第92話:海と陽キャと高級リゾートと その16
そうしてスティッチを使って扉を開けた俺たちは、女子のコテージへと足を踏み入れた。
玄関を入り、広々とした吹き抜けになったリビングを見回す。
内装は男子の方とそう変わらないはずだが、女子たちが使っているというだけで何故か妙にラグジュアリーな雰囲気を感じてしまう。
そんな中で女子たちは各々がソファに座って髪を解いたり、スキンケアなどをしていた。
「生きててよかった……」
「俺も……」
「いい匂いがする……」
「ちょっと……あんまりキモいこと言うならやっぱり出ていってもらうからね……」
無防備な部屋着姿でくつろいでいる女子の姿に男子がしみじみと浸っていると、さっきまでインターホン越しに話していた松永さんが言う。
「い、言わない! 言わないからそれだけはご勘弁を!」
「そ、そうそう! 俺らはまじで下心とかゼロ! 純粋に遊びにきただけだから!」
「……どうだか」
「影山くん、こっちこっち~! スティッチ持ってきて~!」
怪訝そうにため息を吐く松永さんの向こうから、今度はテレビの前に陣取っている女子たちが俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
「あっ、今持って行くから――」
「影山さん! ここは俺が持っていきます!」
「いやいや、俺が! お前みたいなガサツなやつだと壊すだろ!」
女子たちの方に向かおうとすると、男子たちが俺のカバンに群がりだした。
ここは俺が持っていく。お前らには任せられない。いや俺の役目だと。
まるで社交パーティに参加した公爵令嬢か、あるいは大病院の医局長にでもなったような気分だ。
「あれ? そういえば光は?」
ふと、くつろいでいる女子たちの中に自分の彼女の姿がないことに気がついた。
いつもならすっ飛んでくるはずなのに、まだ風呂にでも入っているんだろうか……。
「あっ、解放するの忘れてた……」
俺の疑問に、松永さんが思い出したように近くの扉へと小走りで向かう。
外から施錠してあったその扉を開けると、中から口にタオルを巻かれた光が出てきた。
「もぉ~……ひろいひょぉ~……」
「ごめんごめん。でも、結果的には望み通りになったんだからいいでしょ?」
「ひょれはひょうらけど……ふぇひゃひゅん、ひらっひゃ~い」
猿轡されたまま、光が多分『黎也くん、いらっしゃい』と言った。
「……どういう状況?」
「ほら、光がいたら『黎也く~ん! 早く入って私の胸に飛び込んできて~!』ってさっさと開けちゃって遊びになんないでしょ……?」
光を解放しながら、きまりが悪そうな口調で松永さんが言う。
「あー……なるほど」
「ちょっと、黎也くんまで納得しないでよ~! 私、そこまでしないってば!」
「ほんとにぃ……?」
「し、しない……よ? ほんとに……」
世界一頼りのない否定だった。
「そこの手余ってる男子~! 一階の寝室からもう一台テレビ持ってきてくれない?」
「おっけー。一番デカいやつ持ってきてやる」
「私、お菓子とお茶の準備してくるね」
「あっ、俺も手伝うわ」
そうして、ここに来て息の合った男子と女子の共同作業で準備が整えられていく。
それも、こんなに大勢で一緒にゲームをして遊ぶために。
陰キャゲーマーにとって『大勢の友達と一緒にゲームをする』は、『彼女と一緒にゲームをする』と並んで同率一位の夢だった。
高校に入学した時は絶対に考えられなかった光景が胸を打つ。
ともすれば涙が出てしまいそうなのを堪えている間に、準備が完了した。
「ぃよーし! 準備かんりょー!」
光が準備完了を大々的に宣言する。
スティッチが配線された二台の大画面テレビがよく見える位置に高級なふっかふかのソファが並べられ、テーブルの上にはお菓子やジュースが大量にセットされている。
今からここでとんでもない乱痴気騒ぎが行われるのが一目瞭然だ。
「では、僭越ながら……私が電源を投入させていただきます!」
光が高々と掲げた人差し指を電源のボタンへと下ろす。
カチッと小気味の良い音に続いて、内部ファンの駆動音が鳴り始める。
しかし、俺はここで一つ大きな地雷の存在を忘れてしまっていた。
スティッチの電源が入れられて、テレビにアカウント選択画面が表示される。
『れいや』『ひかる』『♥れいや&ひかる♥』
そこに並んだ皆さんご存知の名前に、世界が時間を停止させた。
いよいよ10月13日の発売日が迫ってきている『光属性美少女の朝日さんがなぜか毎週末俺の部屋に入り浸るようになった件』の店舗別特典情報がGA文庫の公式ブログで公開されました!!
https://ga.sbcr.jp/bunko_blog/t/20240930t/
展開されるのは『アニメイト』『ゲーマーズ』『メロンブックス』の三店舗で、購入者には書き下ろしSS付きのリーフレットがプレゼントされます!
SSの内容については、
・授業中にイマジナリゲームに興じる朝日さんを影山くんが観察する話
・昼休みに友達と恋バナをしてる朝日さんの話
・影山くんと朝日さんが実は高等部の入学式で出会ってた時の話
……の三本となっています。
どれもなかなかの出来だと自負しているので、是非特典付きの店舗で購入して読んでいただけると嬉しいです!!
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