26 カンパニュラ
目が覚めると、外はもう真っ暗で、少し欠けた月がぼんやりと視界に映った。
リックはそろりとベッドから降り、花瓶に挿した1輪のカンパニュラを眺めた。
メリーにあげたカンパニュラは今頃どうしているだろうか。メリーが好きだと言ったカンパニュラは自分にとっても大切な思い出のある花だ。その花をメリーが好きだと言ったことは本当に嬉しかった。それと同時にカンパニュラをあの日持っていったことは間違いではなかったと確信した。
徐々に知っていく真実はまだ自分しか知っている者はいない。
このまま真実を知らずに過ごしている方がメリーは幸せなのだろうか。
メリーがメリーの姉に無視をされているのがなぜなのか、リックは知っている。知っているからこそその真実をメリーに話すべきか分からない。知っても知らなくてもメリーにとっては不幸なのかもしれない。けれど、このままずっと黙ったままで過ごすことはできないとリックには分かっていた。
「助けてよ・・・姉さん。もう、限界なんだ・・・」
リックは小さくため息を吐くと、部屋を出た。
少し古びた階段をゆっくりと降りる。どんなに気をつけて歩いても、下から3段目はぎしりと音を立てる。
「寝てたの?」
「うん・・・」
姉の言葉にのろのろと返事をかえし、椅子に座った。目の前にはスープやチーズが並んでいるが、寝起きのため食欲もわかず、スプーンを持ったままぼんやりと姉が食事する様子を眺めた。
「食べないの?」
「うーん、あんまりお腹空いてないから」
「スープだけでも飲んでおきなさい」
食べても食べなくてもよかったが、せっかく姉が作ったスープを残してしまうの憚られたので、塩味の薄い野菜スープをゆっくりと口に含んだ。
「ねぇ、姉さん」
「なぁに?」
「カンパニュラってさ・・・いつ咲くの?」
「カンパニュラ・・・?そうねぇ。春ごろかしら」
リックはメリーにカンパニュラをあげた時のことを思い出して、姉に尋ねた。カンパニュラを手にしたメリーは季節ではないとこぼした。だから今の時期にカンパニュラが咲いているのはおかしい、と。
「それがどうしたの?」
「いや、なんでもないよ」
姉の言葉を聞き、リックはメリーになんて伝えようか考えた。
メリーは重大な勘違いをしている。
リックの全てにおいて。
そしてメリー自身について――――――。