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第75話:変則ダブルデート その9

 ゴンドラに乗り込んだ俺達は示し合わせたわけでもなく、片側の座席に着いた。


 そのまま少し間を空けて、下から自分たちの姿が見えなくなったことを確認し――


 ――ガタガタッ!!


 同時に、その場で180度転回。


 座席に膝立ちして窓の外から見下ろすのは景色ではなく、衣千流さんと大樹さんの二人が乗り込む次のゴンドラ。


 ちょうど、俺達に続いて乗り込んだ二人が左右の座席に分かれて座ったところだった。


 この観覧車は見晴らしをよくするためか、ゴンドラの上半分が透明の素材で出来ている。


 なので上から見れば、中の様子が丸わかりで実にありがたい。


「ねえねえ、どうなると思う? 私的には告白くらいは行って欲しいと思うんだけど」

「どうだろう……俺はもしかしたら、そこから更にもう一歩くらい進む可能性があるかもしれないって思ってるけど……」

「も、もう一歩!? は、初デートなのに!?」

「まあ、二人とももう大人だし……」

「お、大人……そっか……そうだよね……」


 何を想像したのか、光が隣でゴクリと喉を鳴らす。


 とはいえ、大樹さんのヘタレが筋金入りなのもまた間違いない。


 撒いた種が実らずに、何も起こらない可能性だって十分にある。


 ゆっくりと視界が上昇していく中で、眼下の二人を注意深く見守る。


 広くはないゴンドラの中で二人きり。


 全く意識していないなんてことはありえないだろうけれど、互いにまだそれらしい様子は見せていない。


「も~……お兄ちゃん、せめて何か話しかけてよ~……」


 特に会話もせずに、各々が外の景色を眺めている二人に光もやきもきしている。


 そうして特に何も動きのないまま、俺達のゴンドラは全体の四分の一に達した。


「あっ、見えなくなっちゃう……」

「反対側に移動しないと」


 二人の乗っているゴンドラが真下に隠れたタイミングで、逆側の席へと移動する。


 この観覧車は一周が約十二分なので、これで残りは後九分。


 まだまだ行動を起こすには十分な時間が残ってますよ!!


 頑張ってください!! 大樹さん!!


 祈るような心地で下のゴンドラの中にいる大樹さんに、エールを送り続けるが――


「あっ、もうてっぺんに来ちゃった……」


 俺達の乗っているゴンドラが観覧車の頂点に達し、遂に下り始めた。


 それから少しの間を空けて、二人が残っているゴンドラとちょうど同じ高さになる。


 互いの窓越しに目が合い、こっちに向かって衣千流さんが手を降ってくる。


 六分間も何もなかったからか乗る直前とは違って随分と余裕な態度に見えた。


 このままじゃ、今日一日の成果が無に消えてしまう。


 二人の姿が上部に消えていくのを見送りながら、『何か打てる手はないのか』と苦心していると――


「そうだ!」


 突如、天から稲妻のような閃きが降りてきた。


「どしたの?」

「光! キスしよう!」

「え!? うん! する!」


 俺の唐突も唐突な提案に、光が即落ち二コマばりの爆速で応じてくれた。


 俺達のゴンドラは頂点を過ぎて、向こうとの位置関係は入れ替わっている


 つまり、今度はこっちが向こうから丸見えの状態。


 一度目と二度目は不慮の事故だったけれど、三度目はこっちからあえて見せつける!


「んっ……」


 光の肩に手を置き、顔を少し傾けて唇と唇を余す所なく重ね合わせる。


 数秒もしない間に光の方もスイッチが入り、背中に回された手がギュっと服を掴む。


 唇を中心に、仄かな熱がじわじわと全身へ広がっていく。


 お化け屋敷から立て続けにこれを見せられれば、流石の衣千流さんも冷静でいられるわけがない。


 近くにいる唯一の異性――大樹さんのことを否応なく意識してしまうはずだ。


「っはぁ……んっ……っちゅ……」


 息苦しさに唇を離し、少しの間見つめ合って、再び唇を重ねる。


 向こうのゴンドラの中が見れない以上、手を抜くわけにはいかない。


 降車場へと辿り着くまで、僅かでも二人を触発するために熱を更に高め合っていく。


「れーやくん……好きぃ……」

「俺も……」


 キスだけに留まらずに、愛の言葉も交換する。


 そんな熱のこもった頂点から地上までの六分間の口づけ。


 当然、自己最長記録だし、“好き”の感情は有りえないくらい増幅されていく。


 だから、のぼせ上がり過ぎた俺達は全く気づいていなかった。


「……あれ?」


 窓の外から見える景色が、再び上昇し始めていることに。


 つーっと嫌な汗が背筋を伝う。


 未だキスに夢中で何も気づいていない光を横目に、窓の外を見ると――


 そこには、既にゴンドラから地上に降り立った衣千流さんと大樹さんの姿があった。


 二人は流石に呆れた苦笑いを浮かべて、俺達の乗ったゴンドラを見上げている。


「んぅ……なんで止めるのぉ……? もっとぉ……もっとしてくれないとやだぁ……」

「いや、その……もっとと言うか……二周目に入っちゃってるんだけど……」


 光が不満げに言葉を発する傍らで、二人の姿が少しずつ小さくなっていく。


「二周目ぇ……?」

「うん、ほら……」


 上昇し続けている外の景色を指さして、光に現状を端的に伝える。


 好きな人とのキスの魔力は絶大で、六分が体感でほんの数秒程にしか感じられなかった。


 降ろそうと試みた係の人の心境を思うと、気まずさでどうにかなりそうだ。


「あっ、ほんとだ……全然気づかなかった……」


 一方で少し遅れて現状を認識した光は、あっけらかんとした口調でそう言うと――


「じゃあ、もっといっぱいチューできるってことだぁ!」


 元の目的が何だったのかも完全に忘れたように満面の笑みを浮かべた。


 一周目と合わせて合わせて十八分連続でのキスは、流石にしばらくは破られない最長記録になったと思う。


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書籍第一巻は10月13日発売!!

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