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第115話:我慢比べ対決 その4

 って、爆発してる場合じゃない……。


 冷静になれ、冷静に……。


 そもそも、何をこんなに取り乱しているんだ俺は。


 確かにバニーは好きだし、メイドも好きだ。


 どっちもゲームにアバターがあればつい女性キャラに着せてしまうくらいには好きだ。


 でも、だからと言ってそんな安直に足し合わせただけのものを――


「ぴょんぴょん! どう? 似合う?」


 ……最高かよ。


 こっちに向いて可愛らしくウサギっぽいポーズを取る光を見て、落涙しそうになる。


 そもそも、バニーが本来有している属性はビジネスライクな多数への奉仕者と言えるだろう。


 しかし、そこにお飾り程度ではあるがメイドの属性を付与することで、ご主人様――個への奉仕者という属性を新たに付与している。


 つまり、通常であれば独占することは叶わないバニーという存在を自分の物にできるというわけだ。


 光がそこまで考えていたのかは分からないが、ある種の革命的なコンビネーションといえる。


「ひ、光……! て、提案があるんだけど……」

「何?」


 俺の呼びかけに光が振り返った。


 頭の上でウサ耳がピョンっと揺れて、それだけで精神が揺さぶられる。


 一方の光は既に自分の勝利を確信したような笑みを浮かべていた。


「一回……しとく?」


 そんな彼女に向かって指を一本突き立てて、そう提案した。


「一回って……チューをってこと……?」

「い、いや別に何をってわけじゃなくて……まあ、普段通りにっていうか……?」

「我慢するんじゃないの……?」

「そ、それはそうなんだけど……光が何かさっきからしたそうにしてるなーっていうか……ほら、さっきも我慢はするけど朝昼晩で一回ずつならって話もしたし……」


 もう崩壊寸前だけど何とか虚勢を張り続ける。


 とりあえず、白旗とまではいかないがここは一歩だけ向こうに歩み寄ろう。


 それで一度全回復してしまえばまだ戦えるはずだ。


 そう考えての提案だったが――


「…………………………でも、しない!!」


 長考の末に、思いも寄らない拒絶の言葉が返ってきた。


「え゛っ!?」


 思わず、喉の潰れたプロレスラーみたいな声が出てしまった。


「えって何? だって、我慢するって言い出したのは黎也くんの方でしょ?」

「い、いや……俺はあくまで過剰なスキンシップはって言っただけで普通の範囲内なら……」

「……そんなにこの格好をした私とイチャイチャしたくなっちゃった?」

「う゛っ……」


 もう既にそっちの心情は手に取るように分かっている。


 そう言いたげなしたり顔を浮かべて、からかってくる光。


 したいしたいしたいしたい……正直言って、めちゃくちゃしたい。


 今後、光がメイドバニーコスをしてくれるなんてこの先無いかもしれない。


 この機会を逃せば、俺は一生後悔するまである。


「じゃ、じゃあ……三回でどう? 朝昼晩で各三回ずつなら……」


 指を三本立てて、自分の欲と使命をギリギリ両立させられる数字を提案するが――


「二十三回」


 何の悩む素振りも見せずに、即断で拒絶の言葉が返ってきた。


「ご、五回……!」

「二十八回!」


 増えてるし……。


 とにかく、向こうに譲歩する気が一切ないことだけは分かった。


 でも、朝昼晩で二十三回は流石に多すぎる。


 そんなにキスをしたら唇がふやけにふやけきってしまう。


 それに、一度要求を飲んでしまえばまたずるずると行ってしまうのも明らかだ。


 またあの怠惰で爛れた週末に戻って、対外的な俺の評価が下がればそれこそもっと最悪の事態に発展してしまうかもしれない。


 こうなったら使いたくはなかったけど、最後の手段に打って出るしかない。


 机の上に置いてあったスマホを手に取り、PINEを立ち上げる。


 いきなり何をし始めたのかと首を傾げている光を横目に、メッセージを入力していく。


 送り先は『朝日光希(あさひみつき)』、つまりは光のお母さん。


 そして、メッセージの内容は――


『来週からアメリカ遠征なんで、やっぱり俺らも普段の生活で色々と引き締めた方がいいですよね? 今後はこういう機会も増えていくでしょうし』


 光に見えるように、スマホの画面を掲げてみせる。


 これが俺の究極召喚魔法。


 流石の光も母親兼コーチの言葉には従わざるを得ないはずだ。


「あさひみつ……ダメダメダメ! それだけは絶対ダメー!」


 俺が投じた捨て身の戦術に、光がスマホを奪い取ろうと飛びかかってきた。


「うわっ! 光! ちょ! だ、ダメだって!」

「だって、それは本当にダメだもん! お母さんを出すのはずるい~!」


 本気で抵抗する光と、ベッドの上でくんずほぐれつの状態になる。


 仰向けになった俺の上に光がまたがり、両腕を掴んでいる。


 なんかすごい体勢のような気がしないでもないが、今はそれどころじゃない。


「だ~め~! 二十回……! いや、十九回で我慢するから~!」


 凄まじい力で手首を捕まれ、スマホを奪われようとするが――


「ごめん……! でも、俺らの将来のためだから……!」


 寸でのところで何とか送信ボタンを押すことに成功した。


「あー!! ほんとに送ったー!!」


 送信されたメッセージがチャット画面に表示され、光が慟哭する。


「ばかばかばか~! 黎也くんのばか~!」


 俺の上にまたがったまま、ポカポカと胸を両手で叩いてくる。


「十九回で我慢するって言ったのに~……」

「ごめんって……でも、本当に大事なことだと思うから……俺が自立できるまでは光が一人で海外に行く時間も増えていくわけだし……」

「やだやだやだ~! それなら行かないから~!」

「いやいやいや……行かないわけにはいけないでしょ……」


 子どものように拗ねた光が胸に顔を埋めてまたポカポカと叩いてくる。


 何か悪いことをしてしまったような罪悪感に囚われるが、既に賽は投げられた。


 画面上のメッセージには既読の表示がついてしまっている。


 そして、数分もしない内に向こうから返信が返ってきた。


『そんなの気にしないで、今のうちにいっぱいイチャつきな~』


 続いて、デフォルメされたキャラがキスしているスタンプが送られてきた。


 二人で同時に画面から視線を外し、顔を突き合わせる。


 その後に何があったのか詳細は伏すが、とりあえず唇はめっちゃふやけた。

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書籍第一巻は10月13日発売!!

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