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光属性美少女の朝日さんがなぜか毎週末俺の部屋に入り浸るようになった件  作者: 新人@コミカライズ連載中
第二章:闇属性の影山くんの這い上がり方

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第45話:夏休みの始まり

 朝日光との出会いからの約三ヶ月。


 高校二年の一学期は、間違いなく俺の人生において最も濃密な期間だった。


「えー……であるからにして、私は諸君らには秀葉院生としての自覚を持って、この夏を大変実りのあるものして欲しいと願っております」


 長かったそれも今、校長先生の長話と共に幕を下ろそうとしている。


「ところで、皆さんは経文緯武という言葉をご存知でしょうか? これは――」


 前言撤回、もう少しかかりそうだ。


 そうして、体育館の中で校長の拷問じみた長話を更に十分以上聞き続け――


「では、これにて私からの話を終わらせてもらいます」


 締めの挨拶を以て、ようやく一学期の終業式は幕を下ろした。


 同時に全校生徒から無言の歓喜が湧き上がる。


 列の後方から順番に退場していく。


 体育館を一歩出れば今から夏休みだと、既に出口の方から歓喜の声が響いてくる。


 楽しそうに騒いでいるのは、多くが一年生だろう。


 華の高校生になってから始めての夏休み。


 遊びに部活に、恋に友情にと、青春を満喫しようという感情がひしひしと伝わってくる。


 逆に、夏休みが夏休みにならない三年生は落ち着いている。


 あの人たちはこれから目前に控えた受験のために、各々が家庭の総力を結集して対策に励まなければならない。


 一方、俺たち二年は年齢的にも傾向的にもちょうど中間点。


 まだまだ青春を満喫しようとするグループと、一年なんてあっという間だと既に受験対策を始めているグループ。


 この二種類の生徒が、まだらに入り混じっている。


 ちなみに俺はと言えば、ある意味ではどこにも属していない。


 三人の変人とのゲーム開発に夏休みを捧げようとしている特異点だ。


 いや、他の皆からすれば俺も十分に変人の類か……。


 そんなことを考えていると、俺の区画が退場する順番がやってくる。


 後は教室に戻って、クラス毎のホームルームを終えるだけ。


 2-B(うち)の担任はグダグダと長話をするタイプじゃないから楽でいいと、もう半分終わった気分で渡り廊下を歩いていると――


「かーげやまくんっ!」


 後ろから呼びかけられると共に、背中をポンと叩かれた。


 俺に対して、こんな風に女子なんて光以外にいただろうかと振り返る。


「桜宮さん……?」


 振り向いた先にいたのは、クラスメイトの桜宮(さくらみや)(みやこ)だった。


「やっと終わったね。校長の話、笑っちゃうくらい長くなかった?」

「あ、ああ……うん、そうだね。長かった」


 まるで気心の知れた間柄のように話しかけてくる彼女に困惑する。


「まじで四字熟語の成り立ちとかどーでもいいっての……タイパ悪すぎっていうか、頭の中がまだ昭和で止まってんのって感じ」

「ははは……それで、俺に何か用……?」


 少し気後れしながらも単刀直入に要件を尋ねる。


 ここがパラレルワールドでもない限りは、俺と彼女はこんな気安い会話をする関係じゃない。


 何かを企んでいるのなら、さっさとその概要を話して欲しい。


「あれ? 影山くんって用がないと話しかけちゃダメな人だった?」

「いや、そういうわけじゃないけど……。これまで全然話したことなかったから……」

「だからこそ、これからいっぱい話したいなって思ったんじゃダメ? だって、ほら……私の“親友”の“彼氏”なんだし」


 顔に貼り付けたような笑顔と共に、『自分だけは貴方たちの関係を認めてあげている』とでも言いたげに言われる。


 そんな耳障りの良い言葉には、正直言って何らかの裏しか感じられない。


「そういうことなら……まあ……」


 けれど、表立っては友好的に接してきている以上は無碍にも出来ない。


「まあ、実際用事はあるんだけどね」

「は、はぁ……じゃあ、その用事って?」

「ほら、今度みんなで一緒に海に行くって話なんだけど――」

「え? ちょ、ちょっと待って……みんなで海に行く話って何……?」


 突然、全く知らない約束が出てきた。


「あれ? 光から何も聞いてない?」

「全く、何も聞いてないけど……」


 まるで知らない俺の方に問題があるかのように言われるが、知らないものは知らない。


 本当にパラレルワールドに迷い込んでしまったような心地になる。


「あ~……そうなんだ~……。実は今度、隣の県にオープンする高級リゾートの関係者向けのプレオープンに招待されたんだけどぉ。あっ、関係者ってのはうちの父方の叔父さんね。投資会社を経営してて、そこの開業資金にも出資して経営の方にも噛んでるんだって」

「へぇ~……それはすごいね」


 さらっと出てきた自慢話を適当に受け流す。


「とにかく、それで叔父さんが是非友達も連れて来なさいって言うから光も誘ったの。そしたら、『影山くんも一緒に行っていい?』って言われたから、てっきりもう聞いてたものだと思ってたんだけど」

「いや……全くの初耳だけど……」


 寝耳に水ならぬ寝耳に海だ。


「あっ、そうなんだぁ……じゃあ、難しい感じなのかな? 私としては影山くんにも来て欲しいと思ってたんだけど……」


 残念そうに言う桜宮さん。


 その『来て欲しい』に、どんな思惑が係っているのかは分からない。


「難しいってことはないけど……」


 断ろうと思えば、断る理由はいくらでも作れる。


 けれど、少なくとも表面上は友好的に接してくれている。


 そんな相手を邪険に扱わせること自体が目的かもしれないし、そもそも根本的に俺の考えすぎなだけで裏なんて無いのかもしれない。


「なら、来られるってこと?」

「……それって今すぐに決めないとダメなやつ?」

「うん、今日の午前中には叔父さんに参加人数とか伝えないといけないから」

「そうなんだ……光は乗り気だった?」

「うん、影山くんが無理なら一人でもって感じだったかな」

「だったら、俺も行かせてもらおうかな……」


 下手に断って、俺が理由で光の人間関係に悪影響を与えたくはない。


 思惑通りに乗せられているような気もしたが、首を縦に振らざるを得なかった。


「ほんとに?」

「光がそこまで行きたいって言ってるなら……まあ……」

「じゃあ、決まり! 光には私から言っておくから。それと、詳しい日程が決まったら連絡するからPINEのIDも教えてもらっていい?」

「あ、ああ……うん、いいけど……」


 罠にかかった獲物は絶対に逃さないとでもいうように、あれやこれやと話が進む。


 あっという間にIDが交換され、友達一覧にキメ顔女子のアイコンが並んだ。


「よし、これでOK! ありがと!」


 俺のアイコンが表示されているであろう自分の画面を見て、彼女が嬉しそうに言う。


「じゃあ、私は先に教室戻るから。またね」


 そう言って、桜宮さんは本校舎の方へと駆け出していった。


 本当にこれで良かったんだろうかと、その場で立ち尽くしていると――


「ドーン! だーれだっ!?」


 彼女と入れ替わるように、背後から襲撃してきた()()()に両目を覆われる。


「……目潰しのお竜?」

「残念! 惜しい! 正解は私でしたー!」


 軽快なステップで、視界の外から光がひょこっと姿を現した。


「いよいよ、夏休みだね! 夏休みだ!」


 よほど楽しみにしてたのか、普段以上のハイテンションで今にも踊りだしそうだ。


「……うん、そうだね」

「何かテンション低くない? あんまり楽しみじゃなかった? それとも調子悪いとか?」


 一歩距離を縮めて、心配そうに顔を覗き込んでくる。


「いや、そんなことないけど。海に行くのも楽しみだし」

「え? 海、行くの?」

「え? い、行かないの?」


 さっきの話との噛み合わなさに、顔を見合わせて困惑する。


「そんな約束してたっけ?」

「いや、さっき桜宮さんから今度開業するリゾート施設のプレオープンがどうとか……光も来るから俺も是非とかって言われたんだけど……」

「京のリゾート……あー、あれかぁ! あの話、まだ生きてたんだ!」


 ようやく話が繋がったのか、光が手のひらをぽんと叩く。


「……と言うと?」

「えっと、一昨日の日曜日に誘われて『黎也くんも一緒だったらいいよ』って返事したらそこで止まってたから、てっきりもう定員オーバーしちゃってたのかなって……ほら」


 光が自分のスマホを取り出し、当該の会話ログを見せてくれた。


 確かに、彼女の言った通りの内容で会話は止まってる。


「それがなんで、わざわざ俺の方に聞いてきたんだろ?」

「さあ? なんでだろう?」


 その不可解な行動に、揃って首を傾げる。


 光を通して合意を取れば、彼女にとって得られる結果は同じのはず。


 わざわざ俺に直接聞きに来る必要なんて――


「あっ……」

「ん? どうかした?」

「い、いや……なんでもない……」


 彼女が直接俺に仕掛けてくることで、明確に得られたものが一つだけあった。


 ……俺の連絡先だ。


 その事実へと思い立った瞬間に、友達一覧に並んだ『桜宮京』の名前がまるで呪いの装備のように思えてきた。


「詳しい日程が決まったら教えるからってPINEのIDは交換したけど……大丈夫だよね?」

「うん、大丈夫だけど……って、もしかして私がそのくらいで嫉妬するって思われてるわけ?」


 一応、恋人同士の礼儀だと思って伝えるが逆に訝しまれる。


「別にそうじゃないけど、念のために……?」

「私の友達なら絢火とか茜とかとも交換してるんだから今更でしょ」

「まあ、そっか」

「それより海楽しみだね! リゾートだよ! 高級リゾート!」


 俺の不安なんて知る由もなく、更にテンションを上げていく光。


 そうなってしまえば、今更水を差すわけにもいかない。


「どんな水着着て行こっかなー! そうだ! 今度、一緒に買いに行かない!?」

「あ、ああ……うん、俺も買わないといけないし……」


 流石に自分の考えすぎだろうと、推測を心の内に留めて教室へと歩き出す。


 今から始まる夏休みは、ここまでの三ヶ月よりも更に波乱の一ヶ月余りになりそうな予感を強く抱きながら。

次回は金曜日の18時に更新予定です。


それと一つ宣伝をさせてもらいます。

本作はカクヨムで数話だけ先行公開しています。

https://kakuyomu.jp/works/16817330667865915671

作者のメインの活動拠点はカクヨムなので、良かったら向こうでも合わせて応援してもらえると嬉しいです。

(なろうから削除することなどは現状考えていないので、そこはご安心ください)

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書籍第一巻は10月13日発売!!

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― 新着の感想 ―
[一言] マウントして大勝利大作戦もしくは、NTR戦争を起こそうと目論んでそうですが、かわいそうな事になる未来しか見えない、、、!
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