第125話:夏の終わり、二学期の始まり
始業式が終わった後、俺は一人でとぼとぼと廊下を歩いていた。
光がいないと、まるで本当に数ヶ月前の世界に戻ったような気分だ……なんて少し懐かしさを覚えてしまう。
そして、もちろん周囲からは夏休み前と同じように――
『てか、珍しく朝日さんと一緒にいないんだな……夏休みに喧嘩でもしたとか?』
『いや、今大会とかで海外にいるんじゃなかったっけ……?』
『なんだ……別れてくれたのかと思ったのに……』
……なんて声が方々から聞こえてくる。
これも久しぶりに、自分がどういう扱いを受けていたのかを思い出させてくれた。
光が帰ってくるまでの一週間、また更に憂鬱な日々が続きそうだと歩いていると――
「かっげやっまく~ん!」
ご機嫌な呼び声と共に、背中を少し強めに叩かれた。
振り返ると、海で一緒だった松永さんが何かを片手に笑顔で立っていた。
「ああ、松永さん……おはよう……」
「おはよっ! 寂しそうな背中があったからつい叩いちゃった。ごめんね」
「いや、それはいいんだけど……」
松永さんも学年ではそれなりに強い影響力を持ってる陽キャ女子の一人だ。
案の定、なんであの二人が話してんの的な視線を周りから向けられている。
「光。帰ってくるのまだ来週だよね?」
「あー……うん、大会が始まるのは今日からだからちょうど一週間後かな」
「寂しい?」
俺の言葉に半ば被せるように、松永さんが少しからかうような口調で言ってくる。
「寂しいと言えば寂しいけど慣れてはきたかな。元は一人で過ごす方が多かったし」
「ふ~ん……じゃあ、これは要らないのかな? 寂しさを少しでも紛らわせてあげようと思って持ってきたんだけど」
そう言って、松永さんは手元に持ってた本のようなものを眼前に掲げた。
「それは?」
「こないだの写真! いっぱい撮ったからせっかくだしアルバムにしてみたの!」
「へぇ……アルバム……そう言えば、なんか高そうなカメラ持って来てたよね」
「うん、お父さんの影響で写真撮るの好きなんだよね。とにかく見てよ。結構上手く撮れてると思うから」
そう言って、松永さんはアルバムのページを捲っていく。
「えっと……影山くんと光の写真は……」
最初の方には海で男女のペアになって遊んでいた時の写真が載っていた。
アクティビティをしたり、海水浴をしたり、誰かが砂で作った城などなど。
俺たちがいなかった場所での出来事が克明に記録されていた。
「あったあった。この辺からかな」
松永さんが手を止めたページには、バーベキューの時の写真が並んでいた。
「ほら、女子に囲まれてた時の写真も。見て見て、光がすごい顔してる」
「ははは……ほんとだ」
彼女が笑いながら指差した写真を見て、苦笑いする。
女子に囲まれて肉の下拵えをしている俺を、光がすごい顔で睨んでいる。
あの日のことは何度も思い出して十二分以上に堪能したつもりだったけど、写真一枚で自分では気づいていなかったまた別の視点を見つけられるんだなと感心する。
「モテモテだったもんね~。この時の影山くん」
「いやいや……単に物珍しかっただけじゃないかな」
「そんなことないでしょ。みんな、この時までは単に影山くんのことを知らなかっただけっていうか……ごめん」
「え? ご、ごめんって……?」
急に謝られて戸惑ってしまう。
「ほら……なんか私ら……影山くんのこと、変な目で見てたでしょ? なんでこの人が光と付き合ってるんだろう的な……?」
「あー……でも、それはしょうがないって言うか……。それに俺も結構、みんなのことを勘違いしてた節があるから、そこはお互い様だったってことで」
松永さんの言う通り、確かに俺が当初そんな目で見られていた。
でも、それを言うなら俺も同じだったんじゃないかと今は思う。
みんなとの間に線を引いて、自分を知ってもらおうとする努力をしていなかった。
「じゃあ、相互理解の記念にとっておきの一枚をあげる」
そう言って、松永さんはアルバムを一気に最後のページまでめくる。
そこには俺と光がカラオケでデュエットしている写真が挟まれていた。
「どう? いい写真でしょ?」
「確かに、いい写真だとは思うけど……」
マイクを片手に全力で歌唱している光と、照れくさそうに歌っている俺。
被写体の性質を十二分に表現しきった見事な一枚だと思うけど……
「まだまだ擦り倒してくるね」
俺たちの足元には、カラフルな文字で『♥れいや&ひかる♥』と書かれていた。
「そりゃあ、末永く記念の一枚にしてもらいたいからね」
笑いながら言う松永さんに、俺も苦笑して応える。
こうして雑に弄られるようになったのも、認められた証だと甘んじて受け入れよう。
「だったら、せっかくだし光の分も合わせて二枚貰いたいんだけど」
「そう言われると思って……じゃじゃ~ん! 既に用意してありま~す!」
アルバムから抜かれた二枚の写真を手渡される。
「ありがとう。これは、帰ったら額に入れて飾っておかないと」
「どういたしまして。現像したやつじゃなくてデータも欲しかったら言ってね。あっ、ちなみに……宿でのオフショットもいっぱいあるからそっちも必要なら言って」
「えっ? お、オフ……」
ボソッと耳元で囁かれた言葉に、少し心を動かされかけていると――
「よっ、珍しい組み合わせで何やってんの?」
今度は修が会話に割って入ってきた。
後ろには、彼女の藤本さんの姿もある。
「あっ、修。久しぶり」
「おう、久しぶり。で、何やってたんだ?」
「松永さんが海で撮った写真を見せてもらってた。ほら、アルバムにしてて」
「へー、写真かぁ……! もちろん、俺と春菜のもあるんだろ!? ラブラブツーショット的な!?」
写真という言葉を聞いた修が、目を光らせて松永さんに詰め寄る。
「えー、あったかなぁ……。ほら、春菜が写真撮られるの嫌がるから……」
「それでも流石に、よく探せば一枚や二枚くらいは……」
「ん~……よく探しても~……無いみたい。ゼロ枚」
その無慈悲な通告に、修の方からガーンという音を幻聴する。
「何々? アルバム? 俺らにも見せろー!」
修がショックを受けて固まっている間に、海のメンバーが続々と集まってきた。
「ちょっと、男子は見ないでよ! 水着の写真もあるんだから!」
「別にいいだろ。海で散々見たんだから。ていうか、それなら影山はどうなんだよ」
「影山くんは彼女持ちだからノーカン! あんたらは見たいなら一人二万円!」
「横暴だ横暴! 俺らには思い出をよこせー!」
眼の前で、一冊のアルバムを巡って男子と女子が攻防を繰り広げている。
「じゃあ、影山! データをコピーして後で俺らに渡してくれ!」
「影山くん! 絶対ダメだからね! ねえ! なんで笑ってんの!」
自分がその中にいるのが少し信じられないと思いつつも、つい頬が緩んでしまう。
こうして高二の夏が終わり、二学期は幸先の良さそうなスタートを切った。
そして、そんな新たな学園生活の中へと遂に光が戻って来る日が訪れる。
『光属性美少女の朝日さんがなぜか毎週末俺の部屋に入り浸るようになった件』の第2巻がGA文庫より遂に発売されました!! わーぱふぱふ!!
https://ga.sbcr.jp/product/9784815626952/
発売に際して、私から言うことは二つです!!
まず、ありがとうございます!!
Web版共々、ここまで続けて来られたのは応援してくださった皆さんのおかげです。
これからも引き続き、影山くんと朝日さんの二人をよろしくお願いします。
それから二つ目は、どうか書籍を買ってください……!!
二冊、三冊とは言いません。
一冊でいいので買ってください……!!
これからもこの作品を末永く続けていく為に、皆さんの応援が必要です……!!
もちろん、単なる同情だけで買う必要はありません!!
二巻は約四万字の書き下ろしを行い、Web版とは異なるストーリー展開になっているのでWeb版で既にここまで読んでくださった方でも改めて楽しめる内容になっています!! なので、絶対に損はさせません!!
既にご購入いただいている方はありがとうございます!!
これからも本作をよろしくお願いします!!
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