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episode8

♂ハヤト

マナトとマヤの義理の兄 イケメン サッカー部

♂マナト

マヤの双子の弟でハヤトは義理の兄 霊媒co

︎︎ ♀マヤ

マナトの双子の姉 占いco 人狼と自白する

×ソウタ

シュウの親友 占いco

♂シュウ

やや褐色肌イケメンでソウタの親友

×ゲンジ

フィットネス部 二日目吊り

︎︎ ︎︎×ナツキ

褐色肌のギャル 最初の犠牲者

︎︎ ×ユミ

肌白ロング ナツキの友人

♂ケイスケ

空手部 熱血系

×リク

生徒会長のインテリメガネ 霊媒co 二日目襲撃

×サクマ

金髪ヤンキー 最初に襲撃に会う

︎︎ ♀マリン

サクマの彼女

episode8


食堂に残った空気は、すでに張りつめていた。

誰かが嘘をついている、という段階はとうに過ぎている。

今ここにいる全員が理解しているのは――誰が敵で、誰がもう戻れない場所に立っているかだった。


マヤが、一歩前に出る。


その表情に、迷いはなかった。

だが同時に、どこか「役目を終えた人間」の静けさが滲んでいた。


「正真正銘、私は偽物の占い師」


一拍置いて、はっきりと言う。


「つまり、人狼」


言葉が落ちた瞬間、

空気が破裂する。


「ひ……人殺し!!」


マリンの叫びは、恐怖と怒りが混ざりきった声だった。


「ソウタを返せ!!」


シュウの声は裏返り、感情の行き場を失っている。


誰かが泣き、誰かが叫び、誰かが一歩前に出ようとする。

だが、その全てを制するように、ハヤトが前へ出た。


「……やめろ」


低い声。

感情を押し殺した、硬い声音だった。


「マヤだって、殺したくて殺したわけじゃない」


「じゃあ……!」


シュウが噛みつく。


「じゃあ、なんでソウタだったんだよ!!」


その問いに、マヤは目を逸らさなかった。


「だって、このままじゃ」


淡々と、残酷なほどに冷静に。


「残ったもう一人の人狼が、可哀想でしょ」


一瞬、意味を理解できなかった沈黙が落ちる。


「……は?」


シュウの喉から、間の抜けた音が漏れた。


「人狼でも、最後まで抗う権利はある」


マヤは続ける。


「飽くまで、残った人狼に“少しでも可能性を残す”ため」


それは論理だった。

人狼として、最も正しい判断。


「そんな……」


マナトの声が、掠れながら割り込んだ。

喉が震え、言葉が形になるまでに一拍かかる。


「おねえちゃん……どうして……」


責める声じゃない。

理解しようとして、できなくて、

それでも答えを求めてしまった声だった。


マヤは、ほんの一瞬だけマナトを見る。


その視線は短く、

けれど、はっきりと“線を引く”ものだった。


「どうしてって」


小さく肩をすくめる。


「だから、人狼を引いちゃったからでしょ」


あまりにも軽い言い方。

感情を削ぎ落とした、その一言が、

かえって残酷に響いた。


マナトは、それ以上何も言えなかった。


言葉が消え、

代わりに、身体が反応する。


無意識に、

ハヤトの袖を掴んでいた。


指先に力が入り、

布を握りしめる。


「ねぇ……お兄ちゃん……」


助けを求める声だった。

けれど同時に、

もう答えが分かっている声音でもあった。


ハヤトは、言葉を選べなかった。


否定も、慰めも、

今のマナトには届かないと分かっていた。


だから、

ただ抱き寄せる。


腕を回し、

確かにそこにいると伝える。


それ以上は、できなかった。


「大丈夫」


低く、近い距離で囁く。


「俺は、マナトから離れない」


一瞬、マナトの肩が震える。


「……う、うん……」


声は小さい。

泣き叫ぶほど壊れてはいない。


それでも、

必死に涙を堪えようとする姿が、

逆に痛々しかった。



「つ、つまり……」


空気に耐えきれなくなったように、

マリンが恐る恐る口を開く。


「今日は……マヤを吊ればいいだけってこと……?」


言葉にした瞬間、

自分でも冷酷さに気づいたのか、

語尾が弱くなる。


「待て」


ケイスケが即座に遮った。


「本当に、それで終わりなのか?」


視線を巡らせるが、

返ってくるのは沈黙だけだ。


「この段階で」


シュウが、低く吐き出すように言う。


「他の可能性なんて、考えられるか?」


怒りと疲労が、声に滲んでいた。

もう疑う力も、探る気力も残っていない。


「……そうだな」


ケイスケは、短く頷いた。


抵抗を諦めたように。


「すまん」


その一言で、

場の流れは完全に固定された。


議論は、もう存在していなかった。

選択肢も、残っていない。


そこにあるのは、

ただ一つの結論だけだった。


「……ごめんね」


マヤが言った。


ほんの少しだけ、

これまでより柔らかい声だった。


「お兄ちゃん、マナト」


名前を呼ぶ声音に、

わずかな躊躇が混じっている。


その目は、

どこか遠くを見ているようで、

同時に“今ここで終わること”を受け入れている目だった。


「どうして謝るんだよ」


ハヤトは、即座に返す。

考えるより先に、言葉が出た。


「ずっと、騙してたから」


マヤは、視線を逸らさずに言う。


言い訳も、言葉の飾りもない。

事実だけを並べた声だった。


「それは、自分が生き残るためにやったことだろ」


ハヤトの声は、揺れない。


善悪を測る調子じゃない。

“当然の判断”として受け止めている言い方だった。


「……そうだね」


マヤは、小さく笑う。


自嘲とも、安堵とも取れる、

曖昧な笑み。


「お兄ちゃんは、ほんとお兄ちゃんだ」


その言葉に、

皮肉はない。


ただ、

自分には辿り着けなかった立ち位置を、

静かに見上げているだけだった。


一瞬、沈黙が落ちる。


その沈黙を破るように、

マヤが続ける。


「ベストは……尽くせた、かな」


語尾が、わずかに落ちる。


断言しきれない言い方。

自分自身に問いかけるような、

そんな余白を残した声だった。


その一言で、

ハヤトの眉が、ほんのわずかに動く。


違和感。


言葉にするほどではないが、

胸の奥に、小さな棘が残る。


――“尽くせた、かな”。


マヤがそんな言い方をするのは、

あまりにも珍しかった。


「投票は、夜だ」


ハヤトが言う。


声は落ち着いていて、

意識的に場を現実へ引き戻す響きだった。


「シュウ、ケイスケ、マリン」


一人ずつ、視線を向ける。


「最後に、家族三人で過ごさせてくれ」


命令ではない。

だが、拒む理由もない言い方だった。


一拍。


「……ああ」


シュウは目を伏せたまま答える。


そこには、

疲労と、諦めだけが残っていた。


「もちろんだ」


ケイスケも、短く頷く。


多くを語らない。

けれど、それで十分だった。


三人は、その場を離れる。


残された空気の中で、

ハヤトの中にだけ、

さきほどの違和感が、まだ消えずに残っていた。


三人きりの空間。


扉が閉まった瞬間、

外の気配は完全に遮断された。


足音も、声も、遠ざかる気配すらない。

ここにはただ、兄と、妹と、弟だけが残された。


マナトは胸の前で指を絡め、

縋るように視線を落としたまま、口を開く。


「……ほんとに、人狼なの?」


声は小さく、震えていた。

否定してほしいわけじゃない。

それでも、もう一度だけ確かめずにはいられなかった。


「そうだよ」


マヤは即答した。


間も、迷いもない。

感情を挟まない、事実だけの声音だった。


「ごめんね、マナト」


名前を呼ばれた瞬間、

マナトの肩がわずかに揺れる。


「一緒に……帰れないの?」


自分でも無謀だと分かっている。

それでも、口に出さなければ終われなかった。


「うん」


マヤは目を逸らさず、はっきりと言う。


「残念だけどね」


優しさでも、冷酷さでもない。

それはただ、覆らない現実だった。


沈黙が落ちる。


その空白に、ハヤトが静かに割り込む。


「マヤ」


呼ばれて、

マヤは自然に微笑んだ。


昔から変わらない、兄を見るときの顔。


「さっき言ってた言葉だ」


ハヤトは続ける。


「“ベストは尽くせたかな”って」


「うん、それがなに?」


マヤは首を傾げる。

本当に分からない、という仕草だった。


「マヤは」


ハヤトの声は低く、落ち着いている。


「やると決めたら、迷わない」


評価ではない。

兄として、ずっと見てきた事実の確認だった。


「だから、違和感があった」


視線を逸らさず、言う。


「人狼ゲームが始まってから、ずっとだ」


マヤは小さく笑った。


兄が何を言いたいのか、もう分かっている。


「……命がかかってるんだからさ」


肩をすくめる。


「動揺するのは、当たり前でしょ」


「最初は、俺もそう思った」


ハヤトは一歩、踏み込む。

距離ではなく、言葉の深さを。


「でもな」


一拍。


「俺とマナト、ずっと噛まれなかった」


その瞬間。


マヤの視線が、ほんの一瞬だけ揺れた。


「それ、本当に運だけか?」


短い沈黙。


だが、逃げ場のない沈黙だった。


マナトは息を詰め、

二人を交互に見つめる。


「マヤが」


ハヤトは続ける。


「裏で、他の人狼を誘導してたんじゃないかって」


言葉を選びながらも、もう引かない。


「俺は、そう思った」


マヤは、ゆっくり息を吐いた。


「……買いかぶりすぎだよ、お兄ちゃん」


軽く言うが、

否定の力は弱かった。


「そうか」


ハヤトは、それ以上追及しない。


「でも」


マヤは兄の顔を覗き込むように、

少し上目遣いで微笑む。


昔と同じ仕草。

けれど、目だけが違った。


「あながち、間違ってもないかもね」


その言葉に、

息を呑んだのはハヤトではなくマナトだった。


喉が鳴る音が、やけに大きく響く。


「……本当、なの?」


マナトの声は震えている。

期待と恐怖が、同時に滲んでいた。


マヤは、ゆっくり頷く。


「でもね」


すぐに言葉を重ねる。


弟を誤解させないために。


「それは、優しさじゃない」


逃がさない視線で、マナトを見る。


「お兄ちゃんたちを生かした方が」


一拍。


「私の生存率が上がるって判断しただけ」


冷静な分析。

人狼としての思考。


声を、ほんの少し落とす。


「守ってたわけじゃない」


マナトの胸が、きつく締め付けられる。


「……おねえちゃん」


声は掠れ、

それ以上、言葉にならなかった。


「〝だから〟」


マヤは最後に微笑む。


それは、

弱い弟の背中を押すための、

役割を終える人狼の顔だった。


「〝勘違いしないで〟」


柔らかく、

だがはっきりと、強く。


「私は、最後まで人狼だっただけ」


その言葉が、

三人の時間に静かな終止符を打つ。


マヤは振り返らない。


扉を開け、

静かに外へ出ていく。


足音が遠ざかり、

やがて完全に消えた。


残されたのは、

マナトとハヤトだけ。


マナトは、しばらく動けなかった。


胸の奥に残った感情は、

名前を持たないまま沈んでいく。


ハヤトは何も言わず、

そっとマナトを強く、優しく抱きしめた。


答えは、もう出ていた。


マナトは、

堪えていたものが一気に崩れたように泣いた。


ハヤトの腕に顔を埋め、

声を殺しながら、壊れたように。


ハヤトは抱きしめる力を強め、

啜るように、たった一粒の涙を

マナトの肩に落とした。


episode9も明日の20時更新

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