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第93話:海と陽キャと高級リゾートと その17

「れいや……ひかる……」


 停止した時間に入門してきた誰かが画面に書いてある文字を読み上げた。


 そこから更に一拍の間を空けた直後、空気が爆発したかと思うくらいの爆笑が沸き起こった。


「あっはっは!! もう、なんなの~!! この新手の惚気け~!!」

「お、お腹痛い……『♥れいや&ひかる♥』って……もうだめ……」

「え、えっとね……これが黎也くんのアカウントで、こっちが私ので……三つ目のこれは……その二人で一緒に遊ぶ時のためにって作ってやつで……ハートで囲むのは私のアイディアなんだけど、黎也くんもいいよって言ってくれたから……」


 アカウントを設定した光自身も自傷ダメージを受けて顔が真っ赤だ。


 どう振る舞えばいいのか分からないのか、何故か事細かに経緯を説明しはじめている。


「も~……大真面目に説明しないでよ……ほんとに可愛すぎ……」

「こんな変化球で惚気けられたらもうお手上げだわ……」

「ほんとだめ……バカップルにも程があるでしょ……ふふっ……」


 皆、呼吸困難になりながら様々な感情に身悶えている。


「黎也、流石に俺らの負けだわ……」


 我が校一のバカップルの座はお前たちのものだ、と修に肩をポンと叩かれる。


 他のみんなも、俺たちを囃し立てる言葉を次々と述べている。


 恥ずかしい。恥ずかしすぎる。


 この恥ずかしさは、公衆の面前で光に告白された時以上かもしれない。


 今なら顔から吹き出した火で、このリゾート地を焼き尽くす王になれそうだ。


「影山くん、もしかしてこれを見せつけるために持ってきたんじゃないの?」

「いやいや、そんなわけないから……」

「ほんとにぃ……?」

「ほ、本当だって……それよりアカウントは俺のでいいから何するのか決めない?」


 話題を逸らすべく、コントローラーを握って自分のアカウントを選択する。


「え~……二人のアカウントは使わないの~……?」

「なんなら、二人がイチャイチャ一緒にゲームしてるのをうちらが眺めるだけでもいいよ」

「もう……! いい加減にしないと怒るよ……!」


 尚も続く弄りに光が口ではそう言うが、顔は何故か妙に嬉しそうだ。


「ごめんごめん。だって、二人があまりにもいじらしすぎて」

「ふんっ! だったら、もう周りの目も気にせずにイチャイチャしちゃうも~ん!」

「ちょ、ちょっと光……」


 今度は宣言通りにベタベタと身体をくっつけてきた光に困る。


 それを見たみんながまたまたあれやこれやと囃し立ててくる繰り返し。


 朝日光の側にいると、否応なしにコミュニティの中心になってしまうらしい。


「で、どんなゲームあるの?」

「色々あるけど……多人数でやるにしても協力系とか対戦系とか……」

「簡単なのがいいかなー」

「じゃあ、マリモカートはどうだろ?」


 カーソルを動かして、国民的レースゲームを提案する。


「マリカーだって、よくない?」

「いいんじゃね? 一回ずつメンバー交代してやれば」

「さんせーい! 異議なーし!」


 ……というわけで、最初のゲームはマリモカートに決まった。


 早速プレイするために、皆にコントローラーを渡していく。


 コントローラーを配り終えると、少し離れたソファの隅に座る。


 今日の俺はプレイヤーじゃなくて、皆が楽しめるようにオブザーバーに徹しよう。


「どのキャラにしよっかなー……」

「私、ヨッピー!」

「あー……! ヨッピー取られたぁ……じゃあ、ピノヒコにしよっと」

「んじゃ、俺はマリモで!」

「光は何にするの?」

「もちろん……コワイージでしょ!」

「えぇ……」


 各々が好きなキャラとマシンを選択していき、いよいよ最初のレースが始まる。


 3,2,1……スタート!


 で、開幕からいきなりロケットダッシュを決めたのは光だった。


 で、案の定なんの波乱もなく圧倒的な一位を取った。


「やったー! 勝ったー!」

「光、光……」


 一人で嬉しそうに喜んでいる彼女に向かって手招きする。


「ん~? 何~?」

「本気でやりすぎ……ちょっと手を抜かないと……」


 他の皆には聞こえない声量でコソッと忠告する。


 女子も含めて初めて触るような人がいる中で、ほぼ最適なライン取りをしながらミニターボを連発するようなプレイヤーがいると遊びにならない。


 一戦目からめちゃくちゃなものを見せられてしまったせいで、他の七人もどう反応すればいいのか戸惑っている。


「えへへ……勝負ってなるとつい……」

「とにかく、今日の俺らは接待する側ってことで」

「了解! じゃあ、私もここに座ってスーパーバイザーになろっと!」


 再びの忠告に、光は俺の隣に座って身体をピタッとくっつけてきた。


 もしかして、最初から自然にこれをやるのが狙いだったのかもしれない。


 光を除いて再開されたゲームは、ちょうど良いバランスが保たれていた。


「ちょっと! 飛んでる時に雷撃たないでよ! ずるい!」

「ははは! 勝負の世界にズルいも何もないっての!」

「あ~……も~……光! さっきのスタートダッシュのやり方教えて! 次は絶対勝ちたいから!」

「えっと、あれは2のカウントが出た瞬間にアクセルを……」


 飛び抜けて上手い人はおらず、下位を取った人には俺や光から軽く助言をする。


 そうすることで更に均整を取り、戦いをより白熱させていく。


 もしかしたら、皆でやる機会があるかもしれない。


 そう考えて持ってきたゲームが、予想を遥かに超える盛り上がりを見せている。


 数ヶ月前までの自分にはありえなかった出来事に感慨深い想いを抱いていると――


「いつもの二人でも楽しいけど、大人数でやるのも楽しいよね!」


 隣から光が、言葉通りに楽しそうな笑みを浮かべてそう言ってきた。


「うん。楽しい」


 短く、素直に答える。


 本当はもう一つ、『全部光のおかげだ』と言いたかったけど、少し恥ずかしかったのと困惑させてしまうだろうと思って自分の内に留めた。


 そうして、しばらく皆が熱中している様を眺めていると――


「んじゃ……場が温まってきたところで、そろそろ本番といきますか!」


 発起人の男子である大場くんがコントローラを置き、そう言って立ち上がった。


「本番って?」

「また変なこと企んでないでしょうね?」

「まあ、見りゃ分かるって……絶対面白いから」


 自信満々にそう言いながら部屋の隅へと歩いていく大場くん。


 松永さんを始めとした女子たちが、そんな彼に訝しげな視線を向ける。


 俺も一体何なんだろうとその行動に注視していると、彼はおもむろに自分が持ってきた激安の殿堂のビニール袋を漁りはじめた。


 あの中には確かお菓子とパーティグッズしか……いや、待てよ。


 袋を漁っているその姿と、過去に自分の身に起こった出来事がダブって見えた。


 そう、過去には光も買ってきた激安の殿堂のパーティグッズの定番と言えば……!


「じゃーんっ! 次から最下位取ったら罰ゲームでこれを着るってのはどうよ!?」


 そう言って彼は種々のコスプレ衣装を両手で掲げてみせた。

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書籍第一巻は10月13日発売!!

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