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光属性美少女の朝日さんがなぜか毎週末俺の部屋に入り浸るようになった件  作者: 新人@コミカライズ連載中
第一章:光属性の朝日さんの堕とし方

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第23話:接点OとP

 翌土曜日、朝日さんは約束通りに俺の部屋へとやってきた。


「ほ、ほんとにいいの……?」

「うん……全然、大丈夫。全く気にならないし……むしろ、逆に集中できるくらい」


 後ろから申し訳なさそうに紡がれた言葉に、余裕を持って応じる。


 今、彼女が遊んでいるのは低価格DLタイトルの『フルーツゲーム』。


 ゲーム配信者をきっかけに大流行したパズルゲームだ。


 ルールは単純で種々の果物を箱の中に落とし、同じ種類の果物をくっつけていくだけ。


 果物はくっつくと一段上の種類の果物になり、最終的には巨大なパラミツになる。


 箱から果物が溢れるとゲームオーバーで、それまでにどれだけの得点を稼げるかを競う。


 見た目だけだと簡単そうに思えるが、やってみると意外に難しい。


 よく思考して、サイズの異なる果物を無駄なく配置していく思考力が試される。


 そこに適度な引き運の要素と、絶妙な物理演算が加わって非常に中毒性の高いゲームに仕上がっている。


「ここにイチゴを置いて……でも、そうすると次に大きいのが来た時に困るなあ……」


 例に漏れず、朝日さんも既にかなりハマっている。


 一方、そんな彼女の横で、俺は次の木曜日から始まる中間試験の勉強をしていた。


 苦手科目である数学は、このままでは間違いなく赤点。


 特に重点的に対策しなければいけない。


「えーっと……この座標Qを通って、この円と接する直線の方程式が……」


 しかし今や俺の計算能力は、動画サイトで流れる数字を足したり掛けたりする謎のゲームの広告並みにひどい。


 数式を眺めていると、頭が痛くなってくる。


 接し合うのは果物だけにして欲しい。


「接点がOとPで……二つの接線の交点Rが……クッションの座り心地はどう?」


 詰まったタイミングで、気分転換に朝日さんへと話しかける。


「結構いい感じ。肘を置けるのがすっごい楽かも。影山くんも後で使ってみる?」

「ああ、うん……それじゃあ後で使わせてもらおうかな……」


 会話を切り上げて、また問題集へと向き直る。


「公式を使って導き出したこれを整理して……X軸方向に平行移動させて……どう? パラミツ出来た?」


 また振り返って、今度はゲームの進捗を朝日さんに尋ねる。


「うん、一つは何回か出来たけど二つ目を作るのがなかなか難しいなー……ってなってるところ」

「二つは容量がかなりギリギリだしね。俺もまだ一回も出来てないし」

「えー……そんなに難しいんだ。でも、それは逆に燃えてくるかも……」


 朝日さんの挑戦意欲の高さを確認し、またまた問題集と向かい合う。


「えっと……どこまでやったっけ……? もういいや……一回、解答見るか……」


 別紙の解答集を開いて、解説を読む。


 あー、なるほどね。


 こういう感じの解き方だよな。分かってた分かってた。


 これはもうほとんど解けてたようなもんだろ。


「朝日さん、何か飲む?」


 完璧に理解した問題集を一旦閉じて、またまたまた朝日さんに話しかける。


「え? ん~……今は特に喉も乾いてないし大丈夫かな」

「そう、なんか欲しくなったら用意するからいつでも言って」

「それはありがとうだけど……私、やっぱり邪魔じゃない……?」


 コントローラを握る手を止めて、申し訳無さそうな視線を向けられる。


「邪魔じゃない邪魔じゃない! 全然、そんなことない!」

「でも、やっぱり勉強してる横でやるのは流石に気が引けちゃうかなーって……」

「いやいや! むしろ、普段よりも三割増しで捗ってるくらい! その気の抜けたBGMがバイオリズムに上手く作用してるのかな」

「ほ、ほんとに……?」

「ほんとほんと……でも、ちょっと気分転換に一回だけやらせてもらってもいい?」

「うん、もちろんいいよ。はい」


 ちょうどゲームオーバーになった朝日さんのコントローラを受け取る。


 一回だけ一回だけ。


 勉強の合間に気分転換をするのは悪くない。


 むしろパズルゲームなら、頭の体操にもなって良い影響があるはず。


「じゃあ、一回だけ……」


 決定ボタンを押して、リトライする。


 ――――――


 ――――


 ――


 三時間後……。


「あーっ!! 惜しい!! びわが来てたらダブルパラミツチャンスだったのに!!」

「じゃ、次は私ね! 今回は絶対二つ作るから!」


 コントローラーを受け渡して、順番を交代する。


 もうすっかりと慣れた朝日さんは手際よく果物を繋げ、序盤の形を作っていく。


「このブルーベリーは後で救うことにして……やっぱり、右下パラミツ型で作っていくべきなのかな……」

「そのためには、ココヤシをどこで作るかも重要になってくるから気をつけて」

「だね。ドリアンの時点で下に小物が入り込まないように注意して作らなきゃ……」


 一つ一つ、慎重に果物を配置していく朝日さん。


 普段、彼女が帰宅している時間までは後少し。


 今日中にダブルパラミツを達成してみせるという強い気概を感じる。


「よーし! とりあえず一つ目!」


 その勢いのままに、一つ目のパラミツを瞬く間に完成させた。


 位置も良く、邪魔な果物も少ない。


 二つ目も狙えるスペースが十分に残っている。


 しかし、これはあるぞと期待が膨らんできたところで――


「ここでマルメロを作って……あー! 跳ねちゃったー!」


 合体させた際の物理演算によって、上に乗っていたブルーベリーが弾け飛んだ。


 咄嗟に打ち下ろすことも叶わず、箱から出てしまったのでゲームオーバー。


 かなり順調だったが、こういう意図せぬ挙動によって突然終わるのがこのゲームの怖いところだ。


「じゃあ、交代ってことで」

「う~……くやし~……」


 名残惜しそうにしている朝日さんからコントローラーを受け取る。


「よーし、そろそろこの戦いにも終止符を打たせてもらおうか……」

「頑張って……!! 影山くんならきっと出来る……!!」


 百人力の声援を受けながら、果物をどんどんと合体させていく。


 一つ目のパラミツは、先の朝日さんと同じくらい順調に完成させられた。


「ふぅ……とりあえず、一つは出来たけど問題はここからなんだよな……」

「ほんとにそれ……もう狭くて狭くて大変なんだよねー……」


 理想配置を頭に浮かべながら、それを目指して形を作っていく。


 時折、不都合が引きがあっても、アドリブで切り抜ける。


 そうして、なんとかダブルパラミツが完成する寸前へと漕ぎ着けた。


「問題はここから……後は引き運の勝負……」


 無駄な果物を捨てるスペースは、ほとんど残っていない。


 大物を引いた時点で一気に辛くなる。


 今、手元にあるのはブルーベリー。


 これを二つ重ねてアセロラにすれば、近くのアセロラと重ねて連鎖で一気にパラミツまでいける。


 しかし、次も確実にブルーベリーを引いて来られる保証はない。


 裏目でアセロラを引いてしまえば、悔やんでも悔やみきれない。


「朝日さん……ブルーベリーとアセロラのどっちが来ると思う?」

「え~……どっちだろ~……」


 確率は等分。


 ここまで来れば、後は運の勝負でしかない。


 重圧を押し付けるような形なのは申し訳ないが、朝日さんは間違いなく俺よりも()()()()()人だ。


 何より、最後は今日ここまでやってきた二人で完成させたい思いもある。


「……じゃあ、ブルーベリーで! 目にいいから!!」

「ブルーベリーね……了解! 来い!」


 彼女を信じて、躊躇わずにブルーベリーを落とす。


 そして、その次の手持ちに表示されたのは――


「来た! ブルーベリーだ!!」

「やったー! これもしかしてできちゃう!?」


 二人で手を合わせて喜ぶ。


「もう後は……ここまで積んできた自分の配置を信じるしかないかな……」

「あー……すっごい緊張してきた……」


 後は落としたブルーベリーを合体させるだけ。


 なんの思考も技術も必要ない。


「いけっ!!」

「いってー……!!」


 俺たちの想いが載った果実が落下する。


 最初の合体が次の合体を呼び、想像していた通りの形で順調に連鎖していく。


 しかし、後少し……全てが思い通りにいく僅か手前で、連鎖は止まってしまった。


「まじかよ……嘘だろ……」


 パパイヤとパパイヤの間に転がり込んだびわが、絶妙な位置で合体を阻害している。


 邪魔にならない位置に捨てておいたはずが、ここに来て反逆してきた。


 ダメか……? ここまでやってもダメなのか……!?


 高すぎる壁に、諦念の感情が浮かんで来た時だった。


「あっ! でも、見て見て! ちょっとずつ動いてない!?」


 立ち上がった朝日さんが、画面を指差す。


 くっつきそうでくっつかなかったパパイヤ間の空白。


「ほ、ほんとだ……! これはもしかしていくか……!?」


 そこがほんの僅かではあるが少しずつ狭くなり、接点Pが誕生しようとしていた。


「押せ!! もっと押せ!!」

「う~……動いて~……!」


 二人で祈るように念じる。


 画面の中では、本当に本当に少しずつ空白が狭くなっている。


 上から落として押すべきか……?


 いや、余計なことをすればさっきみたいに打ち上がる可能性もある。


 ここはこいつらのパワーを信じるしかない。


 いけ!! 生まれろ接点P!!


 心の中でそう叫んだのと同時に、パパイヤとパパイヤが接触を果たした。


 それを発端に次々と連鎖が発生し、容器の中は僅かな小物だけを残して空になった。


「で、できた……!!」

「空っぽになってる……!!」


 ダブルパラミツ――パラミツとパラミツが合体したことによって、無となる現象。


 俺たちは遂に達成したんだ。


 自分たちの勝利を認識した瞬間、心の奥底から大きな歓喜が湧き上がる。


「やった!! できた!! ははっ!! すげー!!」

「やったー!! できたできたー!! 私たちすごーい!!」


 立ち上がり、二人で抱き合って、ダンスでも踊るように喜びを表現する。


 俺が積み上げ、最後に朝日さんの天運が決めた。


 この長きに渡る困難な戦いに、俺たちは二人で終止符を打った。


 戦勝の祝宴は三日三晩続いた……わけもなく、一分もしない内に興奮は冷めてくる。


 そうすると、まずみぞおちの左右の辺りに妙な感触を覚えた。


 ――ムニュ……。


 パラミツ……程ではないけど、形の良いリンゴくらいの大きさはある物体。


 表面は少しゴワゴワした硬さがあるけど、中身は柔らかいのに元の形に戻ろうとする弾力のある不思議な感触。


 更に頭が冷えてくると、自分が何故か朝日さんと抱き合っているのに気がつく。


 背中に回した手のひらには、薄手のシャツ越しに素肌の感触がある。


 じゃあ、この胸元に当たっているのは……?


 いちいち公式に当てはめなくても分かる。


 接点OとPだ。


「だあああぁぁッ!! ご、ごめん!!」


 正気を取り戻し、慌てて身体を離す。


「ほ、ほんとにごめん! 舞い上がりすぎて勢いでやっちゃったっていうか……でも柔らかくて良い匂いだった……じゃなくて、とにかくごめん!!」

「う、ううん! 全然、平気だから! ていうか、私の方から行っちゃってた気もするし……それに影山くん、意外と体格がしっかりしてるっていうか……これが男の子なんだ……って、私も何言ってるんだろ……あぅぅ……」


 互いに興奮しすぎて、どちらから行ったのかなんて全く覚えていない。


 覚えているのは髪の毛から漂った甘い香りと、腕を掴んだ時とは比べ物にならない全身で感じた柔らかさだけ。


 きっと顔は真っ赤になってるし、目線なんて絶対に合わせられない。


 超絶気まずい空気の中、長い沈黙の時間が流れる。


「つ、続きやろっか……まだハイスコア更新しないといけないし……」

「う、うん……もしかしたらもう一回二つ作れるかもしれないもんね……」


 目線を合わせないまま、二人で定位置へと戻る。


 先の感触がまだ残っているせいか、妙に意識して普段よりも距離を取ってしまう。


 ハイスコアを大幅に伸ばせるチャンスだったが、凡ミスの連発ですぐに終わってしまったのは言うまでもない。

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書籍第一巻は10月13日発売!!

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