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episode10

いよいよ最終回です。

episode10


声にならない嗚咽。


「……離れないって……言ったじゃん……」


ハヤトの胸元を握りしめて、涙が頬を伝う。


そのときだった。


指先に、わずかな違和感が走る。


――引かれた?


本当に一瞬。

気のせいだと言われれば、そうかもしれない程度。


マナトは、涙を止める。


「……?」


兄の目元をじっと見つめる。

眉がほんの少しだけ動いたように見えた。


確かめるように首元にそっと手を置いた。


――あたたかい。


「……あ」


その瞬間、胸の奥で何かがすとんと落ちた。


息を止めて、耳を澄ます。


すぅ。

はぁ。


規則正しい確かな呼吸の音がある。


「……そっか」


声は、驚くほど落ち着いていた。


「……寝てた、、だけ」


ほっと息をつく。

ただ、起きていないだけだった。


「……もう」


自分に向けて、苦笑する。


「びっくりさせないでよ……」


マナトは、頬を兄の胸に当てた、


ハヤトの左手が自然とマナトの頭にのる。


「……ほっとけば、そのうち起きるよね」


涙は、もう止まっている。


怖かったのは事実だ。

一瞬、最悪の想像をしてしまったのも事実。


けれど、

それ以上でも、それ以下でもない。


「……約束してくれたもんね」


小さく呟く。


ハヤトの胸が、ゆっくり上下する。

その動きに合わせるように、

マナトの呼吸も整っていく。


しばらくして。


「……ん……」


掠れた声。


夢と現実の境目で、

喉が鳴る音。


「……あ」


マナトは顔を上げる。


ハヤトの眉が、わずかに動いた。


「……まだ、寝てていいよ」


そう言って、

マナトは兄の手を軽く握る。


「……腹、、減った」


こんな時でも、腹が減ると言える兄の強さに、マナトは胸が緩んだ。




食堂には、シュウ、ケイスケ、マリンの三人が揃っていた。


朝の光は弱く、曇った窓越しにぼんやりと差し込んでいる。


誰かが無理に動かした形跡もない。


――誰一人、欠けていない。


その事実が、

視界に入った瞬間に理解ができた。


「……これって……」


口を開いたものの、

言葉の続きを探す前に、喉が詰まった。


横で、ハヤトが小さく息を吐いた。


それは溜め込んでいた空気を、

ようやく外に出せた人間の吐息だった。


「……良かった……」


重い安堵だった。


ケイスケが椅子に深く体重を預けたまま、低く言った。


「あぁ犠牲者はいない」


それは報告ではない。

現実を、現実として受け止めるための言葉だった。


「……ってことは」


シュウが、視線を持ち上げる。


目の奥には、期待と警戒が混じっている。


「騎士が、まだ生きてるってことだな」


一瞬の静寂。


「え、凄いじゃん、それ!」


マリンが、思わず声を上げる。


だがその声は、

心からの喜びというより、

恐怖を振り払うための明るさだった。


ハヤトの手が、突然マナトの手を強く握る。


指が絡むほどではない。

だが、逃がさない力だった。


「……っ」


マナトは驚いて見上げる。


兄の指先が、明らかに震えている。


武者震いでも、寒さでもない。

抑えきれなくなった感情の震えだった。


「……ほんと、良かった……」


絞り出すような声。


「……おにいちゃん?」


問いかけた、その直後。


ハヤトの頬を、一粒の涙が静かに伝った。


ぽつり、と落ちる。


表情は変わらない。

声も乱れない。


泣いていると分かる要素は、

その涙しかなかった。


だからこそ、

その一滴は、異様な重みを持っていた。


「おい……どうしたんだよ」


シュウが、戸惑いを隠せないまま言う。


場の空気が、微妙に揺れる。


その横で、ケイスケが静かに息を吸った。


視線は、ハヤトの手とマナトの手に向いている。


絡み合った指。

離れない距離。


「……そうか」


短く、噛みしめるように。


「……ハヤトが」


それ以上、言葉は要らなかった。


「ほんと、参ったよ」


ケイスケは、苦笑とも呆れとも取れる表情を浮かべる。


「最後の最後まで、立派な兄貴だったな」


その言葉は、称賛だった。

同時に――

自分が何者か告白するような響きを持っていた。



「え? ちょっと待って」


マリンだけが、取り残されたような顔をしている。


「なに? どういうこと?」


ケイスケは、ゆっくりとマリンのほうを向く。

声の調子を変えることなく、淡々と言った。


「ハヤトが、騎士だ」


「昨日――」


ほんのわずかに間を置く。


「マナトを守っていた」


説明はそれだけだった。

余計な修飾も、感情もない。


「……そうだろ?」


問いかけというより、確認。

否定されるはずがないと、分かっている声だった。


食堂の空気が、目に見えるほど張り詰める。


椅子の軋む音も、

誰かの呼吸音も、

すべてがやけに大きく感じられる。


ハヤトは、視線を落としたまま、短く答えた。


「……あぁ……」


その一言で、すべてが確定する。


その瞬間、

マナトの手を握るハヤトの指に、さらに力がこもった。


ぎゅっと、逃がさないように。


震えが、はっきりと伝わる。


それは恐怖でもあり、

マナトを守れた安堵でもあった。


「……大丈夫?」


マナトが、そっと覗き込む。


兄の顔色を確かめるように。


ハヤトは、ほんの一瞬だけ口元を緩めた。


笑おうとした、というより、

安心させようとした痕跡だった。


「悪い……」


かすれた声。


「かっこ悪いよな……ごめん」


自分を責める言葉。

弟の前では、強くあろうとし続けた人間の、素の声だった。


「そんなことない!!」


思わず、マナトの声が大きくなる。


感情が、抑えきれなかった。


「俺が騎士じゃなかったら――」


ハヤトの声が、少しだけ低くなる。


「昨日……」


言葉を選ぼうとして、詰まる。


「マナトが、死んでたかもしれないって思ったら……」


喉が、きゅっと鳴る。


「……怖くて」


指先が、再び小さく震える。


「止まらなくなった」


マナトは、黙って両手を伸ばし、

兄の手を包み込んだ。


冷えていた指を、

自分の温度で覆うように。


「大丈夫だよ」


ぎゅっと、力を込める。


「ほら……僕の手、温いでしょ」


その言葉は、

理屈でも慰めでもなく、

“今ここに生きている”という事実そのものだった。


ハヤトの呼吸が、少しずつ整っていく。


肩の力が、目に見えて抜ける。


「……情けなくて、ごめん」


その背中を、

ケイスケが力強く叩いた。


乾いた音が、食堂に響く。


「何言ってんだ!!」


声を張る。


「ずっと立派だっただろ、お前は」


その言葉には、

茶化しも、慰めもない。


事実としての評価だった。


ケイスケは、大きく息を吸い、吐く。

腹の底まで空気を入れ、

覚悟を決めるように。


「……白状する」


一拍。



「俺が、最後の人狼だ」


その言葉は、妙なほど落ち着いた声だった。



「え、ちょ、ちょっと待ってよ……!」


最初に声を上げたのは、マリンだった。

驚きと喜びがそのまま裏返ったような叫び。


「……お、おう……」


シュウは、間の抜けた返事を漏らすだけだった。

驚いているのに、怒ることも、責めることもできない。


ただ、瞬きを繰り返す。


理解しようとして、追いついていない目。


「マヤもそうだがな」


ケイスケは、視線を逸らさずに続ける。


言葉を選んでいる様子はない。

もう、腹は決まっていた。


「お前らの覚悟を見てたら」


一拍。


「こうしないといけないと思わされた」


声は静かだ。

だが、その奥にある決意は、重く、揺るがない。


「今日、生き残ったところで」


ゆっくりと、言葉を重ねる。


「どうせ、犠牲は増えるだけだ」


そう言い切ると同時に、

両手が、無意識に握り締められる。


「俺一人で済むなら……」


拳に力がこもる。

爪が食い込むほどに。


「ここで、終わりにする」


それは投げやりでも、自己犠牲の陶酔でもなかった。

“終わらせる”という、明確な選択だった。


「……お前……」


シュウが、何か言おうとして口を開く。


だが、言葉は続かない。


ソウタを殺したことを責めたいのか、

それとも覚悟を決めたケイスケを賞賛したいのか


自分でも分からないまま、

ただ黙り込む。


「……ありがとう」


短く、ハヤトが告げた。


感情を乗せすぎない声。

だが、その一言に、すべてが込められていた。


ケイスケは、すぐに首を横に振る。


「違う」


否定は強くない。

だが、はっきりしている。


「俺が礼を言わせてくれ」


そう言って、ハヤトを真正面から見る。


視線を逸らさない。


「騎士として」


一拍。


「兄として」


さらに、もう一拍。


「自分じゃなく、弟を選んだ」


その言葉に、マナトの肩がわずかに揺れる。


「それを見せられたら……な」


ケイスケは、ふっと視線を落とす。


「俺はもう、逃げられなかった」


視線を、マナトへ移す。


「いい兄貴じゃないか」


照れ隠しのように、ほんの少しだけ笑う。

それは、羨望にも、尊敬にも似た表情だった。


「最後にさ」


空気を和らげるように、わざと軽い調子で。


「うまいもん、腹いっぱい食わせてくれよ」


その言葉に、

張り詰めていた空気が、ほんのわずかに緩む。


「あ、あぁ……もちろんだ」


ハヤトは、間髪入れずに答えた。


拒む理由なんて、最初からなかった。


「お前らもな」


ケイスケは、ぐるりと全員を見回す。


「ここでのこと、やり残すなよ」


“同じ場所に立った仲間”への、静かな言葉だった。


「俺は……」


シュウが、低く言う。


「最後に、ソウタの顔を見てくる」


その声に、迷いはない。

後悔を抱えたままでも、前を向く決意だった。


「私も……」


マリンが、少し間を置いて続ける。


声は小さいが、はっきりしている。


「サクマに会いにいく」


それぞれが、それぞれの“過去”へ向かおうとしていた。


「お前たちは?」


ケイスケが尋ねる。


「マヤは……いいのか?」


その問いは、

まだ胸に残っている痛みを、そっと指でなぞるようだった。


「……あぁ」


ハヤトが答える。


「ちゃんと、最後を見届けた」


それ以上、言葉はいらなかった。


「……うん」


マナトも、小さく頷く。


目を伏せたまま。

だが、逃げてはいない。


こうして――


誰も叫ばず、

誰も泣き崩れず、

誰も振り返らないまま。


それぞれが、

自分に残された“最後の時間”へと、

静かに席を立った。


食堂には、

椅子の軋む音と、

遠ざかる足音だけが、

しばらく残っていた。



化学室には、いくつもの遺体が並べられていた。


薬品棚の間に設けられた即席の安置場所。

白い布が、整然と、だがあまりにも無機質に掛けられている。


ここが「教室」だった痕跡は、もうほとんど残っていない。

鼻を刺すのは、薬品の匂いと、消しきれない血の気配が混ざった、重い空気だった。


シュウとマリンは、言葉もなく足を踏み入れる。


二人の歩幅は自然と離れ、

それぞれが、迷うことなく向かう場所が違っていた。


シュウは、少し奥で足を止める。


布の下にある輪郭を、じっと見つめる。

そこにいるのが誰かなんて、確認する必要もなかった。


分かっている。

分かってしまっている。


ゆっくりと膝を折り、正面に立つ。


拳を握り、しばらく何も言えないまま、呼吸だけを整える。


胸の奥で、何かが軋む音がした。


「……ソウタ」


声は、思ったよりも低かった。


手を合わせる。

ぎこちなく、慣れない動きで。


「俺さ……」


一度、言葉が途切れる。


「正直、まだ実感ねぇんだ」


生きていない、という事実が、

現実として落ちてきていない。


だからこそ、続けなければならなかった。


「でも……」


視線を、床に落とす。


「お前がここにいねぇってことだけは……分かる」


喉の奥が、ひどく熱くなる。


「約束してただろ」


声が、少しだけ震えた。


「一緒に、最後までバスケやろうって」


思い出すのは、

汗の匂い、

ボールの弾む音、

くだらない言い合い。


「俺」


小さく息を吸う。


「お前の分まで、バスケに命注ぐから」


それは誓いだった。


「だから……」


一瞬、目を閉じる。


「向こうで、ちゃんと見てろよ」


それ以上は言えなかった。


隣では、マリンが立ち尽くしている。


彼女は、まだ布に触れられずにいた。


視線だけが、そこに釘付けになっている。


「……サクマ」


小さな声。


いつもなら、強気に呼び捨てにしていた名前。


「ほんとさ……」


笑おうとするが、うまくいかない。


「居なくなってから気づくって、ずるいよね」


肩が、かすかに震える。


「私……」


言葉を選ぼうとして、失敗する。


「本当に、あんたのこと好きだったんだなって」


唇を噛む。


涙が、ぽろりと落ちる。


「もっとさ……」


視線を逸らし、手を合わせる。


「好きって言えばよかった」


「ちゃんと、大事だって言えばよかった」


声が、掠れる。


「ごめん……」


謝る理由なんて、誰にも説明できない。


それでも、謝らずにはいられなかった。


「……サクマ」


一歩、近づく。


布の端に、そっと指先が触れる。


冷たい。


「忘れないから」


震えた声で、はっきり言う。


「あんたのこと」


「絶対に」


二人の間に、言葉は交わされない。


それぞれが、それぞれの喪失と向き合っている。


化学室には、

二人分の静かな祈りと、

もう返ってこない時間だけが、残っていた。





誰も見ていない。

カーテンで仕切られた、狭い個室。


外の音は布越しにくぐもり、

ここだけが、世界から切り離されたみたいだった。


次の瞬間だった。

ハヤトが、マナトを引き寄せる。


言葉も、視線も、合図もない。

考えるより先に、身体が動いた抱き方だった。


逃げ場を与えないほどの力。

確かめるようで、失うことを拒むようで、

それは必死さそのものだった。


「……っ」


胸に衝撃が走り、

思わず息が詰まる。


胸と胸がぶつかり、

背中に回された腕が、ぎゅっと締まる。


痛い。

けれど、それ以上に伝わってくるのは――

“離したくない”という切実さだった。


「ずっと……」


耳元で、ハヤトの声が震える。


掠れて、細くて、

今にも折れそうな声。


「ずっと、こうしたかった……」


吐息が、かすかに触れる。


それだけで、

マナトの身体が強張る。


抱きしめる力が、さらに強くなる。


まるで、

今ここで触れていなければ、

次の瞬間には消えてしまうとでも言うように。


「マナトまで……」


言葉が、途中で途切れる。


喉の奥で何かが詰まり、

それ以上、声にならない。


「お前まで死んだらどうしようって……」


ようやく絞り出された声は、

ひどく弱々しかった。


「……ずっと、怖かった……」


兄の身体が、わずかに震えている。


それは寒さでも、疲労でもない。

恐怖だ。


昨日からじゃない。

今日からでもない。


この場所に来てから、

ずっと溜め込んできた感情。


マナトは、浅く息を吸い、

ゆっくり吐きながら、

そっとハヤトの胸に手を置いた。


拒絶じゃない。

突き放すためでもない。


距離を測るための、静かな仕草。


「……おにいちゃん」


小さく呼ぶ。


その一言で、

ハヤトの腕が一瞬、こわばる。


マナトは、ゆっくりと力を込めて押し返す。


無理に離すわけじゃない。

逃げるわけでもない。


それでも、

二人の間に、ほんのわずかな隙間が生まれる。


その距離で、

マナトは顔を上げた。


「僕も…」


言葉を選ぶ時間。


胸の奥に溜まったものを、

そのまま出してしまわないように。


「怖かった…」


静かに、でもはっきりと。


「おにいちゃん」


その呼び方に、

ハヤトの呼吸が一瞬止まる。


マナトは続ける。


「毎日、起きるたびに」


「今日こそ、隣にいなくなってたらどうしようって」


唇を噛みしめる。


「……ずっと、思ってた」


沈黙が落ちる。


それでも、

目は逸らさない。


「守ってくれて……ありがとう」


静かで、逃げ場のない言葉。


弟としての感謝。

それだけでは片付けられない重さ。


――だいすき。


その言葉は、

胸の奥で強く鳴ったまま、

口には出されなかった。


言葉にした瞬間、

今の関係が壊れてしまう気がして。


ハヤトは、何も言わない。


代わりに、

そっと額を寄せる。


自分の額を、

マナトの額に重ねる。


呼吸が、自然と揃うほど近い距離。


互いの体温が、

否応なく伝わってくる。


二人とも、目を閉じた。


見てしまえば、

感情が溢れてしまうから。


義理の兄と弟。

守る側と、守られる側。


それ以上でも、

それ以下でもないはずの関係。


それでも今は――

互いの温度だけが、世界のすべてだった。


静かな個室に、

二人分の呼吸と、

言葉にならなかった感情が、

ゆっくりと、重なっていた。




投票会議


議論は、なかった。


言葉を交わす必要がないほど、

全員が同じ結論に辿り着いていた。


食堂の中央に立つのは、ケイスケだった。


誰よりも背筋を伸ばし、

誰よりも覚悟を決めた顔をしている。


右手には、ナイフ。


白い照明の下で、刃だけが冷たく光っていた。


「……さぁ」


ケイスケは一度、喉を鳴らす。


「投票してくれ」


声は落ち着いているようで、

わずかに震えていた。


それでも、誰も口を挟まない。


一人、また一人と、

指が持ち上がる。


向けられる先は、ただ一つ。


ケイスケ。


全員の指が揃った、その瞬間。


ケイスケは、ゆっくりとナイフを持ち上げ、

自分の首元へと近づけた。


――近づけただけだった。


刃が触れる直前で、

その手が、止まる。


呼吸が、乱れる。


肩が上下し、

息が喉に引っかかる。


「あぁ……」


声にならない声が、漏れる。


「あぁ……っ」


心臓の鼓動が、

耳の奥でうるさく鳴る。


手足が震え、

視界がわずかに揺れる。


「……や……」


唇が、震えた。


「やっぱ……無理だ……」


その一言で、

空気がひび割れる。


覚悟を決めたはずの男が、

命の境界線で立ち尽くしていた。


「おい、早くしろよ!!」


マリンの声が、突き刺さる。


甲高く、荒れていて、

自分でも驚くほど必死な声だった。


緊張で、喉が張りつく。

心臓が、落ち着く暇もなく跳ね続けている。


――早く終わってほしい。


ケイスケが死ねば、

この地獄は一区切りつく。


救われたい一心だった。


「……申し訳ない……」


ケイスケは、深く息を吸い、

そして吐いた。


震える手を無言で、

ハヤトの前へ差し出した。


逃げでも、責任放棄でもない。


――頼みだった。


「……まかせろ」


ハヤトは、短く答える。


声に、迷いはない。


「……頼んだ」


ケイスケは、そう言って目を閉じた。


逃げないために。

最後まで、受け入れるために。


次の瞬間。


ハヤトは、ためらわなかった。


それは冷酷さではない。

慈悲だった。


時間をかければ、

恐怖は膨らむ。


苦しみは、長引く。


だから――

一瞬で終わらせる。


それだけを考えて、

ハヤトは動いた。


ケイスケの身体から、

力が抜ける。


支えを失ったように、

ゆっくりと崩れ落ちる。


その瞬間。


食堂のモニターが、静かに点灯した。


無機質な文字が、淡々と映し出される。


〝全ての人狼の処刑が完了しました〟


〝村人の勝利です〟


〝生き残った皆様は、最終ゲームへご招待します〟


勝利。


その二文字は、

誰の胸にも届かなかった。


誰も、喜ばない。

誰も、声を上げない。


ただ、立ち尽くす。


――終わったはずなのに。


――救われたはずなのに。


胸に残るのは、

空虚と、疲労と、

取り返しのつかない喪失感だけだった。


――このゲームは、

まだ終わっていない。


epilogueも明日投稿予定。

続編情報も?

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