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不変の部屋  作者: 瑞雨
16/50

16 小さなチロの姉




青年は家路につきながら、思案した。



初めて会ったときは、脅える野兎のような少女が、今では警戒心を減少させた猫のようだった。つかず離れずの関係。特にたいした話はしないが、少女と話す時間はとても楽しく、温かかった。かつて姉と過ごした時間のような優しいぬくもり。他愛無い話だけれど、それが青年の心をいやすには十分だった。



あぁ、だけどそれも今回までだ。



青年は気づいてしまった。




『小さなチロ』があの少女の弟だということに。


いや、少女がチロの姉だということに気が付いた、と言う方が正しいかもしれない。




本当はあの日、初めて会ったときから少女が誰か分かっていた。


小さなチロの姉だということを知っていた。けれど信じたくない気持ちが大きかった。罪悪感に苛まれ、少女がチロの姉だということに気づかないふりをしていた。箱のふたを閉めるかのように。


けれど、少女の口からチロという名を聞いたその瞬間、あっけなくふたは開けられてしまった。少女の手によって。


そして少女は知ってしまった。少女の求めるチロがもういないということに。




気づかない方が幸せだったのかもしれない。


少女にとって小さなチロが胸の中で生き続けているのならば、真実を知らない方が少女にとっては幸せなのかもしれない。もう今までのように少女に振舞うことはできないだろう。


だが、まだすべてを知るには早すぎる。


少女は気が付いていない。




青年がすっかりすべての真実を話していないということを。






「姉さん、ついに見つけたよ」




小さなチロの大切な姉を。





青年は家にいる姉に報告するかのように一人、小さくつぶやいた。




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