22 リックの正体
その日メリーは、いつものように川へ祈りを捧げ、3度石の上を往復した後、リックのことを考えていた。
リックは一体何者なのかしら。チロのことを知っているといって浮かれていたけれど、よく考えてみたら私、リックのことちっとも知らないわ。知っているのはお姉さんがいるということと、チロのことを知っているということ、年が19で私の一つ上だということ。
改めて考えるとリックのことをほとんど何も知らないことに気がついた。
チロはリックと会ったことがあるのよね。だとしたらどうして私に何も言ってくれなかったのかしら。
チロは何をするにもメリーの後をついてまわっていた。チロがリックと会っていたらメリーも絶対にリックと会っているはず。メリーはチロのことをなんでも知っていると自負していたし、メリー自身のこともチロにはなんでも教えていた。
もしかしたらチロはマリアおばさんのところに行ってからリックに会ったのかもしれないわ。
そう考えると辻褄が合う。自分の知らないところでリックと会っていたなら、メリーがリックを今まで知らなかったことも納得がいく。きっとチロはメリーのことも話していたのだろう。ただ疑問なのは10歳のチロと19歳のリックが一体どうして出会ったのか。次にリックに出会ったら、チロとどうやって出会ったのかを聞こう、そう決めた。
今はまだ日が昇りきっていないし、リックはいつも太陽が真南を通り過ぎてから川に来る。それはメリーがリックがここに来るのを許した時から毎日続いている。先日は珍しく朝から訪ねていたが、それ以降はそれまで通り昼を過ぎてから来ている。そしてぽつぽつと話をしてさよならをする。話の内容はチロのことであったり、メリーの森の友達であるキノコや木々、薬草についてだったり。考えてみればいつもメリーが話していた。
今日はリックのことを聞こう。
そう決めたらなんだかメリーは楽しくなってきた。
鼻歌まで歌いそうになりながらくるくるとスカートを翻して川を渡った。時折近づいてくる鳥に話しかけ、キノコに微笑む。川が太陽の光を受けてキラキラと光る様子を眺めながらリックを待った。
けれどその日リックは神聖なる川には来なかった。