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王宮生活の始まり(3)


 アルブレヒト先生がまだ王都に来ていないので初日の授業は早く終わった。


 私は本宮の廊下を歩いているときに遠くにジークを見かけた。

 どこかへ出かけるようだったので声をかけようか迷っていると


「ヴィヴィ!!」


 フィル兄様が駆け寄ってきた。

 いつものごとくハグをしようとしたフィル兄様の前にレーベッカが立ちはだかった。


「おおっとヤバイ。この女を抱きしめてしまうところだった……」


「フィリップ・アウフミュラー王太子筆頭補佐官、ここは公の場です。ご自重ください」


 フィル兄様とレーベッカが睨みあっていると苦笑したジークが近づいてきた。


「フィリップはどうして僕より早くヴィヴィを見つけられるんだ?」


「ジーク、どこかに行く予定だったのでしょう?邪魔してしまってごめんね」


 ジークは私をじっと見つめた。私が首をかしげてもしばらく見つめていた。


「…………あーーー、やっぱり僕はヴィヴィに隠しておけない……」


「??」


「ハイディ・ビーガーに会いに行くんだ」


 私は息を呑んだ。ハイディ・ビーガーというのはトーマスのお姉さまだ。どうして王都にいるのだろう?


「私も行ってはダメですか?」


「……いいよ。たぶんそう言うだろうと思って教えたんだ」


「え?ヴィヴィアーネ殿下?殿下はこの後離宮に戻りマリアレーテ殿下とお会いする予定です。それに勝手に外出なされると……」


「黙れ!ヴィヴィが望んでジークが許可したものだ。どうしてお前が口を挟む?お前の意見など聞いていない。側近なら主の望むことを最速で叶えるように動け!」


 レーベッカの言葉をフィル兄様が遮った。


「フィリップだって僕がいくらヴィヴィに抱き着くなって言っても聞いてくれないけどな」


 ジークがこそっと囁くので吹き出しそうになってしまった。


「ヴィヴィ、行こう」


 差し伸べたジークの手を取る。


「お待ちください!私もお供……」


「いらん!」


 レーベッカの言葉をまたもフィル兄様が遮った。

 私はレーベッカに向かって言った。


「ごめんなさいレーベッカ、ついてこなくていいわ。それよりお母様にお詫びの言伝をお願いしたいの。ジークと出かけたことを伝えてくれる?戻ってきたらお母様のところに伺うわ」


 私たちが歩き出すとアロイスがスッと後ろについた。


「お供します」






 馬車の中で私はジークとフィル兄様に事情を聞いた。


 ハイディ・ビーガー様、今は結婚したのでハイディ・クランプ様と言うらしい。ジークが態とビーガーという姓を使ったのは私に気づかせるためだろう。

 彼女はパルミロの屋敷で発見されたらしい。


 パルミロを捕えようと騎士団が向かった時には屋敷には事情を知らない使用人しか残っていなかった。

 その使用人たちも去り現在屋敷は無人で騎士団の管理下に置かれているそうだ。

 何か手がかりがないかともう一度屋敷を捜索したときに隠された地下室が発見された。その地下室に彼女は捕えられていたらしい。地下室のことは使用人は知らされていなかったようだ。


 パルミロが去って一か月、彼女は非常に衰弱した状態で発見された。幸いにも彼女の魔力は水に適性があったようで水を作り出すことができた。だから一か月も放置されていても生き延びることができた。あと数日発見が遅かったら駄目だったらしいが。


 彼女は急ぎ王立の病院に入院し今日になってやっと話せる状態まで回復したそうだ。

 それでジークが事情を聞こうと病院に向かうところだったということだ。


「ハイディ様の旦那様はどうしているの?トーマスのお父様とお母様は?」


「ビーガー家へは彼女の発見と共に知らせてある。彼女の夫にもだ。彼女の夫は事情を聞きたいので代わりの者を門の守衛勤務に向かわせ王都に呼び寄せる手はずをつけていたところだったんだ。今は騎士団の寮に待機している」


 そのあたりまで事情を聞いたところで馬車が病院に着いた。


 入り口で三名の人物が待っていた。


 様々な調査や追跡を行う王国騎士団第四隊の隊長と王宮の司法官、刑務官だと紹介してもらった。


 令嬢の失踪に関してはジークが責任者となって騎士団第四隊と共に調査にあたっていたらしい。パルミロの犯行だとの線が有望になったがまだいろいろな事がわかっていない。


パルミロの関連で捕えられたのはアンゲリカとパルミロの部下が二人。


 アンゲリカはパルミロの正体について何も知らなかった。しかし私に向けてウォンドで光線を放った。それからウォンドをパルミロに渡したこともわかっている。これも違法行為なのでさらに詳しい取り調べの上で厳重な罰が下るだろう。アンゲリカが未成年であることからウルプル伯爵も罰を受けることになる。既に去年、トシュタイン王国のガスパレの騒動で領内監督不行き届きとして罰金刑が課せられているので今回の事で爵位返上もやむない事だという。ウルプル伯領は更に埃が出てきそうなので現在王都のタウンハウスに蟄居の上取り調べ中で領地にも調査の人間が乗り込んでいるらしい。


 しかしパルミロの部下は二人とも王都に護送中に自殺をしてしまったらしい。これでパルミロの正体を探ることが困難になってしまった。

 また、失踪した令嬢、多分誘拐されたのだろうが——がどこに連れ去られたのかも調査中で一応国内の全ての港町には怪しい船がないか調査をするように通達済みだがまだ報告はないそうだ。




 病室でベッドに寝ていたのは穏やかな顔つきの女性だった。

 痛々しいほどやせ細っているが顔つきは柔和でトーマスと似た面影がある。


 彼女は目のまえに立った人物が王太子だと知ると体を起こし平伏しようとした。そこまで体力は回復しておらずベッドの上で弱々しく藻掻いただけだったが。


「クランプ夫人、無理はしなくていい」


 ジークが押しとどめると弱々しく頭を下げた。


「体力がまだ十分回復していないのに無理をさせるがあなたに聞きたいことがある」


 ジークの言葉に頷くと彼女は怯えた表情をした。


「パルミロの事ですね……何でもお話いたします」


 そう言いながらも震えている。


「あなたとパルミロは一年以上前に知り合ったのだろう?あなたは一度家出をしたが家に戻ってきた。しかしまたあなたはパルミロに捉えられていた。どうしてあなただけ戻ってきたのか、どうしてまたパルミロに捉えられていたのか、その辺の事情を聞きたい」


 ジークに問いかけられてハイディは口をつぐんだ。そのまま目を閉じる。震えは治まっていない。


「あの、私はトーマスの友人なんです。彼もお姉さまのことをとっても心配していました。私に何か力になれることがあれば仰ってください」


 私が言うとハイディ様は驚いたように目を開いた。


「ああ、聞いたことがあるわ。学院で仲のいい友達が三人もできたと……口下手のあの子にしては珍しく饒舌に喋っていたの。心配しないで、話したくないわけじゃないの。ただ恐ろしくて……申し訳なくて……あの頃からつい先日までのことは頭に霞がかかっているようで……今となっては自分がどうしてそんなことを考えたのかそんな行動をとったのか理解できないことばかりなの。お医者様に聞いたけど私は何か薬物を飲まされていたらしいわ。一か月放置されて身体が限界まで弱ったおかげで薬物が全部抜けたそうなの」


 彼女は私をトーマスの友人だと認識して話をしてくれた。

 そのリラックスした表情を見てジークは私に任せた方がいいと判断したらしい。お役人や騎士の方たちと一歩後ろに退いた。そして私は彼女のベッドの前に用意された椅子に座り彼女の顔を覗き込んだ。微笑みながら。


 彼女も私を見て微笑んでくれたがまだ衰弱している彼女は少し長く喋っただけで息が上がっていた。


「ハイディ様、急がなくていいんです。ゆっくり、少しづつでいいのでお話してください」


 そうして彼女はぽつりぽつりと話を始めた。








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