5話 何度もパーティーを追放されるピエロ
「いや〜、またクビになったなー」
宿に帰って荷物をベッドに放りつつ、続けてベッドに倒れ込んだ俺はそう呟いた。
今日も今日とて疲労困憊だ。
俺のスキル、『ピエロ』はあまりに多くの欠点を抱えている。
才能の儀でこのスキルを受け取ってから、六年が経過した。
俺は既に十八歳。冒険者をやっていれば嫌でも耳にする『勇者』マリーの活躍を聞く度、内心で焦っていた事もある。
この『ピエロ』というスキルの都合上、一番苦労したのは金周りだ。
「ボロっちぃ〜」
宿の安さから見て分かる通り、俺は大した家に住んでいない。
それは人に舐められる為、低ランクのパーティーに所属していないといけない所為だった。当然収入が低くもなる。
このスキルには制約が多い。
俺を舐める相手が俺を『アルス』と認識している必要はない。
世界唯一の『Gランク』の男がいるらしい。
と、こんな噂でも事実として『Gランク』の男というのは相手が正体を知らずとも、俺を指している訳なので俺は恩恵にあやかれるのだ。
だがこれは同時に厄介な制約でもあった。
何故なら仮面を被って、正体を隠しながら金を稼ぐーーといった行為が出来ないからである。
仮面の男の正体は、勿論誰にも分からない。だが、その人物が『尊敬』を集めれば、その人物に該当する俺の能力が下げられるのだ。
例外は活躍した人物を他者だと誤認させるか、そもそも誰がやったのか一切の手掛かりもない状態にするかである。
これは俺がやらかした時に四苦八苦して辿り着いた答えだった。
まあつまり……『尊敬されている状態』と『舐められている状態』。これらは神の視点から判断されるのである。
これをあの天使から聞き出せていたお陰で、俺は初手をミスらずに進めた。
「さてと……どのくらい強くなったかな?」
俺は水晶を取り出して、手をかざす。
水晶を個人で保持しているのは珍しい。高価な上、殆どの人がそれを使う機会は滅多に訪れないからだ。あったとしてもギルドを通して、検査料を払って確認する。その方が何十倍も安上がりだ。
でも機密性の高い俺の事情の場合は、やはりこういう所に惜しみなく金を使う。
最も……払ってくれたのはマリーなのだが。
「1638倍……マリーで十分の一になってる筈だから、16380倍……一万四千人か」
一人にバレる毎に十分の一。
一見法外な倍率の様にも思えるが、助かる点は多々ある。
それは能力が下がった事が瞬時に分かるからだ。
元々バレるようなヘマを滅多にやらかさない為、大抵すぐに心当たりに行きつきやすい。その後は相手の認識を戻す作業に三日三晩かける事もあった。
そのせいで六年も二の足を踏んでしまったが。
マリーが魔王軍との戦争で前線に駆り出されたという噂を聞いてからは、俺の悪名も広め辛くなったのだろう。
ここ二年は『侮蔑者』が増える速度が緩やかだ。
「そろそろ次の街に行かないとなぁ……」
俺がこうして街を転々として、毎回パーティーから追放される流れを繰り返しているのは自分の認知度を上げる為である。
街に流れつき、世界唯一の『Gランク』スキル持ちと言う哀れ存在が来たと噂を広めつつパーティーに所属する。
そして認知を広め終わった頃合いに、大きなヘマをやらかして追放させ、最後の話題作りを行うというわけだ。
「よし! 即行動するか!」
判断が決まれば、動きは早い。
それがこの男、アルスである。
彼は荷物を纏めて宿を出ると、誰も見てない事を確認すると走りで森を駆け抜け始めた。
人にバレる訳には行かないので、深夜移動かつ魔物が出る森を突き進んでいく。
普通なら当然自殺行為だ。
だが、彼は現在勇者にも匹敵する身体能力の持ち主。
その速さは正に規格外に達していた。
あっという間に森を駆け抜けていくと、目的の街に辿り着いたのだった。
なお翌日、一週間前から森に棲みつき街に大きな被害を与えていたAランクモンスターのドクロアナコンダが忽然と姿を消した事が話題となり、街に活気が取り戻された。
勿論アルスに結びつくような痕跡はない為、彼の能力に心配はない。
ただ、下着を失くしたと言ったカンナに「俺が売った」と嘘をついていたアルスだが。
その後普通にカンナが自身の下着を見つけ、一瞬アルスに疑惑の念を向けた為。その日の夜に何事もなかったかのように能力が戻るまで、原因不明の能力ダウンに大層慌てふためいていたとか。