第27話:大賢者3
桐生は第四層へ足を踏み入れる、やはりそこは山林で簡素な祭壇の中に転移門は存在していた。桐生が神殿を出ると周りを飛び交っていたワイバーンが一斉に飛び立ち遥か彼方へと飛び去った。一層でもそうだったが動物系の魔物は桐生を一目見ただけで一目散に逃げる、桐生としてはいちいち倒すのは面倒なので好都合だった、大体逃げずに襲ってくる魔物はアンデッドか魔法生物の類だ、おそらくやつらは恐怖という感情を持っていない。
「この階層では《飛行魔法》は使うなよ」
SCP-X1751-JP-Aの右腕だったモノがそう忠告してくる。
「何か理由があるのか?」
「お主も行きで遭遇したじゃろう、あの巨竜に」
「アレか……その巨竜はやはり強いのか?」
「そこそこ強い。アレは刺激さえ与えなければ基本的に襲ってくることはないが一度敵認定されると執念深く追いかけてくるから面倒くさいぞ」
おそらく行きの道中で襲われたのはドローンのレーダー照射を攻撃と認識されたからだと桐生も推測していた、破壊したドローンの破片にまで執拗に攻撃を加えてきたせいでコンテナが巻き添えを食らったわけだが……確かに面倒くさそうな相手だ。
「了解だ」
桐生はそう返事をすると散々イメージトレーニングしていた《身体強化》を自身にかけ、山道を一気に駆け降りることにした。
山道を猛スピードで駆け抜けていると、道の先が土砂で塞がれているのが見える。《次元膜》は展開中だそのまま衝突しても削りながら進めるだろう。そう考えていると、SCP-X1751-JP-Aの右腕だったモノが桐生に待ったをかける。
「止まれ、アレは倒していけ」
よく見るとその土砂は行きの野営中に見かけたモジャモジャだ。SCP-X1751-JP-Aの右腕だったモノ曰く、クレイゴーレム、太古の魔法生物らしい。
桐生はクレイゴーレムからある程度の距離を保ちながら足を止める。
「なんだ? あれも厄介なヤツなのか?」
「別に大したことはないが魔法生物の倒し方を覚えていけ、《次元膜》を使わずにな」
桐生はその師匠然とした態度に多少イラつきはしたが、課題を与えられると研究者としての血が騒ぐのか、どうしてもそれをクリアしたい欲求が湧く。
クレイゴーレムは既にこちらの存在に気付いているが魔法陣を展開する様子はない、おそらく近接攻撃タイプの魔法生物だ、桐生は遠距離から無数の《光の矢》を放ち、クレイゴーレムを蜂の巣にしたが、その穴は開いたそばからみるみると塞がっていき元の形状へと戻る。
そういえば行きの道中に第五層で見かけた仮称ムカデ骸骨も同様にバラバラになった体を再生、というか組み直していた、あの時は別に倒す必要がなかったが、倒し方を覚えろという指示だ、無視するわけにもいかない。
クレイゴーレムはこちらに突進する構えを見せているので、《火球》を放って牽制する、がクレイゴーレムの土の体に生えている雑草が燃え、見た目がより恐ろしくなっただけだ。
「おい、ヒントだ! ヒントをくれ!」
「ふむ、あのような単純物質の集合魔法生物はな、その姿を維持するコアを体内に持っておる、それを砕かぬ限り無限に再生するぞ、ただ《光の矢》では砕けぬだろうな、矢ではなく槍をイメージしろ」
コアだと? どこにあるんだ? 心臓の位置か? いやあれはぎりぎり人型といっても差し支えないが仮称ムカデ骸骨のように人型でないものもいる……桐生がそう考え込んでいる間にクレイゴーレムがどんどん間を縮めてくる。
「視覚に頼るな、魔力の流れを意識しろ」
SCP-X1751-JP-Aの右腕だったモノが見かねて追加でヒントをくれる。
桐生は目を閉じ魔力探知に意識を向けた、周りを取り囲む木々や草花、そしてそれらに付着しているであろう小さな生き物――おそらく虫だがそれらにもかすかに魔力が通っていることが分かる、目を伏せたまま前方に注意を向けると人型の物体が轟音を響かせながら迫りくるのを感じる、その魔力の流れはまるで血流のように人型をかたどっているがその流れの中に、魔力が集中して流れ込んでいる箇所を発見した、おそらくこれがコアだ。
桐生は目を見開く、目を閉じてなくても魔力の流れが見える、今までは視覚に頼り過ぎていたため気付かなかったが魔力の流れを意識すれば問題なくコアの位置が割り出せる。すでにクレイゴーレムはその巨大な拳を振り下ろす態勢をとっているが《次元膜》は展開中だ、そのまま受けても良かったが使わずに倒せと言われていたので後方へ跳躍し、拳を躱しながらクレイゴーレムの魔力が集中している箇所めがけて《光の槍》を放つ、放たれた光は土くれとは違う何か固めの物体を穿つような音を微かに響かせクレイゴーレムを貫通した。
「ふむ、上出来じゃな」
SCP-X1751-JP-Aの右腕だったモノがそんな感想を呟いている間に、クレイゴーレムを構成していた土くれが瓦解しその場に土砂が降り注ぐ。
「ついでにあれも何とかしろ」
桐生がその言葉に反応すると、すぐ近くに巨大な魔力のうねりを感じたがその瞬間、何か微妙に粘着感のある液体のような濃いガスのようなものを勢いよく浴びせかけられた。もちろん《次元膜》は展開中だった為、桐生の体はそれに触れることなく貫通したが浴びせられた周りの木々が勢いよく腐り始め萎れていった。その粘着質な何かの発生源に目を向けるとそこにはドラゴン――の形をかろうじて保った腐った肉塊が木々の間からこちらを睨みつけている、これは相棒に確認するまでもなくドラゴンゾンビだろう。
魔法生物の次はやはりアンデッドだ、桐生は多少うんざりしながらもその腐ったドラゴンの頭部を覚えたての《光の槍》で貫いた。元がドラゴンであろうとゾンビはゾンビだ、頭部を破壊されると死体であろうと死ぬのだ。
《光の槍》は《光の矢》と比べると段違いに威力が高い、だがこれはあまり遠くまでは伸びずあくまで至近距離で確実に当てられる相手にしか使えない、"矢"は割と射程が広い上ある程度誘導ができ汎用性が高い、まあ適材適所に使い分けるか……等と考えていると相棒――SCP-X1751-JP-Aの右腕だったモノがまたも師匠然とした態度で話しかけてくる。
「この階層で覚えられることはもうなかろう、次じゃ次、第五層へ向かえ」
桐生はおそらくまた何かやらされるであろうことを予感しつつも第五層への転移門へ走った。
*
第五層、行きの道中では転移門のある場所に仮称下級悪魔や仮称ムカデ骸骨がたむろしていたので、ここでも袋叩きにあうのではないかと予想していたが、特にそんなことはなくガランとした神殿に到着した。
桐生は行きの道中では気付かなかったとある違和感に気付く。
「ここは、第一層に似ているが《照明魔法》を使わなくても明るいな」
よく見ると壁や天井がうっすらと発光している。
「第五層は"神"謹製の迷宮じゃからな……光るだけではないぞ、並みの攻撃では破壊することも難しい、仮に破損してもいつの間にか元に戻るぞ、死体なんかも分解され清潔じゃ」
そういえば第五層ではアンデッドは見かけなかったなと思い返しながら溜息をつく。
「この迷宮自体が異常存在だな……」
桐生はそんな感想をこぼしながら回廊へ出る、目視できる範囲に魔物の姿は確認できないが、遠くの方からガチャガチャ音を鳴らしながら近付いてくる存在を察知した。
(絶対ムカデ骸骨だ……)
「ああ、おったおった、桐生、あれは『フ・サイデル』という魔法生物じゃ、アレの魔法は強力でな、《次元膜》は展開しておいてやるから、試しにアレの魔法を防いでみせよ」
(出た……また課題だ)
何か出されると予測はしていたが今度の課題は《対魔法障壁》の課題のようだ、確かにこの帰りの道中はあまり魔法を使うやつと遭遇してこなかった、イメージトレーニングの成果も確認しておきたいので桐生はその課題に乗ってやることにした。
ちょうどフ・サイデルが目視できる距離に近付いたところで早速ヤツは魔法陣を展開した。
そういえば行きの道中ではアレが魔法を発現させる瞬間は見ていなかった、大体出会い頭にシキオウジにバラバラにされていたからだ。
桐生は魔力の流れを意識し、フ・サイデルの魔法を分析する。
桐生とフ・サイデルとの距離はおよそ10m、その大体中間距離あたりに魔力が集中していくのが見え、実際に魔力の塊であろうものも目視できる。今は《対魔法障壁》の実験だから待ってやっているが、やはりアレは魔法が発動する前にバラバラにしてやるのがてっとり早い……、そんなことを考えていると5mほど先に見える魔力の塊が急速に収束し始めた。
(あれは……《火球》や《光の矢》のように直接飛んでくるタイプではないな、おそらく爆発する)
桐生が冷静にその魔法の挙動を分析し終えた瞬間、収束した魔力塊から強烈な光が発せられた。
「《対魔法障壁》!」
別に口にする必要はないのだが桐生が爆発の衝撃に備えて《対魔法障壁》を展開すると、目の前から猛烈な衝撃波が発生した。
その衝撃を辛うじて防いだと桐生が認識したと同時に回廊全体が轟音と共に高温高圧の光に包まれ、桐生が展開した《対魔法障壁》を粉砕し、光はそのまま桐生の体を突き抜けていった。
桐生が状況を理解できないままでいると、SCP-X1751-JP-Aの右腕だったモノがこう話しかけてくる。
「《次元膜》が無ければ即死じゃったな」
改めて辺りを見渡すと、"神"謹製の回廊は焼け焦げ、ところどころ破損も見られる。この現象を引き起こしたとみられるフ・サイデルは遠くの方でバラバラになっている、おそらく自分の魔法の反動をもろに食らった。
桐生は呼吸を乱しながらも辛うじて状況を理解しこう叫ぶ。
「おい! どういうことだ! 何故《対魔法障壁》が効かない!? 俺の練度不足か?」
「いや、そうではない。《対魔法障壁》はそれなりの耐久力を持ってはいるがぶつけられた魔力衝撃がそれを上回ると先ほどのように決壊する。楠の護符のように万能ではないということじゃ」
(楠の護符はあれも無効化するのか……とんでもないチート巫女だ……)
「フ・サイデルの魔法は《殲滅魔法》といってな、本来は地上で爆発させることを前提とした戦略級魔法じゃ、普通の地下空間で発動したら岩盤ごと崩壊するがこの第五層の回廊は恐ろしく頑丈じゃ、それゆえ爆発エネルギーは拡散せず凝縮され威力を増す。魔法陣が生成する魔力量と環境を分析して一枚で足りぬようならもう一枚展開するなど工夫は出来よう」
またガチャガチャとした音が接近してくる……遠くでバラバラになっていたフ・サイデルが復活したようだ。
「ほれ、もう一発くるぞ、どう防ぐ?」
フ・サイデルが魔法陣を展開した、あいつの魔法は発動に時間がかかる。ならそもそもの魔力の生成を邪魔してやればいい、桐生はフ・サイデルを射程内に収めた《対魔法領域》を展開する。
……おかしい、魔法陣は相変わらず魔力の生成を続けている、桐生は意識を集中し魔力の流れを確認すると確かに領域内の魔力量は低下している、にもかかわらずフ・サイデルの周囲だけ魔力の流れが安定している。
「魔力の扱いに長けた者は周囲の魔力を制御する力にも長けておる、お主の《対魔法領域》は一部レジストされておるな、だが領域内であれば放たれた魔法の威力は減衰する、そのまま展開し続けろ」
そうこうしている間に辺りが光に包まれる。《対魔法障壁》は二枚展開済みだ、一枚目が瞬時に破壊されるも二枚目が踏ん張っている――が亀裂が入ったことを確認し、すかさず三枚目を展開する、二枚目も破壊されたところで光が徐々に収まっていく、どうやら防ぎきることが出来たようだ。
フ・サイデルはやはりバラバラになり吹っ飛んでいる。
「ふむ、……及第点といったところか……いや、いささか心許ない、もう少しアレで魔法威力の見極めと魔力制御の練習をしておけ」
(こいつは俺を何と戦わせる気なんだよ……)
桐生は愚痴をこぼしそうになったが、万が一《次元膜》が使用できない状況になった時のことも考え大人しく指示に従う。
結局、それから三回ほど《殲滅魔法》を防ぎ、相棒からお墨付きを貰うと同時に《身体強化》で強化した瞬発力で一気にフ・サイデルとの距離を詰め《光の槍》を放ってフ・サイデルのコアを破壊した。
*
桐生は回廊を第六層の転移門目指して歩いている、特に急ぐ必要はないし、行きの時と違ってあまり魔物と遭遇しない。襲ってくるのはフ・サイデルくらいだがそこまで遭遇率は高くない、ただ魔法を放たれると面倒なので視界に入り次第、先ほどと同様の手順で瞬殺する。
行きであれほど見かけた仮称下位悪魔は全く見かけない。おそらくあいつらは"恐れ"という感情を持っているのだろう、そんなことを桐生が考えていると前方から何かが近付いてくるのを察知した。
相棒からの指示はないし《次元膜》も展開中だ、魔力を探ってみても五層の魔物にしては魔力量が低い、特に警戒せず歩を進めていくとやがて近付いてくるモノの姿を視認できた。
それは大鎌を後ろ手に構えた、道化師の姿をした顔色の悪い老人だった、その老人は桐生の姿を確認するとニタニタと不気味な笑みを浮かべる。
「アレは"死の道化師"じゃな、好んで強者に戦いを挑む変わり者じゃ。良かったな、お主、強者認定されておるぞ?」
別に嬉しくはない。死の道化師……どう考えても個体名や種族名ではないな……等と考えていると、死の道化師が大きく口を開けた。
その瞬間、轟音と共に何かが回廊を吹き抜けたかと思うと、桐生は自身の首筋を大鎌が通過したことを知覚した。
回廊がこの一瞬で凍り付いている、吹き抜けたのはおそらく強烈な冷気だ、そして死の道化師がいつの間にか自分の背後に背を向けた状態で大鎌だったものを構えていることから、《次元膜》が無ければ一瞬で凍らされ、そして首を撥ねられていたことを桐生は理解した。
魔法陣は展開されていない、だがアレは魔法陣の展開なしに魔法を発現できる程の体内魔力を保持していない……。
間違いない、アレは現実改変者だ。
桐生は魔法が普通に存在している世界における魔力因子によらない魔法――つまり現実子による異常現象、基底世界でいう所の現実改変の存在をすっかり失念していた。
おそらく周囲を一瞬で凍り付かせたのが現実改変だ、大鎌が首の《次元膜》を通過したことは知覚できたのでそれは単純に死の道化師の身体能力だ、もし後者が現実改変であったらと思うとゾッとする。
死の道化師は不思議そうに切断された大鎌を見つめていたかと思うとまた口を大きく開いたので、桐生は即座に死の道化師の首をねじり切るイメージを放出する、そして実際に死の道化師の首はねじ切られそのまま絶命した。塵となって蒸発しないことからこれは……純粋な生物だ。
*
「なるほど、アレは普通に現実改変者であったか……長らく奇妙な生き物くらいにしか思っておらんかったわ」
「現実改変を起こすのに別に口を開ける必要はない、おそらく死の道化師自身はアレを魔法だと思っていたのだろうな」
そんなことを話しながら回廊を歩くうち、桐生は一つの疑問を抱いた。
「お前、第六層から出られない筈だったよな、なぜ他の階層の魔物を詳しく知っている?」
「ふっふっふ……この世界にはな《遠隔視聴》という便利な魔法があってだな」
姿は見えないが桐生は下卑た笑みを浮かべるSCP-X1751-JP-Aの姿を容易に想像できた。
「だが《遠隔視聴》も上位転移魔法の応用じゃ、人間ベースのお主には習得できん。まあ必要だというなら発動してやらんこともないがの」
「……それはありがたいな」
特に桐生はその魔法に興味は湧かなかったが、一応のご厚意である、適当に相槌を打ちながら第六層への転移門がある神殿目指して歩を進めた。
この作品が初投稿になります。
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