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光属性美少女の朝日さんがなぜか毎週末俺の部屋に入り浸るようになった件  作者: 新人@コミカライズ連載中
第二章:闇属性の影山くんの這い上がり方

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第59話:KISS IS その2

 戦いの火蓋が切って落とされ、最初に異変を察したのは光の方だった。


「ちょっと、そっちに行ってもいい……?」


 そっちに行ってもいい……?


 黎也の口から発せられたまさかの言葉に、彼女の固有時間が停止する。


 普段、二人きりの時でも甘えるのはいつも自分の役割だった。


 それがまさかの向こうからの先手には、流石の彼女と言えども驚きを隠しきれなかった。


「ん? いいけど……黎也くんからそういうこと言ってくるの珍しくない?」


 しかし、今日は自身に禁欲の制約を課した身。


 ここで興奮してエサに飛びついては全てが台無しだと、己を律する。


「そ、そう……?」

「うん、いつも甘えるのは私の役目だし」

「べ、別に甘えたいとかそういうわけじゃなくて……そっちの方が画面を見やすいかなって思っただけだって……」


 冷静を装い、まるで自分の部屋かのように『おいで』とベッドをポンポンと叩く。


「じゃあ、ご希望に応えて私のスーパープレイを見せてあげようじゃないか」

「このゲームにスーパープレイとかある……?」


 彼がそう言いながら、二十センチ程の距離を空けて隣に座る。


 すぐ側に、世界で一番大好きな人がいる。


 その幸福はいつまで経っても新鮮で慣れることはない。


「ん~……これはどうすればいいんだろ……」


 気を抜くと甘えてしまいそうになる気持ちを堪えて、画面へと集中する。


「えーっと……まずはWALLをKEYに変えて……」


 画面の中では、デフォルメされた四足歩行の生物『DADA』が文字列を運んでいる。


「そしたら次はPUSHを外して……」


 高難易度タイトルを選んだのが幸いしたのか、徐々にゲームの方へと割かれる意識の量が増えていく。


「よし、解けた! さーて、どんどん攻略してくぞー!」


 難関ステージを突破し、彼女がすっかりとゲームに集中し出した頃――


 こ、来ない……!?


 今度は少し遅れて、黎也が異変を察した。


 常日頃なら隣に座れば、すぐにベタベタと甘えてくる恋人が今日は全くその気配を見せない。


 それどころか、普段よりも距離を取られているような気さえしてしまっていた。


 まさか本当に、動画がバズって有名人になったことで自分に飽きてしまったのではないかと大きな不安が彼の頭を過ぎる。


「次は~……むむっ、これは難関の予感!」


 異変の原因は何なのか、それを探ろうにもプレイ中のタイトルはパズルゲーム。


 横から口出しするのはマナー違反である。


 故に出来たのは、普段は拳二つ分の距離を半分に縮めることだけだった。


「ど、どうかした……?」

「ど、どうかって……ちょっと座り直しただけだけど……」


 黎也からの急な接近に、光は再び困惑する。


 な、なんで今日に限ってこんなに積極的なんだろ……。


 普段とは違う恋人の様子に、心臓がドキドキと早鐘を打ち出す。


「そ、そっか……え、えーっと……これはWALL IS STOPを、どうにかして崩さないとダメなのかな~……」


 それでも、初志は貫徹しなければならない。


 今日は我慢の日。今日は我慢の日。今日は我慢の日。


 ……と光は頭の中で念仏のように繰り返すが――


「……はぁ」


 隣で、黎也が憂いを帯びた溜め息を吐き出す。


 ドッキーン!!


 その瞬間を目撃した光の心臓が、爆発しそうなくらいに跳ねた。


 え? え? 何? なんで今日はそんなに誘惑してくる感じなの!?


 普段の彼とは全く違う蠱惑的な雰囲気に、光の情緒が崩壊しかける。


「で、でもこれ……WALL IS PUSHが壁際に並んでるのをどうやったら動かせるんだろ……」


 なんとか平静を保つために口ではゲームに関する言葉を紡ぐが、頭の中はそれどころではなかった。


 現状は言うなれば『REIYA IS PUSH』の状態。


 今なら彼を押して押して押しまくれる。


 そんな状況で、本当に我慢し続ける必要があるんだろうかとの疑念が浮かび始めた。


 一方、彼女がそんな衝動を必死で堪えていることを黎也は知る由もない。


 彼からすれば現状は、普段は甘えに甘えてくる彼女が今日は全くそんな気配を見せていないだけの状況に過ぎない。


 時間が立つに連れて不安は更に募り、その表情は更に憂いを帯びていく。


「そ、そのステージ……難しいよね……」

「う、うん……どうすればいいのか全然分かんなくて……」


 そう言いながら、光は自キャラをステージ上で無為に動かす。


 ステージをクリアするにはWALL IS STOPのルールを崩して、壁の外からWINの文字を運んでくる必要がある。


 しかし、彼女は画面に映るパズルではなく、自分の置かれた状況を解決するために脳の全リソースを割いていた。


 私の彼氏が可愛すぎる件について。


 時間が経つに連れて、どんどん色気を増していく黎也の表情に彼女の情緒は決壊寸前。


 けれど、あれだけ強く誓った以上、自分から求めることはできない。


 HIKARU IS STOPのルールは画面端で固定されていて、決して動かせない。


 ただ、向こうから求められれば話は違う。


 向こうから求められれば、自分の誓いを破ることにはならない。


「れ、黎也くん……!」


 理性が崩壊する前に、『REIYA IS MOVE』の状況を作り出して、『KISS IS WIN』を完成させるしかない。


「もしかして、私に……何か言いたいことがあったりするんじゃないの……?」


 最難関ステージの解法を導き出した光が、膠着状態に切り込む。


「い、言いたいこと……?」

「うん、あるよね……? なんか今日、ずっと様子が変だし……」


 コントローラーを膝に置いて、神妙な口調で光が改めて問いかける。


「いや、言いたいことがあるというか……その、なんというか……」


 黎也が言い淀み、視線を下げる。


「私に出来ることなら……なんでもしてあげるから!」

「な、なんでも……?」

「うん、なんでも! だって、いつもは私がしてもらってる側だもん!」


 自分からは何も要求していないからセーフだと、反則ギリギリの言葉が紡がれる。


 もう少し……もう少しでクリア条件が達成される。


 さあ、黎也くん!! 私が全てを受け止めてあげる!!


 両手を広げて、万全の受け入れ体制を整える光。


「じゃあ……そんなこと考えてたんだって、引かないなら……」

「引かない引かない! 引くわけないじゃん! むしろ私の方がいつも引かれそうなこと言ってるし!」


 なんとか彼から言質を引き出そうと必死な彼女は、まだ知らなかった。


「だったら、その……光の……なか、を……」

「なか……?」


 彼が不安から下げた視線が、しばらく前からずっとある一点を見つめていたことを。


「光のお腹を触ってみたい……」


 そして、パズルゲームでは往々にして、プレイヤーが全く予期していなかった形で答えが導き出される時があることを。

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書籍第一巻は10月13日発売!!

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