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6話 追放されたピエロ

 一万四千人……。

 現代日本の感覚で言えば、かなり少ない数にも思えるが、ここ異世界ではそうはいかない。


 何せインターネットが無い社会だ。


 ただでさえ田舎のガーネット国に住んでいる俺は、街一つに付き千人ほどしか『侮蔑者』を作れなかった。



 勿論一番辛かったのは、体も満足に動かせない上に倍率も低かった序盤の頃だが、そこは年月を以って解決できた。


 

 実に六年の歳月が流れている。


 だが今日も休んでいられない。


 

 俺の認知度を広めて、更に強くならなければ。



 実際倍数が増える後半になるにつれ楽になる筈。



 魔王を討伐する日もそう遠くはないのかもしれない。



 そう思いながら、俺は少し頬がニヤつくのを自覚した。




「すみませーん」



 一先ず宿を取る。

 午後はこの街の冒険者ギルドに顔を売って、稼ぎもどうにかしないといけない。


 幸いにも前のパーティーは一応クビにするにつれ退職金もくれたし、改めて良いパーティーだったなと思う。



 もし俺が『ピエロ』みたいなスキルじゃなくて、普通に冒険仲間として組めていたなら今も楽しくやっていたのだろう。



 そう考えると惜しい気持ちになる。


 


 最後の別れの顔は蔑まれた視線と、早く消えてほしいという静かな沈黙だったが……義理は果たしてくれたし。



「はーい。宿泊ですか?」

「ああ。とりあえず一部屋。一週間頼む」



 宿屋の娘と簡素な会話を交わしながら、安宿に泊まった。


 荷物を置いて寝転がりつつ、水浴びをしたいなと思う。



 日本と違ってこちらはあまり風呂に入るという習慣はない。


 俺のスキル『ピエロ』は身体能力にしか補正が掛からないから、魔法は一般人レベルだ。そのため貴重な魔力ではあるが、風呂のために使うことが多い。



 ……森に行くか。



 落ち着いた所で早速だが、俺は森へと向かう。

 ひとけの無さそうな所に荷物を置いて、俺はここで風呂に入ることを決める。


 やる事は単純。

 ササっと剣で木を切りつつ風呂桶を作り、火を付けて沸かす。


 

「……ふぅ」



 一風呂終えた所で、俺は上がって帰る支度をし始めた。


 パンツ一丁なのは少し風に当たって涼んでいるからである。 



 良し。

 涼んだし、そろそろ服を着て……



ーー突然、森の方から茂みがガサガサと揺れる音がした。



 魔物か?


 いや、人の可能性もある。

 人が来なそうな場所とはいえ、何かしらの用で来る場合もあるのかもしれない。



 ていうか、このままだと変出者だと思われる!

 いや! 思われても良いんだけど!



 急いで俺はズボンに手を掛け、履こうとした所で。


 人が現れた。



「すみませんこれは決して変態とかじゃなくてですね……って、魔族!?」


 

 一瞬だけ人と見紛うが、顔の半分が魔族特有の暗い肌に変色している。

 

 あれは人間化が解け掛けている魔族の特徴。


 格好から見るに貴族か何かに化けていたのだろうか。この地は魔族領から遠い為、全く想定していなかった。



 しかし魔族と分かれば話は早い。


「何者だ、貴様!」


 何かから逃げているように走っている魔族の前の立ち、進路を妨害する。


 俺が邪魔だと判断したのか、手に剣を持って構える魔族。



 魔族はBランクのスキル持ちですら苦戦するほどの強敵だ。

 それはつまり九十九%の人類が、魔族を前に瞬殺されるという事でもある。



 しかも位の高い魔族になればより強くなり、魔王ともなるとSランクという人類の至宝を三人がかりで投入したにも関わらず返り討ちにあったという実績まである。



「うるせー、死ね!」



 だが問答無用だ。


 俺は既に身体能力だけとはいえあの『勇者』と同じ域にいる。

 Aランクのスキル持ちくらいの実力は付けたつもりだ。



 剣を即座に抜いて、切り掛かる。

 だが流石に相手も魔族。不意をついたつもりが、しっかりと剣で防がれてしまった。


「ぬぅ! 貴様!」


 音速などとうに越した筈の一撃だったが、少なくとも有象無象の魔族ではないようだ。


「死ね!」


 俺のスキルに剣術の補正はない。

 だが鍛錬は欠かしてない。身体能力に身を任せて、相手と切り結ぶ。


「チッ、よもや毒に加えてこのような実力者にまで出会うとは……」


 相手の魔族がブツブツと呟いている。


 何かに苦しんでいるのか、息を漏らしているため、少しずつ押し始めると、やがて俺の剣は相手の腕を切り落とした。


「覚えているが良い……!」


 しかし身体を入れ替わられてしまい、相手は即座に逃走の選択をする。


「クソ、待て……!」



 今ここでアイツを逃せば、また何千人という人々の命がアイツの手によって失われるだろう。俺は速度なら負けないはず、と足に力を込めて走ろうとした所で……。



「え……?」



 急に身体が言うことを聞かずに、盛大にすっこけた。


「え、何で、……重い!」



 立ち上がると、身体の重さを実感する。


 この症状は身に覚えしかない。それは、当然このスキルを授かった時から与えられた呪いだから……。

 


「止まってください、貴方。何者ですか」


 

 そこには暗器を手にした、明らかに暗殺者っぽい女がいたのだった。



「嘘ぉん……?」



 アルス。

 現在の能力ダウン人数、二人。


 能力倍率……1680倍→168倍。

 



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