15 姉さんの秘密
目の前の青年からチロの死を知らされた私はなぜかチロの死よりも、私からチロを取り上げてしまった姉さんへの、怒りの方が強いことに気がついた。
死んでもなお、チロを私に会わせないだなんて、まるで悪魔のような姉さん。
あぁ、可愛いそうなチロ。あんなにも私を慕ってくれていたのに、私を見ることもなくいなくなってしまった。
チロの喜びよりも自分のために私とチロを会わせなかった姉さんに憎しみと悲しみがこみ上げる。
どうして、どうしてそこまで私を排除するの。
確かにランドル爺さんの元に行かなかったのは私だわ。日に日に弱っていくランドル爺さんの見舞いに行かなかったのはあの日が初めてではなかった。それは姉さんだって分かってたはず。
だってまさかランドル爺さんが死ぬだなんて思わなかったんだもの。
あの時も今も私にとって一番優先すべきものは『神聖なる川』だと知っていたくせに、なのに川をとる私を姉さんが怒るなんて理解ができない。私がランドル爺さんの死を悲しんでいないとでも思っているの?そんなわけないじゃない。確かにランドル爺さんが死んでしまったのは悲しいわ。
だけど、姉さんが私からチロをとりあげる理由にはならないはずよ!
怒りにまかせて髪をかきむしろうとしたけれど、ふとある考えが頭にぽつりと浮かんだ。そしたらなんだか笑いがこぼれる。
「・・・・・ふふ」
あぁ、違うわ。
そうではないわ。そう、私知っているわ。姉さんはランドル爺さんの死に目に私がランドル爺さんよりも川をとったことを理由に怒ったふりをしているけれど、そんなの違うってことを。
本当は姉さんはランドル爺さんが死んだことを心の底から喜んでいる。
けれどそれを隠して悲しみに暮れる健気な婦人を演じている。私はそれを知ってはいるけれど決して口にはしない。だって私も姉さんほどではないけれど、ランドル爺さんが死んでしまったことに対してほっとしているから。
けれど姉さんは私がそれを指摘すると思って怖がっている。
なぜなら私がそれを口にしてしまうと、姉さんは人には知られたくない秘密が外に漏れてしまうのだもの。
姉さんは私がその秘密を知らないと思っているでしょうけど、私知っているわ。だから姉さんは自分の秘密が漏れることを恐れて、悲しむふりをして私に怒りをぶつけた。そして小さなチロがいつその秘密を知るか分からないからチロをランドル爺さんの娘であるマリア叔母さんのところにやってしまったんだわ。
そして可哀想なチロは寂しさのあまり死んでしまったのね。
あぁ、なんて可哀想なチロ。
なんて可哀想な、
姉さん。
私は、私をいないものとして扱う姉さんを憎んでいるけれど、それと同時に憐れみさえ覚えている。私は絶対に姉さんの秘密をばらすようなことはしないのに、勝手に脅えて、勝手に遠ざけて、勝手に壊れていくのだから。
あぁ、なんて忌々しい。
私を蔑ろにする姉さんも、姉さんをそんな風にしてしまったランドル爺さんも。
それから何も話さないまますっかり日も暮れて、私はいつも通り青年と別れた。
私が先に帰り、彼が後から帰る。もう何回も繰り返したこの行為はすでに私の日常と化している。彼と初めて会ったあの日から何日経っただろう。
私は最近すっかり日の感覚がなくなっている。
まったく困らないからいいのだけど。
朝と夜が分かればそれでいい。
それに姉さんが7日に一度掃除をするから、それで7日が経ったということが分かる。
それだけでいい。