隣の家の女
初めての投稿になります。
とにかく拙いです。
隣の家の女は、よく大きな声でもう嫌だ、死にたい等と言ったり
あーだとかうーだとか言葉ですらない奇声をあげる。
今朝だってそうだ。
私がトイレに入っていると、アイヤイヤイヤ!!と
またわけのわからない言葉を発しているのが聞こえた。
一回のトイレも二階のトイレも、例の女の家側の位置にあるため、
小窓が開いているとこれがまたはっきりと聞こえてくるのだ。
とある日、トイレに入ろうとすると
開いていた小窓から、いつもなら障子が閉まっていて見えない筈の
女の部屋の中が見えた。
他人の部屋を覗き見るなんて悪趣味だと理解していたが、
好奇心には勝てなかった。
網戸越しの為、よく目を凝らして観察すると
何も置かれていない和室が見える。
昼間だというのに、薄暗いその部屋を見ていると何だか不安になり
私は窓を閉めようとした。
「田村ですけど」
突然、聞こえてきた人の声に驚き、体を動かすことができなかった。
砂利を踏む音が聞こえる。
家と塀の間の狭い所を通り、何者かがこちらに向かって歩いてきている。
「田村ですけど」
網戸越しにこちらを見ているのは隣の家の女だった。
言葉の意味が分からない。
私は数秒見つめあったが、我に返り、
急いで窓を閉めた。
すりガラス越しに見える女が一層不気味だった。
私はその後、自室でテレビを観ながら寝てしまい
気づいた時には、もう外が暗くなっていた。
洗濯物を取り込みにベランダを開けると
飼い猫が外へ飛び出し、何が良いんだか、
匂いを嗅いだり、床に体をこすりつけている。
昼間は家の中に居ても汗ばむほどだが
日が沈むと少しは涼しい。
もう中に入ろうと猫を呼ぼうとうすると
それよりも早く、猫が尻尾を立てて部屋の中に駆け込む。
いつもなら呼んでもなかなか部屋の中に入ろうとしないというのに
猫がいたベランダの奥に近づき、目を凝らす。
私は息を呑んだ。
暗闇に馴れた目に映ったのは
歯を食いしばり、眉を吊り上げてこちらを睨めつけている女がいた。
虫の鳴き声に交じって、歯軋りの音が聞こえてくる。
「田村ですけど」
嗄れた声が非情に不快で、背中に嫌な汗が流れる。
「田村ですけど」
女は壊れた機械のように何度も同じ言葉を繰り返す。
目が離せなかった。あまりに奇怪、あまりに不気味で恐怖していたから。
その後の事はよく覚えていなかった。
帰宅した夫に今日起きたことを話そうとすると
あの女の顔を思い出してしまい、口にすることはできなかった。
翌日もトイレに入っていると、隣の家から女の声が聞こえてくる。
そんな女の奇声をかき消すように
防災行政無線の方不明者の放送が外で響いている。
『―▢▢市役所から、迷い人のお知らせです。
▢月▢日、午後▢時▢分頃から、▢▢地内より、
田村▢▢さんの行方が分からなくなっています―』
女の声が止んだ。
ここまで読んで下さった方、ありがとうございました。