3 私の部屋
私は私の方を見ようともしない姉さんを台所に残して、自分の部屋に入った。そしてベッドに腰かけるわけでもなくただ綺麗に掃除された部屋を眺めた。
何の変哲もないただの部屋。
ベッドがあって、勉強机があって、椅子がある。小さな本棚には本の代わりにブラシと小さな鏡が置いてある。あとはペンや日に当たって端が黄ばんだ紙やハンカチ、姉さんの編んでくれた毛糸の帽子と手袋、マフラーが乱雑に置いてある。そんなただの部屋。
『乱雑に』という言い方ってとっても素敵だと思わない?
私、綺麗に整頓されているというのはあまり好きではないの。
だって本棚に本が一分の隙もなく収まっていたり、手袋が綺麗に畳まれてしまってあるのってとても窮屈だと思うから。
本棚だからと言って本が入っていないといけないわけではないと思うし、季節ではないからと言って手袋が表に出ていてはいけないということはないと思う。
だから私はそれぞれが『あるべきところ』に『飾って』いる。姉さんからしてみれば片付いていない少し散らかった部屋らしいけれど、この部屋が一番あるべき姿に保っているのだから、たとえ本棚に本ではなくて帽子なんかが入っていても良いと思うの。
だってハンカチもブラシもマフラーもみんなそこにあるのがとても『自然』だわ。
そうそう、私の部屋は七日に一度姉さんがきれいに掃除する。窓を開け、埃を丁寧に拭きとり、シーツを洗い、太陽の匂いをつけ、皺一つなく伸ばす。私の部屋はいつも綺麗だった。
9年前、姉さんが私の部屋を掃除するようになってから私の部屋が汚れたことはない。私がこの部屋を汚すことはなかったし、他の誰かが私の部屋に入るわけでもなかった。七日に一度姉さんが掃除のために入る以外は。綺麗なままに保たなければいけないかのように姉さんはただ無心に掃除する。だから私は部屋を汚さないように慎重に行動しなければいけなかった。
例え私が乱暴に扱おうとそれを叱る人はいなかったけれど、それでも私は可哀想な姉さんのために部屋を綺麗にしておくべきだった。
ただ、姉さんは決して私の物を移動させることはなかった。
いつも小さな丸いテーブルの上に置いてある本を本棚に戻すことはしなかったし、出しっぱなしの羽ペンとゆるく蓋の空いたインク壺を片付けることもしなかった。部屋の隅に転がったクマのぬいぐるみを起こすことも、ベッドに置いてある片方だけの靴下も仕舞うことはしなかった。本棚にある手袋たちもいつもそこに収まっている。
まるで私のいた形跡を残すかのように掃除する姉さんを私は気に入らなかったけれど、私はそれを姉さんに言うことはなかったし、姉さんが私に片付けるように言うことはなかった。
姉さんは私を愛していたけれどそれと同時に強い憎しみを抱いていた。
そして私もそんな姉さんを愛し、
憎んだ。




