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二年生(3)


「あっ!!」


 私は思わず叫んだ。


 二人の男は昨年の夏、私を誘拐した密猟者。騎士たちを傷つけ牢を逃げ出した二人だった。


「ほう、あんときの嬢ちゃんか。ジャン、この子も攫って行くか」


 弓使いの大男はカール達男子を歯牙にもかけていないように嗤った。


「まあ待てベニート」


 ジャンはヘンデルス様の方を向いて言った。


「坊ちゃん、手に持っている物を寄越しな」


 カールが歯噛みする。エーリク様がそろそろと動き出したのを彼らは見逃さなかった。


「おっと、妙な動きはするなよ」


 見せしめるようにそっとナイフを引くとグレーテ様の喉に血が滲んだ。


「ひっ!」


 グレーテ様は失神寸前だ。


「彼らは躊躇いなく人を殺すわ。昨年ウチの領で騎士たちを刺して逃げ出した凶悪犯よ」


 私の言葉にエーリク様も動きを止めた。

 ヘンデルス様が信号筒を差し出す。


 それを引ったくってジャンが言った。


「さすが嬢ちゃんは俺らのことをわかってるなぁ。おい!!これ一つじゃないだろう全部出せよ!」


 カールとトーマスも渋々差し出す。


 三つの信号筒を受け取るとジャンたちはそろそろと後ずさる。


「あの嬢ちゃんも攫って行かなくていいのかい?」


 ベニートが私を見るがジャンは慎重だった。


「こいつらは魔力持ちだ。死ぬ気になられたら厄介だろ。それに三人も人質を取ったら目を配れなくなる。この二人の嬢ちゃんで我慢だ」


「わかったぜ。さすがジャンだ」


「おい!動くなと言っただろう!」


 ジャンが鋭く言うとカールが動きを止めた。


「わ、わかった。わかったからその子を傷つけるな」



 ジャンとベニートは私たちから十分距離を取るとアリーとグレーテ様を担ぎ上げ竜の素材が入ったズタ袋を引っ掴むと走り出した。


「あ!待て!」


「追いかけよう!」


 カールが走り出そうとするのをヘンデルス様が止めた。


「待て」


「お前!アリーたちを見捨てるのか!」


 カールが詰め寄ろうとするのをトーマスが止めた。


「このまま追いかけてもさっきの二の舞だ。カールとヨアヒム、お前たち二人は走って助けを呼んできてくれ。その間僕たちはあの二人を追跡する」


「俺も後を追う」


 カールが言い張るがヘンデルス様の言おうとしていることが私はわかった。


「カールとヨアヒム様が一番足が速いからね?」


「そうだ。君たち二人に託す。僕たちはあの二人を追跡するが危害が加えられない限り手出しはしない。通った道がわかるように目印を残しておく」


「カール、ヨアヒム様、一刻も早く助けを呼んできて!私もあなたたちに託すわ」


 カールの判断は早かった。


「ヨアヒム、行くぞ!」

 

 一声かけると脱兎のごとく走り出した。


 同時に私たちも追跡を開始した。


 二人が逃げていった方向へ走る。


 既に二人は見えなくなっていたがここで活躍したのがアウレール様だった。


 彼は植物が踏み荒らされた跡を見て方向を特定することができたのだ。


 暫く方向を探りながら進んでいたが突然トーマスが小さい声で言った。


「止まって!背を低くして!」


 私たちはしゃがみこみトーマスが指す方を見た。


 木々の向こう、沢のほとりの少し開けた場所に彼らはいた。


 私たちは細心の注意を払いながらそろそろと彼らに近づいて行った。





 アリーたちを縛り上げながらベニートが言った。


「奴ら助けを呼んでくるぜ。ジャン、どうする?」


「竜の素材も手に入ったしずらかるしかないだろう。ホントはもう二、三頭仕留めたかったがな。この森の結界は入ることはできないが出ることはできるはずだ。森の端まで移動するぞ」


「手配されていないか?」


「だからここから離れたところから出るんだよ。ウルプル伯爵領かレッダー子爵領辺りまで行けば監視も緩いはずだ」


「さすがジャン。頭いいぜ」


 二人を縛ったベニートは沢の水を水筒に入れた。


「じゃあ出発しようぜ」


 二人はアリーとグレーテ様を担ぎ上げようとしたがグレーテ様が泣き叫んだ。


「いや!いやよ!放して—―!」


「うるせえな!」


 バシッ!!


 途端にベニートに頬を張り飛ばされグレーテ様が倒れこんだ。


「乱暴はしないで!」


 アリーがキッと睨む。


「おうおう、こえーな」


 ベニートは嗤いながらアリーの頬も張った。


 

 バキッ!


 アリーが倒れこんだ時、私たちは思わず駆け寄ろうとしてしまった。木の枝を踏みつけ音がする。

 その音をジャンは見逃してはくれなかった。


「ベニート、お客さんだぜ」


「何だよさっきのガキどもか。なあジャン、やっぱり殺っちまおうぜ」


 私たちは身構えた。咄嗟にトーマスとヘンデルス様、エーリク様が前に出て私たちを庇う。

 でも私たちは丸腰だ。ロープとかは持っていても武器は持っていない。


 

 ベニートがナイフをもてあそびながら私たちに向かってきた。


 その瞬間、私はトーマスの陰から躍り出てベニートに魔力を放った。

 人に向けるのは怖かったけどなるべく手のナイフを狙った。


 バチッ!


「いてっ!こいつ何しやがった!」


 ベニートのナイフがはじけ飛んだ。手には切り傷が出来ている。


「みんな!障壁を張るんだ!」


 ヘンデルス様の声でみんな一斉に障壁を張る。


 顔を真っ赤にしたベニートが襲い掛かろうとするが障壁に阻まれて進むことができない。


 しかしそれも時間の問題だ。私たちはまだ三分の一しか封印を解除されていない。長時間障壁を張ることはできないし、大きな衝撃を受ければ障壁は破られてしまう。


 ジャンは倒れこんだアリーとグレーテ様を引っ張り起こそうとした。

 二人を傷つけると脅して障壁を解除させるつもりだ。


 私は二人の元に駆けだそうとした。



 ギャー―オ――


 突然、背後の森から何かが飛び出してジャンに襲い掛かった。


 

 竜だ!大人の男の人ぐらいの大きさの竜がジャンに襲い掛かっていた。

 まだ成竜ではないが鋭い爪や牙は持っている。


「うわーー!なんだこいつ!あっち行け!」


 ジャンはナイフを振り回した。竜に人質は通用しない。アリーとグレーテ様そっちのけで竜に向き直る。


 ベニートは竜を見ると私たちを襲うのを止め荷物のある所に走った。

 取り出したのは弓と矢だ。


「させない!!」


 私はもう一度魔力を放った。


 弓が手から弾け飛ぶ。弦が切れたのが見えた。


「くそっ!」


 ベニートは落ちたナイフを拾いジャンの加勢に向かう。


 その隙にトーマスとエーリク様が走りアリーとグレーテ様を助け起こした。


「竜さん!逃げて!」


 まだ成竜ではないその竜は大きさ的にもジャンたちと変わらない。いくら鋭い爪や牙を持っていても危ないような気がした。


 ギャオーーーー


 その時空から別の竜の咆哮が聞こえた。


 ハッと空を見上げると青竜と緑竜が旋回している。

 そしてその背に人が乗っているのが見える。



 助けだ!助けが来てくれたんだ!




 


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