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ジークハルトの遠征と失踪(6)


 私とフィル兄様はウルバンに乗り王宮上空を一周して戻って来た。


 ウルバンから降りると皆が信じられないと言った顔をしている。

 それほど竜が契約者以外を乗せるというのは異常な事なのだろう。


「陛下、先ほどのお言葉通り私とヴィヴィの随行を許可してくださいますね」


 フィル兄様の言葉に国王陛下は頷いた。


「あっ……ああ」


 その時フーベルトゥス騎士団長が急に言った。


「ヴィヴィアーネ嬢が乗ることができるのはフィリップの竜だけなのか?他の竜でも乗れるのか?」


「フーベルトゥス騎士団長、それはヴィヴィと僕の固い固ーーーい絆をウルバンが理解してですね——」


 フィル兄様の言葉を無視してフーベルトゥス騎士団長は「試してみよう」と言った。


 程なく別の赤竜が竜場に現れた。


 フーベルトゥス騎士団長はその竜に近づき私を手招きしながら言った。


「ディーター、俺と一緒に彼女も乗せてくれるか?」


 私はディーターの眼を見ながら言った。


「ディーター、乗せてくれる?」



 ディーターは忙しなく視線を私とフーベルトゥス騎士団長の間を行ったり来たりさせた。


 そして戸惑いながらといった感じではあるが前足を折り首を垂れた。


 私は無事ディーターに乗ることができた。







 周囲の驚きはいや増していた。


 その後ほかの者がフーベルトゥス騎士団長やフィル兄様の竜に共に乗ろうとしたが竜たちは拒絶した。

 一緒に乗ろうとしたものを威嚇し唸り声を上げた。


「兄上、彼女は何者ですか?」


 アウグスト・ゴルトベルグ公爵が国王陛下に囁いた。


「ルードルフの養女で平民生まれの少女だ。今のところは……」


 そんなことを話しているなどと私は知らなかった。フィル兄様と共に隣国に赴く準備に追われていたから。


 お父様が何を考えているのかも知らなかった。





 ルードルフは茫然と目の前の光景を見ていた。ヴィヴィアーネがフーベルトゥスと共に竜に乗って天を駆ける様を。


 彼女の正体は何なのだろう……あまりに大きすぎる魔力を持ち竜たちが頭を垂れ背に乗せる……


 初めは高位貴族の庶子なのではないかと思った。該当する者がおらず他国の貴族や王族の血を引いているのではないかと思った。


 いや、他国の王族や貴族ではない。他国にこれほどの奇跡が起こせるような力の強いものなどいない。まるで彼女は……そこまで考えてルードルフはかぶりを振った。いや。ありえない。かの王国は三十年も前に滅びたのだ。彼女がその血を引くなど……


 待て……本当に?本当にあり得ないのだろうか……調べてみる価値があるとルードルフは思った。しかし事は他国、今はトシュタイン王国に併合された地で起きている。調べるにしても慎重に事を運ぶ必要があるし時間もかかるだろう。



 今はまだヴィヴィアーネの正体を誰も知らない。彼女自身でさえも。










 ジークハルト王太子殿下の捜索隊は次の日の早朝王宮を発った。


 竜騎士団第二隊五十名に加えてフーベルトゥス王国騎士団長、フィリップ・アウフミュラー宰相補佐官、ヴィヴィアーネが一行のメンバーだ。






 第二隊隊長のギュンター・リンクス様は私とフィル兄様を見てちょっと眉を顰めたが何も言わなかった。


 ジークが消息を絶った場所はトシュタイン王国の中でもヴェルヴァルム王国寄りの場所、旧ゲレオン王国のソヴァッツェ山脈寄りの山の中なので一日でその場所まで飛んで行く予定になっていた。そのためにまだ夜も明けきらぬ早朝に王宮を発ったのだ。



 そうして一日竜に乗って空を飛び目的の場所にたどり着いたのは日が暮れる直前だった。


 目的地にはまだ少し距離がある荒野で私たちは竜から降りた。

 目的地の山の付近には田舎町があり峠の向こうには村もあると聞いた。竜の群れは目立ちすぎる。ここは敵国トシュタイン王国であり、私たちは不法入国者だ。ジークの行方不明も知られる訳にはいかなかった。



 徒歩で山のふもとまで移動し木々に隠れるような場所で仮眠を取った。そして次の日、私たちはようやく第一隊の騎士たちと合流を果たした。

 ジークが行方不明になって六日目を迎えた昼前の事だった。




 この地に残って捜索を続けていた第一隊の騎士たちの顔には疲労が濃く浮かんでいたが、第二隊が用意してきた物資を受け取り皆安堵の表情を浮かべていた。


 しかしブルクハルト第一隊長が捜索の状況を話し出すと皆一様に暗い顔をした。


「殿下が落ちたと思われる崖下を捜索したが殿下はおろか何の痕跡も発見できなかった。木々がへし折られたような跡や無理に葉がちぎられたような跡も見受けられなかったため殿下は崖下には落ちていないと思われる。そのことから黒竜が見事殿下を受け止めてくれたと考えられるのだが、殿下はおろか黒竜も一向に戻ってこない。殿下をどこかに降ろしたとも考えられるため現在この地点から順に範囲を広げて捜索中だ。未だ何の痕跡も見つかってはいないが……」


「南側の山の斜面に草木が踏みつぶされたような痕跡があったが……」


 ギュンター第二隊長の質問にブルクハルト第一隊長が答えた。


「それは魔獣の大群が通った痕跡だ。そちらも調べたし最初に襲われた町や峠向こうの村にも部下を派遣して探らせたが殿下を見た者はいないようだ」



 軽く軽食を食べ私たちはジークの捜索を始めた。


 落ちたと思われる崖下からかなり離れ西北の方角を捜索している時だった。


「川……」


 私は呟いた。

 私がいる少し小高い場所から川が見えた。そんなに大きな川ではないが流れは速そうだ。


「ヴィヴィ、何か言ったか?」


 フィル兄様が私を振り返った。


「フィル兄様、ジークは川に流されたとは考えられない?」


「うーん……あの崖下からこの川までかなりの距離があるよ。どうやったら川に落ちるんだ?」


「でももし川に流されていたら痕跡を残さず遠くに行ってしまうわ!」


 一応フィル兄様は私の考えをブルクハルト第一隊長に伝えてくれた。




 そうして下流を捜索した結果、私たちは少し開けた浅瀬で所在無げに蹲る黒竜を発見したのだった。




 

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