第87話:海と陽キャと高級リゾートと その11
その後も、俺たちは様々な形で夏の海を満喫した。
二人でただ海入って泳いだり、バナナボートに乗ってプカプカと浮かんでのんびりしたり、ウェイクボードに挑戦した光の勇姿を撮影したり、後は童心に返って砂遊びなんかもした。
それでも光はまだまだ全く遊び足りていないようだったけれど、集合時間の十七時が訪れてしまったので二人の時間はここで一旦終了となった。
そうして最初と同じ場所に再び全員が集まり、今度は皆での夕食の時間に移る。
施設内にはホテルのレストランや様々な食事系のテナントが存在しているが、俺たちは皆でバーベキューを行うことが予め決められていた。
「お~い! これ、どこに置けばいい!?」
「コンロはそっちに並べて、クーラーボックスはこっち持ってきてー!」
「だってよ。んじゃ、俺と影山でクーラーボックスは向こうに持っていくわ」
「りょ、了解……」
重いクーラーボックスを両肩に担いで、二人で野外調理場の方に持っていく。
「おつかれー!」
楽々と担いでいる小宮くんの後を何とか追っていると、調理場から光が駆け寄ってくる。
「一個、持つよ!」
「だ、大丈夫……一人でいけるから……」
足をプルプルと震えさせながら薄い見栄を張る。
何とか調理場まで運びきり、コンクリートの上に二つのクーラーボックスを置く。
「みんなー! 食材来たよー!」
光の呼び掛けに、女子たちが集まってくる。
コンロなどの用具は全て施設からの貸出だが、食材は皆で持ち寄ってきたものだ。
今開ける瞬間まで、中に何が入ってるのか全てを知る者はいない。
「うわっ……男子の方、案の定肉ばっかり……」
「肉……肉……肉……これも肉……どんだけ肉ばっかり食べるつもりなの……」
一つ目のクーラーボックスを開けた女子が苦々しい口調で言う。
中にはパックに入った赤い肉が大量に詰め込まれていた。
それ以外はソーセージやベーコンなどの加工肉と焼きそば用の麺くらい。
魚介や野菜などは影も形も見当たらない。
「え~……お肉美味しいからいっぱいあった方が嬉しくない?」
男子の食材に愚痴を漏らしている女子たちの中で、唯一光だけが擁護の言葉を述べる。
「だからって加減ってもんがあるでしょ……」
「一応聞いとくけど……光は何持ってきたの?」
「お肉!!」
何の恥じらいも躊躇もなく、光は胸を張って答えた。
続けて、女子の持ってきた食材の入ったクーラーボックスが開けられる。
こっちには男子と違って多種多様な食材が入っていた。
同じ肉でも鳥や豚などもあるし、魚介や野菜などもちゃんと入っている。
「このマシュマロって誰が持ってきたの?」
「あっ、それ私~!」
「やっぱり千里か……」
「だって、焼くと美味しいって聞いたんだも~ん」
高崎さんのマシュマロ以外にも、バナナやバゲットなどの変わり種も少々。
ちなみに光は、アメリカ人のBBQ動画に出てきそうなブロック肉を持ってきていた。
そうして食材の確認が終わり、女子たちが準備に入っていこうとしたところで――
「ちょっと、男子も手伝ってよー!」
調理の陣頭指揮を取っている松永さんが、男子の方へと向かって声を張り上げた。
向こうは既にバーベキュー用コンロの設置を終えて、どこからか持ってきたサッカーボールで遊んでいる。
「あー? なんだってー?」
「手伝ってって言ったの! 自分らも食べるんだから!」
「俺ら包丁とか使えねーし! てか、そういうのは女子の仕事だろー!」
「うわっ……ひっどい時代錯誤……だからモテないんだっての……」
男子からの返答に松永さんがボソっと毒を吐く。
「俺らは手伝うけど、何すりゃいい?」
そんな彼女に小宮くんが当たり前のように言う。
「小宮は春菜が包丁触らないように監視しといて」
「了解。ほら、春菜。向こうで野菜でも洗おうぜ」
「なんで私が包丁触っちゃだめなの……?」
「いいから行くぞ」
「ねえ、なんで……?」
腑に落ちていない様子の藤本さんを連れて、小宮くんが洗い場の方に行く。
続けて他の皆も各々の持ち場に着いて、バーベキューのための準備が始まった。
そこでようやく、俺に発言の手番が回ってきたと松永さんに尋ねる。
「あのー……俺は何をすればいいかな?」
「えっ? あー……影山くんは……何してもらおう……」
相変わらず、何となく腫れ物に触るような扱い。
でも、ここで一歩前に踏み出さないといつまでもこのままだ。
少しでも周りの人たちから光の恋人として認められるようにしないと……。
「じゃあ、野菜でも切ればいいかな?」
「包丁、使えるの?」
「まあ、人並みには」
「んー……じゃあ、お願い」
なんとか役割を与えられたので、そのまま調理台の前へと向かう。
手を洗って、小宮くんたちが洗った野菜をまな板の上に載せる。
側に置いてあったセラミック製の包丁を手にとって、バーベキューに適した形に切っていく。
食べごたえがあるように少し大きめに、切る前に下処理が必要なものもしっかりやる。
その作業を黙々と続けていると、ふと隣から妙な視線を感じた。
隣を見ると、同じく野菜を切っていた松永さんが訝しげな目で俺の手元を見ていた。
「もしかして……何か間違ってたかな?」
「う、ううん……そうじゃなくて、意外と手際良いなーと思って……。普段、自分で料理とかするの?」
「料理というか従姉弟がやってる飲食店でアルバイトしてて……基本はホールの方だけど仕込みの手伝いとかもしてるから」
「へぇ~……そうなんだ……どこの店?」
「二葉駅前の水守亭って店なんだけど知ってるかな……」
「あー! 知ってる知ってる! 行ったことはないけど、美味しいって評判のお店だよね! へぇ~……あそこって影山くんの親戚の店だったんだぁ……」
「なになに? どうしたの?」
松永さんが意外な事実に感心していると、珍しい組み合わせに興味を持ったのか別の女子も会話に割り込んでくる。
「影山くんって飲食店でアルバイトしてるんだって。だからほら、野菜もすごく綺麗にテキパキと切ってくれてる。向こうにいる役立たず共とは大違い」
「あっ、ほんとだ。私より全然上手いかも」
「いやいや……そんな大したことは……」
慣れない褒められ方に思わず謙遜してしまう。
実際に自分の中では比較対象が依千流さんなので、そこまで自慢気にできる程の腕前とも思っていない。
「ねえねえ、男子の方のクーラーボックスに入ってたこのタッパーって誰のか分かる?」
なんとも言えないむず痒さを感じていると、今度は別の女子が見覚えのある保存容器を手にしながら皆に尋ねているのが見えた。
「多分、俺のかな」
「あっ、影山くんのなんだ。これ、中に何入ってるの?」
「えっと……青い蓋のやつは軽く下処理した牛肉と鶏肉を自家製のタレに漬け込んでおいたやつだったかな。昨日、少し時間があったから味付けのついでに、保存にも良いと思って」
野外のバーベキューは皆ではしゃいで楽しむのが主目的で、味は二の次。
でも、せっかくなら少しでも美味しいものを……と考えて、バイト終わりに翌日の仕込みをしている依千流さんの隣で、色々と助言を受けながら準備したものだ。
学生のバーベキューにわざわざそんなものを用意してきてキモいと思われたんじゃないかと心配になるが――
「自家製ダレ……あっ、ほんとだぁ。え~、これおいしそ~……。じゃあ、こっちの赤い蓋のも影山くんの?」
彼女は容器を開けて中身を確認すると、続けて別の容器も取り出して尋ねてきた。
「そっちはエビかな。普段、店で使ってるやつなんだけど従姉弟が持っていけって」
「ほんとだ。エビだー。これって殻は剥いた方がいいやつ?」
「いや、下処理はちゃんとしてきたからそのまま焼いて、食べる時に外せば大丈夫。殻がついてた方が焼いた時に旨味が逃げないから」
「影山くん影山くん。ついでに教えて欲しいんだけど、カボチャってどう切ればいいかな?」
「あー……カボチャは生のままで焼くと固くなるから、まず四分の一くらいに切って軽く下茹でするかレンジで少し加熱してから5mm幅くらいにスライスするのがいいんじゃないかな……」
「ジャガイモは!? ジャガイモはどうすればいい?」
「じゃ、ジャガイモは――」
え? な、何……? な、なんで集まってくる……?
突然アドバイスを求めて大挙してきた女子たちに困惑していると、誰かがボソっと呟いた言葉が俺の耳にも届いた。
「ねえねえ……彼って実は結構ポイント高い……?」
書籍版の発売まで後一ヶ月となりました!
本作も遂に自己最長の連載となりましたが、まだまだ二人の未来を最後まで書ききりたいと思っているので、応援の意味も込めて是非ご予約をよろしくお願いします!
もちろん、応援というだけでなく買ってくださった方には本編の方もしっかりと値段分以上には楽しんでいただけるものになっていると思っています。
特に間明田先生の口絵と挿絵は本当に素晴らしくて、Web版だけでは感じ取れなかった朝日さんの新たな魅力を3000%引き出してもらいました。
つまりは元が100億万光属性パワーだったので、書籍版は3000億万パワーということになります。
ちなみに二巻が出せれば3兆億万パワーになる予定なので、これはもう買う以外の選択肢はないですね。
https://www.sbcr.jp/product/4815626945/