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ジークハルトの遠征と失踪(4)


 ジークを追ってフーベルトゥスが急降下した。


 竜騎士隊第一隊長のブルクハルトは小さく舌打ちしたがウォンドで合図の光を打ち上げた。竜に乗っているときは声など届かないので竜騎士隊はウォンドで打ち上げる光の色や回数で命令を伝える。


 隊長ブルクハルトの指示で竜騎士隊は急降下をしジークとフーベルトゥスを追った。

 追いながらも左右に展開し魔獣の群れを食い止めるべくウォンドで攻撃をする。



 竜騎士隊の組織だった攻撃に魔獣の群れは完全に勢いを削がれやがて進路を変えた。



 魔獣は本能的に竜を恐れるためヴェルヴァルム王国ではめったに出現しない。しかし大陸各地では魔獣の被害は一定数あった。太古の昔竜神によって駆逐されその数を劇的に減らした魔獣だがいなくなったわけではないし十数年に一度の割合で大量発生する。今回のように大群が町や村を襲うこともあった。


 竜騎士団はヴェルヴァルム王国に出現した魔獣を退治するだけでなく国交のある国に要請されて魔獣討伐に向かうことがある。それ故に魔獣との戦いには慣れていた。




 魔獣の大群が——と言っても竜騎士隊の攻撃によりその数を半数に減らしていたが、進路を完全に変えたのを見届けてジークや竜騎士隊は町から少し離れた荒れ地に着陸した。

 魔獣の群れは町を避け西の峠に向かって移動していた。




 ジークがイグナーツから降りると早速第一隊長ブルクハルトからお小言が降って来た。


「殿下、勝手に行動することはお控えください」


「すまなかった」


 ジークは一応謝ったが自身の行動を反省はしていなかった。


「ここはヴェルヴァルム王国ではありません。この国の民を救うのはこの国の兵士でありこの国の王族や領主です」


「わかっている、わかってはいるんだ。ただ私は目の前で何の罪もない人々が殺されていくのを見ていられなかっただけだ……」


 ブルクハルトはため息をついた。しかし本当のところは彼もジークと同じ気持ちだった。ヴェルヴァルム王国の騎士たちは『民衆を守る』『力無き者たちを守る』という精神を刷り込まれているのだ。他国の民とは言え目の前で危険にさらされていれば助けないという選択は無かった。



 その時一行の前に町の代表者たちが数名駆け付けて来た。


 彼らは荒れ地に降り立ったジークたちの前に駆け付けると一斉にひれ伏した。


「ありがとうごぜえます、ありがとうごぜえます……」


 お礼を言いながらむせび泣く。

 竜騎士たちはただただ謝辞を述べる町の人達を面映ゆそうに眺めていたがふと気づいたようにフーベルトゥスが問いかけた。


「魔獣の群れが町から逸れてくれてよかったが群れは峠の方に向かって行った。あちらには何があるのだ?」



 代表者らしき男が顔を上げていった。


「峠を越えた山の向こうっかわににちいせえ村がごぜえますだ」


 それを聞いてフーベルトゥスがブルクハルトを見た。ジークもブルクハルトを見つめる。

 ブルクハルトは苦々し気な顔をしながら部下の騎士たちに言った。


「峠に先回りして魔獣たちを迎え撃つ。一頭残らず殲滅する」


 竜騎士たちは「おおっ!!」と雄叫びを上げ自身の竜に乗る。ジークも急いでイグナーツの背に乗った。


 町の男たちがひれ伏す中、竜騎士隊は峠に向かって飛び立った。




 山の中腹は木々が生い茂り魔獣の姿を的確に捉えることはできない。峠付近の開けた場所にジークたちは陣取り魔獣を待ち受けた。


 それとなくその場所に誘導するように十名ほどの騎士が魔獣の群れに沿って飛びウォンドで攻撃して進路を誘導する。



 やがてその場所に魔獣の群れが姿を現す。


 取り囲むように陣形を取った竜騎士隊は一斉に光線を放ち魔獣を殲滅していく。見事な連携だった。


 程なくすべての魔獣を倒した竜騎士隊。数頭の竜が山頂の開けた場所に降り立った。開けていると言っても今は魔獣の死体が所狭しと転がっている。それを避けて数頭が降り立ったのだ。


 倒れてもまだ息のある魔獣にとどめを刺すためだった。


 ジークは地面に降り立つと感心したようにフーベルトゥスに話しかけた。


「竜騎士隊の連携攻撃は見事なものだな」


「ヴェルヴァルム王国自慢の竜騎士隊ですから。その中でも第一隊は精鋭ぞろいです。地上戦では我が王国騎士団も負けてはいないのですが」


 苦笑しながらフーベルトゥスは答えた。


 暫く竜騎士たちの働きを眺めていた時だった。


 


 一人の竜騎士の背後で魔獣の尾が動いたような気がした。


 思わずジークは飛び出していた。魔獣と竜騎士の間に身体を滑り込ませる。


 瀕死の魔獣の最後の一撃だった。


 太く長い尾がジークの身体を打った。


 ジークはその勢いで吹っ飛んだ。運悪く吹っ飛んだ先は崖だった。


「殿下―――!!」


 フーベルトゥスの叫び空しくジークは崖を落ちていった。


 エルヴィンの声が聞こえたような気がした。


『身を挺して庇うような危険なことはするな』


『いつまでも加護があるわけじゃないだろ』


 魔力封印をすべて解除したジークには既に加護は無い。


 ああ、エルヴィンに怒られるなあ……と思いながらジークは崖を落ちていった。





 ジークが魔獣の一撃を受けて吹っ飛ぶと同時にイグナーツは飛び立っていた。


 崖を落ちるジークを追って急降下する。




 竜騎士たちは何らかの原因で竜の背から落ちてしまった時の訓練もしている。竜は必ず追って来てくれるからだ。空中で態勢を整え再び竜に乗る訓練だ。


 しかし当然ながらジークはそんな訓練はしていない。ほんの数日前に竜と契約したばかりなのだ。


 上手く竜の背に着地できるかはわからなかった。


(黒竜よ、何とか殿下を救ってくれ!)


 フーベルトゥスは祈る事しかできなかった。


 第一隊隊長のブルクハルトはすぐさま指示を出し上空を旋回している騎士たちにジークを捜索させた。



 竜騎士たちは様々な方向から崖下に向かい急降下する。


 崖下はうっそうと木が茂り見通しが悪かった。



 竜騎士たちは懸命に捜索するもジークを発見することが出来ず黒竜も見当たらなかった。



 程なく崖下の竜が下りられるような場所に集結した竜騎士たちは徒歩での捜索に切り替えた。

 日没はもうすぐだ。暗くなってしまえば捜索は益々困難になる。


 誰の顔にも焦りが浮かんでいた。



 そうして一晩経ちフーベルトゥスは決意した。


「俺は一旦ヴェルヴァルムの王宮に戻り陛下にこの事態の報告をする。そして装備を整え人員を増やして戻ってくる」


 第一隊長ブルクハルトに告げるとブルクハルトも頷いた。


「私たちは引き続き殿下を捜索します。しかし野営の準備も捜索の装備も何もかもが足りない。それが一番いい方法だと思います。上空を竜がいつまでも飛んでいると人目を引く。殿下の行方不明はこの国には知られる訳にはいかない。竜は一旦返して徒歩での捜索にします」



 ブルクハルトは殿下の行方不明と言った。彼は殿下の生存を信じている。俺も信じよう、殿下が無事に戻ってくることを。


 祈るような気持ちでフーベルトゥスは二名の竜騎士と共にヴェルヴァルム王国の王宮へ急いだ。







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