episode4
♂ハヤト
マナトとマヤの義理の兄 イケメン サッカー部
♂マナト
マヤの双子の弟でハヤトは義理の兄
︎︎ ♀マヤ
マナトの双子の姉 占いco
♂ソウタ
シュウの親友 占いco
♂シュウ
やや褐色肌イケメンでソウタの親友
♂ゲンジ
フィットネス部
︎︎ ︎︎×ナツキ
褐色肌のギャル 最初の犠牲者
︎︎ ♀ユミ
肌白ロング ナツキの友人
♂ケイスケ
空手部 熱血系
♂リク
生徒会長のインテリメガネ 霊媒co
×サクマ
金髪ヤンキー 最初に襲撃に会う
︎︎ ♀マリン
サクマの彼女
episode4
二回目の投票会議が始まる。
多目的室へ向かう廊下は、昨日よりも静かだった。
足音が反響しないよう、誰も無意識に歩幅を小さくしている。
扉を押し開けると、円陣に並べられた椅子が目に入った。
——二つ、足りない。
空席は自然に視界へ入ってくるのに、
誰もそこを見続けようとしない。
椅子に腰を下ろすたび、金属が床に触れる小さな音が、
やけに耳についた。
「……ふん」
リクが短く息を漏らす。
口角はわずかに上がっているが、目は笑っていない。
「私たち以外に、どうやら誰かがいるようです」
誰も返さない。
その言葉が示す意味を、全員が理解していた。
「ったく、何が目的なんだ」
ソウタは背もたれに体を預け、
天井を一瞬だけ見上げてから視線を戻す。
「今そんな事を考えていても、まぁ意味はありませんね」
リクは首を傾け、
円陣をゆっくり見回した。
「二回目の投票会議……始めるか」
ハヤトの声は低く、
昨日よりも短かった。
「そうですね」
リクが応じる。
沈黙が落ちる。
誰かが喉を鳴らし、
誰かが足先の位置を直す。
その中で、
最初に口を開いたのはゲンジだった。
「……今日の犠牲者って、サクマさんでしたよね……」
ゲンジは両膝に手を置き、
指先を落ち着きなく動かしている。
視線は上がらない。
「マリンさんの彼氏の……これって、マリンさんが恋人をあえて襲撃して……白を偽ってるとか……か、考えられないですか?」
言い終えた直後、
室内の空気が一段、沈んだ。
「待、待って」
マリンが椅子から半分立ち上がり、
すぐに腰を下ろす。
「あんた、何言ってんの?」
「それは可能性としてはありますね」
リクは即座に拾う。
声色は一定で、感情の揺れがない。
「おかしい、おかしいって!」
マリンは両手を振り、
円陣の中心を見回す。
「そんなことするわけないじゃん!」
「……ん?」
ケイスケが眉を寄せ、
視線を泳がせる。
「でも昨日、ハヤトが最も怪しいのはマリンだって」
ソウタは背中を起こし、
円陣の内側へ体を向ける。
「つまり昨日、疑われてたから恋人をやったってことか?」
「い、いったんストップ!」
マリンは掌を前に突き出す。
「落ち着いて! さすがにそれは、ない!」
「確かに昨日、俺はそう言った」
ハヤトは椅子に座ったまま、
上半身だけを前に倒した。
「だが、そんな単純な話だとは今は思ってない」
「というと?」
リクが静かに促す。
「俺はな」
ハヤトは視線をゲンジに向ける。
「見た目に反して内気なゲンジが、急に誰かを落とすような発言をし始めたのが気になってる」
ゲンジの肩がわずかに跳ねる。
「……まるで誰かに命令されたみたい」
マナトの声は小さく、
だが円陣の中央まで届いた。
「あ、そうだな。マナト」
ハヤトは一度だけ頷く。
「な、何言ってんだ!」
ゲンジが顔を上げる。
声が裏返る。
「ただ俺が彼女の立場なら、そうしかねないって思っただけだ!」
「嘘でしょ」
ユミが鼻で笑う。
視線はゲンジから外さない。
「男のくせにヘタレね」
「そ、そうだよ……」
ゲンジは視線を逸らし、
何度も瞬きをする。
「ハヤトは、マリンを庇ってるでいい?」
シュウが、
背筋を伸ばしたまま言う。
「そういう訳でもない」
ハヤトは即答した。
「昨日、ハヤトさんはマリンさんにヘイトを向けていた」
リクが淡々と続ける。
「しかも完全に落とす勢いで。初日の連携が取れない中での人狼同士のブラフとしては、リスクが高すぎる。考えづらいです」
「ん? じゃあどうすんだよ」
ソウタが短く息を吐く。
「誰なんだよ」
「しょーみ」
マリンが体を前に乗り出す。
「私はそこの双子の弟なんじゃないかと思ってる。初日からなんも話しやしない」
「ほう?」
リクが目を細める。
「言われてみれば確かに」
ソウタが首輪に指をかけ、
無意識に擦る。
「人狼なら目立ちたくないはず」
シュウが低く付け足す。
「え……ぼ、僕は……」
マナトは膝の上で手を強く握り、
指先が白くなる。
「マナトは人見知りなんだ」
ハヤトははっきりと言い切る。
「この状況で前に出られる性格じゃない」
一拍。
「それに、マナトは姉に占われている」
「その妹さんが本物の占い師って根拠は?」
マリンが食い下がる。
「義理の兄弟揃って、あんたを騙してる可能性は?」
「その通りだな」
ソウタが短く頷く。
ハヤトは、ゆっくり立ち上がった。
椅子が床を擦る音が、室内に響く。
一歩。
また一歩。
マリンとの距離が、急速に縮まる。
「妹が本物かどうか、確かに根拠はない」
声は低く、抑えられている。
「だが二日目で情報が少ない中、白の可能性があるマナトを吊るより、そうでないグレーを吊るのがセオリーだ」
さらに半歩。
「兄弟票で三。人狼が三残ってる。六票だ」
見下ろす位置になる。
「今日、お前を吊ることもできる。少し黙ってろ」
マリンは言葉を失い、
視線を逸らした。
「ククク……」
リクの喉が鳴る。
笑い声というより、息が漏れただけの音だった。
椅子に深く腰を沈め、背中を預ける。
円陣の外側から、場全体を見下ろすような姿勢。
「すごい頭の回転ですね、ハヤトくん。君は強者です」
言葉とは裏腹に、拍手はない。
視線だけが、ハヤトに絡みつく。
「時間が少なくなってきたぞ」
ソウタが、首元の装置に触れかけ、
途中で思い直したように手を下ろす。
モニターへ目をやるが、
まだ数字は表示されていない。
「どうする?」
誰に向けたとも取れる問い。
円陣の中央に、沈黙が落ちる。
「俺さ」
シュウが、背もたれから体を離す。
肘を膝に置き、前屈みになる。
視線は床、声は低い。
「正直言うと、今日はマリンかゲンジな気がする」
言い切った瞬間、
マリンが小さく息を詰める。
ゲンジの指が、膝の上で強く絡む。
「な、なぜだ?」
ゲンジの声が上擦る。
円陣の内側へ身を乗り出しかけ、
すぐに椅子に押し戻される。
シュウは顔を上げた。
「ゲンジ、お前の言い分も分かる。でも」
言葉を切る。
その一拍が、やけに長い。
「優しいお前が、急に誰かを陥れようとするのは、やっぱおかしい」
ゲンジの喉が鳴る。
唇が動くが、声にならない。
「完全に割れましたね」
リクが、淡々と告げる。
指先で椅子の縁をなぞり、
もう一度、円陣を見回す。
「あーーもう、頭が割れそうだ!」
ケイスケが前屈みになり、
両手で顔を覆う。
肘が膝に当たり、
小さく震える。
「私じゃない!」
マリンが叫ぶ。
声が反響し、
自分の耳にも刺さったのか、一瞬だけ目を伏せる。
「ゲンジ、あんたよ! 人狼は!」
指は差さない。
だが、視線が一直線に突き刺さる。
「悪いが、俺はゲンジに入れる」
ハヤトが言い切る。
ただ、彼の言葉が場を制圧する。
「ま、待て! 俺じゃない!」
ゲンジは立ち上がりかけ、
椅子の縁を掴んで踏みとどまる。
呼吸が早い。
「マナト、分かるな」
「……うん」
マナトは視線を上げず、
小さく頷く。
「マヤ」
「分かったよ。否定する理由はないし」
マヤは淡々と答える。
声に揺れはない。
視線も動かない。
「お、お前ら……」
ゲンジの声が掠れる。
肩が落ち、
背中が丸まる。
「兄弟は強いね」
リクが静かに言った。
感心でも皮肉でもない、
事実の確認のような口調。
「もう四票。この場には十人しかいない。仕方ありません」
その言葉が落ちた瞬間、
室内の照明が一段明るく感じられた。
モニターが、
無音で点灯した。
白い光が、多目的室の中央を照らす。
誰も瞬きをしない。
投票まで残り10秒です。
機械音声が、感情なく響いた。
10
ケイスケの肩が跳ねる。
視線が定まらず、
円陣の内側をぐるりと彷徨う。
「どうすんだこれ!」
声が裏返る。
9
ゲンジが首を振る。
左右ではなく、
何度も、細かく。
「お、俺じゃない」
8
ハヤトは視線を逸らさない。
ただ一言。
「俺はお前に入れる」
声に迷いはない。
7
シュウが息を吐く。
一瞬だけ目を閉じ、
そして開く。
「悪いけど俺も、ソウタ」
ソウタが小さく舌打ちする。
「あーもう分かったよ」
肩をすくめ、
視線を床に落とす。
6
リクが口を開く。
淡々と、事務的に。
「決まりですね」
5
ゲンジの呼吸が荒くなる。
胸が上下し、
唇が震える。
「……い、いやだぁ、死にたくない」
4
声が掠れ、
ほとんど泣き声になる。
「俺筋トレしかしてこなかったんだ」
3
マリンが叫ぶ。
「だからなに!?」
声が室内に反響し、
すぐに消える。
2
ゲンジの視線が宙を彷徨う。
「こんなことなるなら、もっと、、」
言葉が途切れる。
1
「もっと色んなことすればよかった……ぁぁ」
声が細く、
床に落ちる。
0
モニターの表示が切り替わる。
投票の結果、最も票を集めたのはゲンジでした。
それでは皆さんの手で殺害してください。
一拍。
誰も、動かない。
「……く、くるな」
ゲンジが後ずさる。
椅子に足が引っかかり、
よろめく。
「この巨体を僕たちの手でですか」
リクが、冷静に言う。
「……私やろうか」
マヤが一歩、前に出る。
視線は、まっすぐゲンジへ。
「おいおい、ハヤト……お前の妹狂ってんな」
ソウタが、思わず吐き捨てる。
「やめろ…くるな」
ゲンジが両手を前に出す。
「取り押さえて、私が斧で昨日みたいに」
マヤの声は低い。
昨日と同じ調子。
「お、俺を取り押さえられるやついないだろ」
ゲンジが叫ぶ。
「それ以前に誰かを殺す勇気なんてねーよ」
シュウが、視線を逸らす。
「マナト、少し離れるね」
ハヤトが言う。
「うん。」
マナトは、
小さく頷くだけだった。
「悪いな、ゲンジ。5分以内に済まさないといけないから、仕方ないと思ってくれ」
その瞬間。
ハヤトが踏み込む。
言い終わるより早く、
ハヤトの重心が前に落ちた。
助走はない。
一歩目で、すでに間合いの中に入っている。
ゲンジが反射的に腕を上げた瞬間、
ハヤトの肩がゲンジの腹部に突き刺さった。
鈍い衝撃。
空気が、
ゲンジの肺から一気に押し出される。
「――っ!」
声にならない音。
ハヤトは止まらない。
腰に手を回し、
太腿の裏に指を掛ける。
持ち上げて崩した。
巨体が一瞬、宙に浮き、
次の瞬間、背中から床に叩きつけられる。
ドン、
という低い音が、
床から多目的室全体に広がった。
ゲンジの頭が遅れて落ち、
後頭部が床に強く打ち付けられる。
ガン、と短い音。
視界が揺れたのか、
ゲンジの目が焦点を失う。
ハヤトは間を置かない。
すぐに跨がり、
両膝でゲンジの脇を固定する。
逃げ道を塞ぐ形。
ゲンジが腕を振り上げようとするが、
肘が上がらない。
ハヤトの体重が、
完全に乗っている。
拳が振り下ろされる。
一発目は、
頬骨の下。
肉が歪み、
首が横に流れる。
二発目。
顎。
歯が噛み合わず、
頭が床に打ち付けられる。
三発目。
鼻梁。
潰れる音。
ゲンジの指が、
床を掻く。
力任せに押し返そうとするが、
腕に力が入らない。
呼吸が、
短く、浅くなる。
ハヤトは、
殴る位置をずらし続ける。
同じ場所を叩かない。
意識を飛ばすための打ち方。
四発目。
五発目。
拳が赤く染まり、
床に血が散る。
ゲンジの抵抗が、
はっきりと弱くなる。
腕が落ち、
脚の動きが止まる。
それでも、
ハヤトは止めない。
最後の一撃。
拳を振り上げ、
真下に落とす。
ゲンジの体が、
小さく跳ねた。
次の瞬間、
完全に力が抜ける。
呼吸音が、
聞こえなくなる。
ハヤトは、
しばらくそのまま跨がっていた。
拳を握ったまま、
肩で息をする。
数秒後、
ゆっくりと立ち上がる。
拳を開くと、
指の隙間から血が滴った。
「……なんて力技」
リクが、静かに呟く。
「格闘技を……?」
ケイスケの声が震える。
ハヤトは、
ゆっくり立ち上がる。
「…………はぁ、、、妹の手を汚させてしまった。兄失格だろ。もうそんなことはさせたくないだけだ」
拳を開き、
深く息を吐く。
「……私はあなたを誇りに思います」
リクが言う。
「マヤさん、昨日は引いた目で見てしまってすみませんでした」
「……別にかまわない」
マヤは、
一度だけ視線を落とした。
こうして、
人狼ゲーム三人目の犠牲者が現れることになった。




