第20話:初デート? その5
「か、影山くん!? 大丈夫!?」
「だ、大丈夫……! ちょっとびっくりしただけで……」
心配してくる隣の朝日さんを手で制して、蕎麦を飲み込む。
まさかその角度から抉り込まれるとは思わなかった。
「……で、どうなの? 付き合ってるの?」
「無い無い無い! 俺と朝日さんが!? ありえない!!」
「じゃあ、なんでこんなところまで二人きりで遊びに来てるの? さっき言ってた共通点って何?」
「えーっと……それは……」
チラっと朝日さんの方を一瞥する。
彼女も俺と同じく、困ったようにこちらを見ていた。
流石に、ゲームのために俺の部屋に入り浸ってたなんて知られるわけにはいかない。
下手すればさっきの話が、数倍に膨れ上がって再燃する可能性もある。
「じ、実は……朝日さんのお兄さんと俺が友達で……」
だから、ここは思いきり嘘を吐かせてもらうことにした。
「大樹さんと?」
流石に小学校からの付き合いなので、朝日兄の存在は知ってくれていた。
「そ、そう! 大樹さんと! それで今日も本当なら三人で買い物に来る予定だったんだけど……待ち合わせの時間寸前に急用が入ったって連絡があって来られなくなって……。それでもせっかく集まったんだから今日は二人で遊ぼうかってことに……」
「う、うん……そうそう……お兄ちゃんがそんな感じなのは、絢火も知ってるよね?」
It Needs Twoで磨いた意思疎通能力を使って、二人で示し合わせて嘘を作る。
日野さんは蕎麦を啜りながら、ジトッと訝しむような目線を俺たちへと向けている。
「まあ、大樹さんならそんなこともあるのかな……大樹さんだし……」
日野さんが、呆れるように納得してくれる。
完全に信用してくれたわけではなさそうだけど、とりあえず急場は凌げた。
ありがとう、そんなことをしそうであってくれた大樹さん。
好感度を下げてしまったのは、今度何かで埋め合わさせてもらいます。
そうして、三人で天ぷらそばを食べ終わる頃には、朝日さんと日野さんはいつもの関係に戻っていた。
いつもの教室での風景と同じように、俺が立ち入る隙もない仲の二人に戻ったのを確認して、またほっと胸を撫で下ろす。
建物を出る頃には、時刻は七時を過ぎて外はすっかりと暗くなっていた。
当然、ここから全員が同じ方向に帰るので同じ電車に乗る。
しかし、ここでまたも誤算が一つ。
近場の朝日さんが先に降車し、車内には俺と日野さんが残されてしまった。
何か話すわけでもなく、ただ電車の走行音だけが響く重苦しい沈黙が続く。
気まずい……気まずすぎる……。
「影山くん」
そんな静寂を最初に破ったのは、彼女の方からだった。
「は、はい! なんですか!?」
「君……さっき嘘ついたでしょ?」
何の駆け引きもなく、いきなり放り込まれた言葉には心当たりしかなかった。
「え? な、なんのこと? う、嘘なんてついたかな……?」
「ほんとに……二人揃って分かりやすすぎ……」
今日、何度聞いたかも分からない呆れ口調で割れる。
「ぜ、全然心当たりないけどなあ……」
もう明らかに露見してしまっているが、それでも必死の抵抗を試みる。
「数学の試験の問1よりも簡単だったのに?」
「いや、俺からすればそれは十分難問だけど……」
「でも……光のことを想っての嘘だったみたいだし、今日のところは見逃しといてあげる」
そう言って日野さんが微かに笑った直後に、電車が停車する。
「じゃ、私ここで降りるからまた学校で」
席から立ち上がった彼女が、開いた扉から出ていく。
そうして車内には大量のプライズがとゲーミングクッションが入った袋を持った男だけが残された。
火属性の日野さんとの初対戦は……まあ、引き分けってことにしとこう。
*****
自宅に着き、スマホを確認すると朝日さんからメッセージが届いていた。
『今日は変なことに巻き込んじゃってごめんね』
文字からも、いつもの明るさがないのが微かに伝わってくる。
椅子に座り、どう返信すべきなのかをしばらく考える。
下手に気を使わせたくないよなと、書いては消してを繰り返し――
『とりあえずは丸く収まったみたいだし。楽しかった分と差し引きでプラスってことで』
結局、また柄にもないことを言ってしまう。
『ありがと。私もすごく楽しかった』
すぐに既読が付いて、返事が返ってくる。
もう一度、椅子に腰を深く掛けて、それにどう返すべきかを熟考する。
明日からはテニスの練習を頑張って。
日野さんにもあんまり迷惑かけないように。
いくつかの真面目な言葉が思い浮かんだのを、すぐにかき消す。
よく考えなくても、俺はそんな上から目線の言葉を言えるような人間じゃない。
『サボリたくなったら、またいつでもうちに来てくれていいから』
だから、下の立場として『また』という言葉を初めて俺の方から告げる。
今度もすぐに既読が付くが、返答は返って来ない。
流石にあれだけ詰められたら、もう来る理由もないか……。
そう思って、スマホを机の上に置こうとした時だった。
通知音が鳴り、新しいメッセージが表示される。
『じゃあ、今度の土曜日にゲーミングクッションの座り心地を確かめに行こうかな』
その内容に思わず苦笑してしまう。
今度は考えずに、すぐに返信内容を入力する。
『了解。サボりのプロとして、最高の環境を用意しとく』
送信ボタンを押し、スマホを机に上に置く。
「日野さんには死ぬほど恨まれそうだな……」
独り言ちながら買い物袋からクッションを取り出し、いつもの場所に設置しておいた。
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