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幕間1 暇を持て余した少女の企み

「つまんなーい!」


 こんにちは、エディフェル=トリエルトです。……あれ、エディ誰に挨拶してるんだろ? ま、いっか。

 エレナお姉ちゃんがエディ達と一緒に住み始めて、一週間ほど経ちました。最初はテオもカイルもまだちょっと警戒が残っていたのかギクシャクした感じだったんだけど、そこはお姉ちゃんの優しさとか……後は大人なエディが間に入りまくってあげたこともあって、今は二人ともすっかりお姉ちゃんと仲良しです。流石エディ!


 さて、十一月に入って十日くらい経っていたのでだいぶ寒くなってきたものの、外は快晴です。だからテオは勉強が終わったらカイルを連れて遊びに行っちゃったのです。一人残されたエディは暇なのです。


「……だったらテオやカイルと一緒に遊んでくれば良いんじゃないか?」


 机に向かって何やら色々と書いているお兄ちゃんがそんなことを言ってきます。

 あ、ちなみにここお兄ちゃんの部屋ね。あまりに暇だったので遊びに来たのです。でもお兄ちゃんは忙しそうだったので流石に物理的に邪魔するわけにもいかないし……。お兄ちゃんのお仕事、かな? それを手伝おうにも、難しくてよく分からない文字ばかり小さくびっしりと並んでいてわけが分かりません。やる気が起きません。精霊術者は普通の人の何倍も優れているって何かで読んだけど、それでもエディまだ八歳だもん。あと一ヶ月くらいで九歳だけど。


「もー、分かってないなぁ。エディだって一応女の子なんだよ? そんな毎日毎日外で遊んでられないよー!」

「たまに外に出るとこれでもかというほど暴れてくる人間が言うことじゃないがな」


 お兄ちゃんが嘆息。……げ、元気があり余ってる年頃だから! だから仕方ないんだよ、うん。


「そだー、それで思い出したけど、お姉ちゃんは?」

「……エレナか?」

「うん!」


 こくりと頷いてみせます。女の子らしいといえばエレナお姉ちゃん! 優しいし綺麗だし料理とか上手だし、エディの憧れで目標なのです。うん、お姉ちゃんのお話聞いているだけでも楽しいもん、決まりだね。

 だけどお兄ちゃんは、どこか寂しそうな笑顔で答えます。


「確か地下の書庫にいると言っていたな。……どうも俺と二人だとまだ居心地が悪いらしい」

「う、そんなこと無いと思うけど」


 そう、打ち解けたのはあくまでもエディやテオ、カイル――言ってしまえば『子供組』とお姉ちゃんだけなわけで。

 お兄ちゃんとお姉ちゃんは、まだ微妙にギクシャクしたままなのです。

 エディ達が一緒にいる時は普通に見えるんだけど、二人になると緊張か遠慮か、一気に会話が無くなります。エディ達に関することでは盛り上がるくせに、その話題が一段落しちゃうと沈黙……仲が悪いわけじゃないと思うんだけどなぁ。


「……まぁ良いや、地下の書庫だよねー? 行ってくる」

「ああ」


 頷くお兄ちゃんを背に、エディは地下に向かいました。




「お姉ちゃん、いるー?」

「あら、エディ?」


 あっさり発見。

 保護施設――エディが今いるこのお屋敷の地下はまるまる書庫になっているんだけど、お姉ちゃんは入ってすぐのところにあるテーブルに何やらたくさん本を広げていました。


「えと、もしかしてお姉ちゃん読書中だった?」

「いいえ、どちらかと言うと勉強中ね……大丈夫よ、大体終わったから。それで、どうしたの?」

「あっ、ううん、大したことじゃないんだけど。ちょっと、退屈だったから」

「テオやカイルは? 外に遊びに行ったでしょう」

「……毎日外で遊んでられないもん」


 お兄ちゃんと同じことを言うお姉ちゃんに対し、ちょっとだけむくれてみせます。だけどお兄ちゃんと違い、お姉ちゃんは笑顔。


「ふふっ、それもそうね。エディだって女の子だもの」


 ほら! ほら見ろだよお兄ちゃん! お姉ちゃんは分かってくれてるよ!


「それで、退屈って言ったかしら? だったら少し早いけれど、お昼ご飯の準備でも始める? エディ」

「うー、それでも良いんだけど……お姉ちゃん、何読んでたのー?」


 机の上、お姉ちゃんが開いていた数冊の本を覗き込んでみます。


「………………にゃんの本?」


 噛んじゃったっ! でもまぁ、噛んじゃうのも納得してもらえると思います。お兄ちゃんがさっき黙々と書いていた書類? と同じくらい難しい言葉が並んでるんだもん!

 というか、


「えと……お姉ちゃん、こっちの文字は読めないんじゃなかったっけ?」


 そう。言葉が通じるのに文字はお姉ちゃんのいた世界のものとは違うらしく、お姉ちゃんはこっちの世界の字は読めなかったはずなのです。お姉ちゃん本人に聴いたんだから間違いありません。

 そのはずなんだけど……


「あら、だいぶ読めるようになったのよ? 勉強したから」

「サラッと言うことじゃないよお姉ちゃん!」


 勉強!? 勉強って何! どうやったの! というか一週間勉強しただけでこんな難しい本が読めるようになっちゃうの!? や、よく見たらテーブルの上には辞書らしきものも開かれているけど、それにしても難しすぎて頭がどかん!


「それで、何の本なのー? これ」

「医学書……かしら。後はそれに関連して何冊か、ね」

「いがくしょ? お医者さんの、あれ? 病気とかお薬がたくさん載ってた……」

「ええ、そうよ」


 エディだって読書は嫌いじゃないのです。だからこの書庫に置いてある本でエディに読めるレベルのものはよく読んでいます。その中には病気とかのことについて分かりやすく解説した本なんかもあるので、医学書というのがどんなものなのかは大体知っているのです。

 でも、何で医学書なんだろう?

 そんなエディの疑問に気付いたのか、お姉ちゃんは笑顔で付け足します。


「予想してはいたことだけど、この世界の人間と向こうの世界の人間にまったく違いが無くて良かったわ。もちろん魔力云々はあったけれど、それさえ覚えておけば向こうでの知識がそのまま役に立ちそう。あ、エディ、そこの棚の薬草の本取ってくれるかしら。右から三冊目」

「え、あ、えと、これだよね? って、そうじゃなくてっ! 何で医学書なの? 知識って何?」

「ああ……私、向こうの世界で医者になれる程度の知識はあったから。こっちでも覚えておけば何かの役に立つかと思って」


 何でも無いことのように答えるお姉ちゃん。でも、正直凄くびっくりです。

 だってお医者さんになるにはたくさんのことを覚えなきゃいけないわけで、なるのが難しいのはこっちだって同じ。エディにだって分かることです。それを普通にやっちゃうって、お姉ちゃんどれだけ凄いの?


「あれ? でも、何で薬草の本なの?」

「それは大したことじゃないのだけれど、この屋敷の周りには向こうの世界では薬効のある植物とか群生しているみたいだから。調べたかったのよ。……ああ、あったわね。名前は違うものもあるけど見た目も効果も同じだわ」

「そうなんだ……良く分かんないけど」

「ふふっ、正直ね」


 笑みを浮かべるお姉ちゃんに……ふと、思ったことを訊ねてみます。


「でもお姉ちゃん、読書するなら、お兄ちゃんと一緒にやれば読めない言葉とかすぐに訊けたんじゃないのー?」

「っ…………そう、ね」


 いつもの調子で答えるお姉ちゃんですが、エディの目は誤魔化せません。いつもならちゃんと目を見て話してくれるのに、急に目を逸らすのは不自然すぎるよお姉ちゃん!


「お兄ちゃん、教えるの上手いよ? エディ達に毎日勉強教えてくれてるもん」

「そうね……ええ、それは分かっているのだけれど……」


 よしっ。


「決めた! お姉ちゃん、早くお昼作ろう!」

「それは良いけれど……どうして?」

「お昼食べたらエディ、テオ達と外で遊ぶから。お姉ちゃんはお兄ちゃんと一緒にいること!」

「……え」


 それまでずっと微笑んでいたお姉ちゃんでしたが、そこでその笑顔がちょっとだけ強張りました。

 でもエディは遠慮なんかしないもん!


「お姉ちゃん、ずっとここにいてくれるでしょ? それなのにいつまでもこんなにギクシャクしてたら、エディ達の方が居心地悪いよ」

「そうでしょうね……」


 ふふん。お兄ちゃんとお姉ちゃんがエディ達に激甘なことは、エディだって良く知っているのです。

 予想通り、お姉ちゃんは最終的には折れてくれました。

 エディの勝ちっ!



 ***


「……そういうわけ、なの」

「なるほどな……」


 話を聴き終え、俺は嘆息した。あの義妹ならやりそうなことである。

 昼食の後。午前中は暇だと唸っていたはずのエディがテオとカイルを連れて出て行き、エレナと二人という状況に陥って……続く沈黙に耐え切れず、訊ねた結果が今の話だ。


 まぁ、エディの言うことももっともではある。同じ家に住んでいるのにいつまでもこんな状態が続くのは、俺だって遠慮したい。

 ……したいのだが、ここ数年同年代の、それも異性と話したことと言えばせいぜい買い物や何かの際の事務的なものだけ。一人の固定した人間と、それもここまでじっくり話すことは、少なくとも保護施設を作って以来一度も無かったわけで……情けないことに、何を話せば良いのか分からないのである。

 エレナもそれは同じなのか何とも複雑そうな微妙な表情で俯いていた。

 会話に困ったらとりあえずテオ達の話をして切り抜けたりしていたが、それもそろそろ終わりにすべきなのだろう。


「そういえばエレナ」

「何?」

「エディに聴いたんだが……いつの間に読めるようになったんだ? こっちの文字。どうやって?」

「ここ一週間で、かしら。こっちの世界――正しくはこの国ね。書く文字が違うだけで発音は同じみたいだったから、まずは発音を頼りに探すでしょう」

「……ああ」


 そこからして不可能なのでは? などと突っ込んではいけない。この少女の凄さは、ここ一週間でよく理解したつもりだ。


「それでも分からなければ……闇楼国、あるでしょう。あの国の文字が、私のいた世界……いえ、正しくは国ね。私のいた国の文字にそっくりだったから、それを頼りにかしら」

「可能なのか、それは」

「とりあえず、読書に支障が無い程度にはなったかしら」


 笑顔で言う彼女に、思わず絶句する。

 他国の言葉を勉強するというのは当然難しいことであり、いくら発音の方が同じとは言え難しくなくなるわけではないのだ。それを……読書に支障が無い程度。大体の言葉は覚えたのだと、少女は暗に言っていた。それをあっさり成し遂げて、しかしこの少女はまだ足りないかのような顔で笑う。


「この国の医学については大体分かったけれど、他の国のものも見ないといけないわね……他の国の医学書とか、あればいいのだけれど。ああ、そうなるとそっちの言葉も勉強するべきね……歴史書とかも読んでおこうかしら。後は魔法についても……」

「……とりあえず、もう少ししたら子供達に勉強を教えるのはエレナの役目になりそうだな」


 苦笑しながら言うと、彼女は一瞬きょとんとした表情を浮かべ、そして微笑んだ。


「良いわね、それ。楽しそうだわ」



 ***


「そういえば……」

「どうかしたのか?」

「いえ、少し気になったのだけれど。……どうしてエディ、あんなに拘っていたのかしら。私達の仲とか、私がここに居続けることに」

「ああ……そのことか」

「何か理由があるの?」

「あくまで仮説だが……そうだな、エレナには話しておくべきか。あの子は――」




 そして私は、知ることになる。




 明るく振舞う少女の、時折見せる『影』の理由を。









エディの一人称は書くのが難しいことを初めて知った。


というわけで一ヶ月ぶりの投稿となります。前話から読んで下さっている皆様、毎回待たせてしまってすみません。皆さんがいるから続きを書けてます本当に感謝。

そしていらっしゃるか分かりませんが初めて『在り処』を読んだという方。気に入ってもらえたでしょうか。その際は本編の方も読んでいただけると作者が泣いて喜びます。


そんなわけで、今回は『幕間』。章と章の間、シリアス成分多めな本編と違って若干シリアス少なめでお送りします。あくまで息抜きということで……まぁちょっとシリアス入れちゃった気がしなくも無いですが。

内容を見て貰えれば分かると思うのですが、『幕間』は前の章のエピローグであり、同時に次の章のプロローグにもなっています。そうなるように頑張って書いています。

まぁ、そんなわけで……今回の話を読んでくださった方は、「次はあのキャラの話か」などと想像してみるのも面白いんじゃないかなぁと思ったり思わなかったり。簡単すぎますかそうですか。


そんなわけで、次章も楽しみにしていただければ嬉しいです。




ちなみに今回の話は、ただただエレナの凄さを書きまくりたかっただけで書いたものだったり←

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