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二年生(22)——冬期休暇


 二日後、私は王太子妃教育の後ジークの部屋でフィル兄様とジークと三人で話をしていた。


 トーマスからはすぐに返事が来た。ジークになら話しても構わない、というか拒否なんてできないと。

 お姉さまは結局家出中のことは何も話さなかったそうだ。それと近況についても触れられていた。


 結婚後、お姉さまからは二~三か月の割合で家族に手紙が届いていたそうだが夏からはぱったり途絶えたらしい。そして先日結婚相手からお姉さまが実家に帰っていないかと問い合わせがあったらしい。


「まず二日前に話したご令嬢の名前はハイディ・ビーガー様。あ、今はご結婚されたから家名は違うのね。トーマスのお姉さまなの」


 トーマスはジークも良く知っている。ジークは複雑な表情を浮かべた。


「その女性は結婚したんだったな」


「ええ。ご結婚された方が竜の森の門の守衛勤務なので今は王都にいない筈よ」


「「竜の森の門の守衛勤務!?」」


 ジークとフィル兄様は驚いたようだった。


「どこの門だ?」


「そこまでは聞いていないわ」


「わかった。それはこちらで調べよう。フィリップ」


 ジークが声を掛けるとフィル兄様が急いで部屋から出ていきそうになったので私は引き止めた。


「待って!トーマスから貰ったお返事に書いてあったのだけれど……」


 私はトーマスからもらった手紙を見せた。

 その内容を読んでジークとフィル兄様が顔を見合わせる。


「それと……これは私の勘違いなのかもしれないけど……」


 私は躊躇いがちに切り出した。今から話すことは全く自信がない。


「去年の冬期休暇の時に街で偶然アンゲリカ・ウルプル伯爵令嬢と会ったの。その時彼女の連れの男性がパルミロって名前だったような気がするの」


 なにしろ一度アンゲリカが口にするのを聞いただけだ。ちょっと変わった名前だな、と印象に残ったのと、その前に学院で彼女が新しくできた彼が凄いお金持ちだと自慢していたのでこの人がお金持ちの彼かな?となんとなく覚えていただけだ。


「あの、でも全然自信は無いのよ。勘違いかもしれないし……」


「うん、それは慎重に調べるから大丈夫だよ」


 ジークは安心させるように言ってフィル兄様に向き直った。


「ヴィヴィ。貴重な情報ありがとう!急いで調べるよ。僕のヴィヴィはやっぱり最高だ!」


 フィル兄様は私の頬にキスを一つ落とし上機嫌で部屋から出ていった。


「ちょっ!僕のヴィヴィっていうのは僕のセリフだ!」


 ジークがハンカチで私の頬を拭いている。フィル兄様のは妹愛なんだから気にしなくてもいいのに。








 それからしばらくたって冬期休暇も終わるころ事態は進展した。

 

 それまでコズモ商会がどういう伝手でお茶会に招かれているのかがわからなかったのだがアンゲリカの紹介でコズモ商会のご子息のパルミロという人はジモーネ様とも知り合いになっていたらしい。そしてハンクシュタイン侯爵家の伝手で下位貴族や爵位無しの貴族のお茶会に顔を出して商品を売ったりしていたらしい。

 商品自体は良質で安価。加えてご子息は整った顔立ちで女性に対してとても親切で甘いセリフを吐くので必ず一人や二人はポーっとなってしまうらしい。ポーっとならないまでもどの令嬢も褒められて悪い気はせずお得な買い物ができるので評判は上々だったらしい。


 ジモーネ様も姉のゲルトルート様も取り巻きや派閥の令嬢からの評判がいいので鼻高々だったそうだ。それはジモーネ様たちに紹介をしたアンゲリカも同様である。


 パルミロはお茶会に招待されていくときにハンクシュタイン侯爵家の名前を出さないように頼んでいた。なので毎回紹介するのはハンクシュタイン侯爵家の派閥の誰かで毎回紹介者の名前が違うので絞り込みが難しかったのだ。お茶会に商会を招いた紹介者に聞いてもハンクシュタイン侯爵家の名前は出てこなかったし商会に詳しいのかと聞いても前のお茶会で紹介され評判がよかったから招待しただけだというばかりであった。


 しかし貴族のお茶会に正体不明の商人を招くわけがない。きっと大物の後ろ盾があるのだろうと考えられていた。


 コズモ商会自体は王都に店舗を構えていない。紹介や伝手を通じての販売しか行っていないという話だ。

 商品は化粧品や珍しい茶葉、普段使いできるようなアクセサリーに洒落た小物。簡単に持ち運びできるような物で女性が喜びそうな物を扱っている。


 店舗は構えていなくても王都に屋敷は構えていた。少し郊外だがかなり大きなお屋敷だ。使用人の数も多く調度品も見事だったらしい。それもコズモ商会の信用を高めた要因だった。


 らしいというのは今はそのお屋敷はもぬけの殻だからである。調度品も何一つ残っていない。

 コズモ商会は昨夏以来忽然と姿を消したのだった。


 この冬にまたお茶会に姿を現し始めたと情報を得たが上位貴族から下位貴族、爵位無しの貴族の内輪のお茶会までどこに姿を現すかわからず苦慮していたところ私の情報を得てアンゲリカを張っていたらパルミロが姿を現したらしい。


 そうして次に出席するお茶会が判明したので伝手を探り女性騎士がお茶会に参加した。


 パルミロの甘い言葉にポーっとなったふりをしたら帰り際、「あなたともう一度会いたい」と囁かれたそうだ。


 そうして次に彼が出席するお茶会を聞いて出席すると今度は「二人だけで会いたい」と囁かれたそうだ。

 誘いに乗って出かけた先で女性騎士は彼にメロメロになり家を出て彼の元に行く約束をしたそうだ。


 女性騎士は本当に彼の虜になっていてこっそり騎士団の寮を抜け出そうとしたそうだが彼女には監視が付いていた。


 彼女のあまりの変貌ぶりに同僚たちも唖然としていた。そののち判明したことは彼女の飲んだお茶に何かの薬物が混ぜられていたことだった。


 正気に戻った彼女の証言によると彼と話をしながらお茶を飲んでいるととてもいい気分になってきて彼のことが好きで好きでたまらなくなってくる。彼のお願いを何でも聞いてしまいたくなるし離れがたく思ってしまうらしい。


 但しお茶に薬物が混ぜられていると判明したのは後日だ。彼女の証言を聞き次のお茶会の日時を知った騎士団がそのお茶会を急襲、出されていたお茶やお菓子を回収して調べた結果である。


 残念ながらパルミロは取り逃がしてしまった。


 当日お茶会が開かれていたのはとある男爵家。騎士団は令状を持って押し掛けたのだがエントランスでの喧騒が聞こえると令嬢たちが心配そうな顔をするのを宥めながら「何が起こったのか私が確かめてきましょう」と席を立ったそうだ。

 しかし彼は戻ってこなかった。どこから逃げ出したのかも不明だ。


 騎士団はお茶会に出されていた食べ物や飲み物を回収するとともにパルミロの現在の住まいと目されている屋敷にも捜査の手を伸ばしたが彼はいなかった。


 以前と違い屋敷には使用人もいて調度品もそのままだったがパルミロと彼の部下らしい三名の人物は姿を消していた。

 屋敷にいたのは新しく雇い入れた使用人ばかりで彼らのことを詳しく知るものはいなかったのだ。


 コズモ商会、及びパルミロは王都から忽然と姿を消してしまった。


「すんでのところでパルミロを逃してしまった」


 ジークはかなり落ち込んでいた。


 私は慰めたかったし何か協力をしたかったが学院の新学期が迫っていたので後ろ髪を引かれる思いで王都を後にした。


 今度は馬車で学院に向かわなくてはならないので早めに王都を出発しなければならなかったのだ。





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