9話 会話
宿に戻って俺とメルと名乗った暗殺者は一旦話をする事になった。
盗み聞きされることもない環境で、俺はポツポツと己の事情を話出す。
転生者という部分を伏せて、自分が授かったSランクスキルの『ピエロ』の能力と効能、他には現在『勇者』として大活躍中の幼馴染が協力者であるということ、俺の目的が魔王討伐である理由などを話した。
「それは、本当の話なんですか?」
「ああ、嘘じゃない。というか、俺の能力倍率が申請しているものと違うのは明らかだろう?」
そう言いながら、俺は自分のギルドカードを見せる。そこには能力の詳細が記されている。これは教会と連動しているので、少なくとも個人では虚偽が出来ない仕様だ。
「で、協力してくれるのか?」
「……それは、まだ……信用出来ないので」
強情なことだ、と俺はため息を吐きながら思う。
彼女の場合、孤児で『暗殺者』というスキルが判明してからは『殺し屋組織』に所属していた時期もあったそうだが、それでは己の復讐は完遂できないと抜け出したそうだ。
それ故今も組織に追われる身でありながら、つい先日あの魔族の屋敷に忍び込み暗殺を遂行したのだとか。
何故彼女がそこまであの魔族に復讐したがるのか。
それは大体俺と同じような理由だ。
あの魔族に家族を殺されたから。
魔王軍は定期的に人類を襲っている。だから俺と同じように家や村が焼かれ、恨みを抱くものはありふれている。
「そうか。まあ、腹も減っただろう。飯でも食おう」
「もう暗いですが……」
もうすっかり辺りは暗くなっている。
街は蝋燭や光魔法で明かりを保っているが、前世に比べたら夜中は大分不自由だ。
酒場はこの時間帯になると全部閉まっているだろう。
前世でいえばまだ七時ごろなのだが、光魔法が使える連中は貴重だ。俺は、月の明かりだけを頼りに鞄の中を弄って食料を取り出す。
皮袋に入っていたのは、パンと干し肉。
「簡易的で悪いが、食え。そっちは、どこに宿を取っているんだ?」
「いえ……宿は、取っていません」
「荷物は?」
「あの魔族の屋敷に」
それじゃ、成功した後は死んだりでもするつもりだったのだろうか。
俺はまた嘆息を吐いて、顎に手を当てたのだった。
「回収は無理そうか……どちらにせよ、暫くは一緒にいろ。食うのも困るだろ」
俺がそう言うと、メルは素直に食べ物にかぶりついた。
パクパクと食べる様子を見て、一先ず安心する。
少なくともあの魔族を殺すまでは、死ぬ気がないらしい。
飯を食べ、会話を交わし、俺たちは九時ごろにはもう眠りついたのだった。