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7話 見下せ、殺す相手を


「嘘ぉん……」


 バレた。

 バレたバレたバレた。



 もしかしなくてもヤバい状況である。



 と、とりあえず状況の把握だ。

 巻き返せるなら、そのチャンスを見過ごす訳にはいかない。


「ど、どうしたんだい急に? とりあえずその物騒な物を仕舞おうじゃなないか」

「動かないでください。私の質問に答えるように」

「は、はい……」


 バチクソに警戒されてやがる……!


 チラリと相手の獲物を確認する。


 刃先が三十センチほどの短刀。何か塗ってあるように見えるのは、恐らく毒だろう。

 

 まずい、本当に身体が重い。

 今は百六十八倍か? この倍率でこの場を切り抜けられるか?


 いや、そもそも普段と大分身体の重さが異なる。

 普段通りに戦おうとすれば、間違いなく違和感が出るだろう。


「質問です。貴方は魔王の手先ですか?」

「ち、違う。ご覧の通り人間だ」

「では、何故先ほどまであの魔族と共に? 戦闘をしているようでしたが、結果的には逃していますよね?」


 

 戦闘している所まで見られたらしい。

 そうなるといよいよ弁解は無理だ。頭を回しながら、俺は必死に考える。



「誤解だ。数なくとも俺はさっきまで、あの魔族を追うつもりだった」

「まるで私が来なければ、と言わんばかりの言い草ですね」

「まあ、あながち間違いでもない。で、君は? その怪しすぎる格好は何?」


 彼女は一先ず警戒をといてくれたのか、刃物を下げてくれた。


 俺が安心してため息を吐くと、次の瞬間視界から彼女が消えていた。


「動かないでください」


 首筋に短刀が当てられている。

 背後からガッチリと捕まっていて、身動きが取れない。


「なっ……!」

「貴方ほど戦闘力が高い人間を、私は名前も知らない。不自然でしょう。どういう意図なのかは分かりませんが、処分した方が良いと判断しました」

「いやいや! ついこの街に来たばかりなんだ! それで知らなかったんじゃないか?」


 首筋に毒が塗られたナイフを当てられて背筋が凍る。


 能力が下がっているせいで、強引に振りほどく素振りを見せたら喉を掻っ切られるだろう。


「いえ、貴方の戦闘力から見るにAランク以上のスキル持ちでしょう。そうなれば数は限られます。私はSランクのスキル持ちの顔は絶対に間違えませんし、Aランクのスキル持ちの顔でしたら、つい最近になったという方を除いては私が知らないはずありません」

「待てよ、お前何者だよ……てかどうして把握してると言い切れる」

「それは私があの魔族を殺す為に派遣された暗殺者だからですよ。任務遂行の邪魔になりそうな人間は全て把握しています。まあ、仕留め損ねたのですが……」


 理屈は分かる。

 だからこそ、彼女が俺を知っている筈はない。


 俺は表向きにはGランクのスキル持ち。偽装は出来ないはずなのだから、世間ではそう確定している。どうやら、彼女は高ランクのスキル持ちの顔は把握していも、Gランクの俺の事は知らないらしい。


「大体、貴方戦闘に関しては随分と素人ですね。強いのは間違いないようですが、戦い慣れはしていないようです。隙だらけでしたし」


 痛いところが付いてくる。


 そうだ。俺は魔物とは戦い慣れているものの、対人戦はほぼ禁止されているような能力なのでこうしてあっさり脅されているという訳だ。


「本当に勘弁してくれ。俺が魔族じゃないのは分かるだろう?」

「ええ、透明化したツノは頭を触れば分かります。貴方は確かに人間のようですが、それでも生かしておく訳にはいきません。私の存在を知った以上、危険がありますから」

「じゃあ、何でまだ俺を生かしてくれてる訳?」


 そこには理由がある筈だ。

 俺は最後の希望のつなを綱を手繰り寄せる。


「殺す前に聞きたい事があります」

「どうぞ」

「っ……貴方は、何者ですか? 一応殺して良い人物か、確認しなければならないので」


 彼女にそれを問いかけられ、俺は何と答えるか悩む。

 

 俺は、今なんだろう。



 しがない冒険者で。

 Gランクとして有名なあのアルスで。


 そして、同時に魔王を討伐するSランクのピエロ。



「悪いけど、答えるのは今じゃないな」

「……話になりませんね。死んでくだーーッ!?」



 今、殺す寸前で俺への警戒心を解いた。

 見下した。


 死ぬ運命が、確定した相手をだ。



 それが、致命的になる。


「ぐうっーー!」


 素早く元の身体能力を取り戻した俺は、相手の拘束から抜けて、逆に組み伏せ返す。

 獲物である刃物を遠くに蹴飛ばし、完全に形勢を逆転させた。



 後は百六十八倍の筋力でも足りる。

 こいつを拘束するには十分だ。


「さて、形勢逆転かな」


 そう言って、俺はポケットに隠し持っていた短刀を敵に差し向けながら言ったのだった。


 


 


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