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星の帰港

作者: Stella_58

2人は生まれたときからの幼馴染だった。

まるでギリシャ神話のオリオンとアルテミスのように、互いを見つめながら、けっして交わらない距離を保っていた。


彼は、星のような人だった。

いつも空を見ていた。宇宙飛行士になるんだ、と言っていたのに、最終的には「海に出る」と笑った。

「星は空にあるだけじゃない。海の上から見る星が、いちばん綺麗なんだってさ」

その言葉を聞いて、私は少しだけさみしくなった。

私の知らないところに、彼はどんどん向かっていく気がした。


春の朝、校門の前で彼と別れたのが最後だった。

「またな」と言って手を振った彼が、その日、帰らぬ人となった。何かの冗談だと思った。

でも、棺の中で眠る彼は、何も言ってくれなかった。


卒業式の日、私は何も言わずに町を出た。

家族を置いて、ひとりで海外の大学に進学した。

逃げるようにして、あの町を、彼の記憶を、置き去りにした。


けれど、何をしても彼は消えなかった。

空を見上げれば、あの笑顔が浮かんだ。

海に行けば、あの声が聞こえた気がした。


ある夜、夢に彼が出てきた。

制服のまま、防波堤に立っていた。

夕焼けに照らされた背中を見つめながら、私は夢の中で叫んだ。

「ねえ、どうして……なんで行っちゃったの!」

でも彼は振り返らなかった。ただひとことだけ、言った。


「行けよ、お前だけの星、見つけてこい。」


目が覚めたとき、私は泣いていた。

そしてようやく、自分がまだ航海の途中だったことに気づいた。


それから5年。

私は大学を卒業し、小さな研究所に就職した。

仕事にも少し慣れた頃、ふと思い立って日本に帰ってきた。

何かに導かれるように、私はあの防波堤に向かった。


潮風に吹かれながら、ポケットの中に手を入れる。

そこには、あの日彼にもらった小さな折り紙の星があった。

しわくちゃになったそれを広げると、裏に文字があった。


──“星を見失うなよ。”


涙が頬をつたう。

あのとき、私は何も言えなかった。

「好き」だなんて、怖くて言えなかった。

でも今ならわかる。彼は最後まで、私の未来を信じてくれていた。


私は空を見上げた。

もう、逃げない。

ようやく胸を張って言える。


それが私の航海の終わりであり、愛の始まりなのだから。


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