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二年生(20)


 トイレから出てきたところで私は三人の令息に取り囲まれてしまった。


「こんばんはヴィヴィアーネ嬢」


 知らない顔だ。知り合いでも何でもない。私は無視してその場を通り過ぎようとしたが行く手を塞がれた。


「つれないなあ。無視しないでくださいよ」


 ニヤニヤ笑う男たちに私は言った。


「私はあなたたちを知りませんわ。お話する義理はありません。そこを退いてください」


「僕たちはあなたに恋焦がれる哀れな男たちですよ。あなたをダンスに誘いたくても殿下が独り占めして近寄らせてもらえなかった。やっと一人になったんだ。僕たちに少し付き合ってくれてもいいんじゃないですか?」


 それは嘘だ。だって揶揄うような目をしてる。蔑んでいるのに嘗め回すような嫌な目だ。


「さああちらに言って楽しくお話ししましょう」


 一人が私の腕を掴んだので私は振り払った。


「何だよお高いなあ。お前元平民だろ」


 男たちは本性を出して来た。


「平民風情が俺たちに逆らうんじゃないよ。お前とは流れている血が違うんだ」


 こういう輩は一定数いる。この国で貴族か貴族じゃないかは魔力のあるなしだ。ある分野で成功をおさめ地位も名誉もある平民もいるし裕福な平民もいる。

 しかし王族を始め政治の中枢を担っているのは貴族であることも確かで建国以来民を守って導いてきたのも貴族である。それに国を守るという観点で竜の存在は不可欠である。よって貴族であるというだけで偉いと思っている選民意識の強い輩は一定数いるのだ。



 もう一度腕を掴まれる。

 私は男たちを睨んで言った。


「私はアウフミュラー侯爵家の娘よ。その手を放しなさい」


 けれど男たちは薄ら笑った。


「たかが養女だろ」


「アウフミュラー侯爵家も揉めてるって聞いたぜ」


「案外疎まれているんじゃないの?」


 それ、どこ情報?私はお父様やお兄様たちに愛してもらっていると今なら胸を張って言える。


「どっちみち関係ないよ。ヴィヴィアーネ嬢が俺たちと密室で楽しく過ごせば侯爵も愛想をつかすだろ。実の子でもないし」


「そうだな。殿下も目が覚めていいんじゃないか?」


「平民の卑しい女に誑かされた殿下の眼を覚ましてあげるんだ。僕たち感謝されちゃうかもね」


 男たちの勝手な言い分に腹が立った。


「ふざけたこと言わないで!私はあなたたちと一緒になんか行かないわ。こんなことしてただで済むと思っているの?」


「ただで済むに決まってるだろ」


「俺たちには強い味方がいるんだよ」


「そうそう。だって元はと言えばその人が僕たちに——」


「おい!喋り過ぎだぞ。もういいから早く連れていこう」


 男たちの手が伸びてくる。その時大きな声がした。


「ヴィヴィ!何やっているんだ?」


「カール!!」


 良かった。ホッとしながら私はカールの方を向いた。


 バタバタと私の方に駆け寄ってきたのはカールだけではなかった。

 アリーやトーマスだけではない。一組のメンバーが駆け寄ってくるのを見て男たちがたじろいだ。


「な、何だ君たちは」


「俺たちはヴィヴィのクラスメイトだ。それよりお前たちは何だ?」


「ぼ僕たちはヴィヴィアーネ嬢と少しお話していただけだ」


 一緒に駆け付けてくれたヨアヒム様が声を上げた。

 

「お前騎士コースの四年生のアーベル・シュティルケだろう、知ってるぞ。騎士コースの落ち……むにゃむにゃ」


 ヨアヒム様は最後の言葉を必死に飲み込んだ。


「上級生に対して失礼だぞ!!」


 アーベル何とか様は真っ赤になって怒ったけどカールが言い返した。


「そっちこそ令嬢に対して失礼だぞ!その手を放せよ!」


 男たちは慌てて私から手を放しそそくさと去っていった。


 男たちが見えなくなると私はホッと息をついてみんなにお礼を言った。


「ありがとう、助かったわ」


「間に合って良かったわ」


 アリーが微笑んだ。


 私はトイレに行く前にアリーに声を掛けていた。もしなかなか戻ってこなかったら様子を見に来て欲しいと。

 私はジモーネ様と取り巻きの令嬢たちに囲まれることを想定していたので男たちに囲まれたことは想定外だった。アリーが様子を見に来て一緒に巻き込まれたら嫌だなあと心配していたのだ。


 アリーは私が頼んだことをカールに伝えたらしい。その場にいた数人のクラスメイトにも。そうして入り口をそれとなく注意していたのだが私が戻ってこないので様子を見に行こうという話になったらしい。更に数人のクラスメイトも加わりみんなで私を探しに来てくれた。


 結局その人数にビビッて男たちが去って行ったので助かった。

 あの男たちが誰かに頼まれたみたいであったことは気になったが。それに処罰されないようなことを匂わせてもいた。もしかしたら学院の教師や関係者に頼まれた?


 どちらにしても先ほど男たちに言われたことは私一人の証言しかないから立証は難しいだろう。男たちは否定するだろうし。



 私は気持ちを切り替えてみんなと楽しくお喋りしながらホールに戻った。




 ジークは私の姿を見つけるとホッとしたようだった。


「なかなか戻ってこないから心配していたんだ。クラスメイトと話していたのか」


 私は曖昧に頷いた。さっきの出来事をジークに話そうかとも思ったがジークは今日でこの学院を卒業した。これから王太子としての仕事も忙しくなるのに遠い学院の出来事で煩わせるのも気が引ける。このまま何もないかもしれないし自分で対処しようと思い黙っていることにした。


 その後は何事もなく私たちはパーティーを楽しんだ。


 やっぱりジークやエル兄様の人気は凄くて別れを惜しむ人々に常に囲まれていた。








 次の日、私はイグナーツに乗せてもらって王都に帰ってきた。


 ジークやエル兄様はもともと荷物は侍従に任せ竜に乗って帰るつもりだったらしいが私はおかあさんといっしょに馬車でのんびり帰ろうと思っていた。


 それが急遽イグナーツに乗ってジークと帰ることになったのは婚約発表のためだ。

 もちろん馬車に乗って帰ってもプレデビューの夜会には間に合う。夜会の二日ほど前には王都に到着する。でも準備や諸々の打ち合わせなどで余裕があった方がいいだろうということでイグナーツに乗せてもらうことになった。


 王都に戻ってお父様やフィル兄様に挨拶をしたらすぐにドレスの試着に連れ出された。

 私のサイズで仕立ててもらっているが最終調整が必要らしい。


 その後もなんやかんやと忙しく過ごしプレデビューの夜会当日になったのだった。





今日は夜にもう一話投稿します。

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