第121話:光のいない日々 その6
「別にいいけど……足、引っ張んないでよね」
「え? う、うん……善処します……」
俺の返答を受け取ると、彼女は座ったまま視線を前方に戻す。
今日はずっと避けられている感じがしていたから意外だった。
てっきり、それなら別のペアにして欲しいとか言われるかと……。
「おーい、影山ー! 次、お前の番だぞー!」
「あっ、うん! ごめん! 忘れてた!」
大樹さんの登場によって中断されていたゲームが再開し、一ゲーム目は終了した。
最終的に、全十ペア中で颯斗と高崎さんのペアがそのまま逃げ切って一位。
椋本くんが帰宅して一人になった桜宮さんは最終フレームの二投共にミスをして四位へと沈み、俺と日野さんのペアは最下位だった。
最下位には罰ゲームとして日野さんには猫耳カチューシャ、俺には陽気なパーティ用のサングラスが与えられた。
日野さんはみんなから『かわいい』『似合ってる』などとからかわれながらも、あくまで自分の力不足だとそれを甘んじて受け入れていた。
けれど、その内側ではグツグツと煮えたぎるマグマのような怒りが着実に溜まりつつあるのは明らかだった。
そうして、波乱を予感させながら第二ゲームが開始されようとするが――
「大樹さんって、よくボウリングに来るんですか?」
「別に、そんな来るわけじゃねーけど……」
「それなのにあんなに上手いんですか!? すごーい!」
「良かったら教えてくれませんか? 私、さっきのゲームも全然ダメで……」
「あっ、抜け駆けずるい! 私も! 私にも教えてください!」
「私も!」「私も!」「私も!」
女子たちが、大樹さんを囲みながらワキャワキャと大騒ぎしている。
言葉を選ばずに言うと、紛うことなきハーレム状態だ。
対して、さっきまでその女子たちと楽しんでいた男子たちはまるで真冬の外に薄着で放り出されたくらいに冷え込んでいる。
どうして、こんなことになるはずじゃなかったのに……と、嘆いている心の声が外にまで漏れ出している。
朝日の一族が相手では仕方がないと諦めているのかもしれないけれど、それは大きな間違いだ。
大樹さんが本性を表せば、今は首ったけになっている彼女たちも一瞬にして干潮の海のように引いていってしまうだろう。
ただ、男子たちには悪いけど俺は光の名誉を守るためにそれを阻止しなければならない。
「大樹さんって趣味とかあるんですか? 最近、ハマってることとか」
戦いへと臨むために気を引き締めていると、女子の一人が危険なキーワードを口にした。
大樹さんの趣味……ゲームと答えるくらいなら問題はない。
でも、得てしてオタクはこういう時に早口で聞いてもいない詳細を語りがちだ。
そうなると大樹さんは最近、VRチャットで自作モデルにバ美肉して外国人と交流するのにハマってると前にグループウェアの雑談チャットで話していた。
「趣味? あ~……最近は、ぶ――」
まずい……!!
「ふ、フットサルと登山ですよね!! 大樹さんの趣味と言えば!!」
大樹さんの声をかき消すくらいに大きな声で、横から割り込む。
「な、なんだよ急に……フットサル……? そんなもんしたこと――」
「フットサルと登山ですよね!?」
その目を真っ直ぐ見据えて、『余計なことは言うな』と目で強く伝える。
「お、おう……そういや、そうだったわ……フットサルと、登山……」
ファンキーなサングラス越しに、俺の尋常じゃない圧を感じてくれたのか大樹さんが虚偽の事実を認めてくれる。
女子たちはそれを聞いて、かっこいいとか私もやってみたいとか騒いでいる。