僕らにたった一言も声をかけることもなく死んでしまった。そして、埋葬をするということが決まって、僕たちは一度家に帰ることにした。ランドル爺さんのお葬式にペティ姉さんが出るべきだとマリアおばさんが主張したから。だからいったん家に帰ってペティ姉さんを連れて、またマリアおばさんの元に出向く予定だったんだ。




だけど、僕たちがペティ姉さんに再び出会うことは叶わなかった。






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