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二年生(2)


 出発してしばらくは順調に進んだ。


 グレーテ様もアウレール様も黙ったまんまではあるが大人しく後ろをついて来ていた。

 が、徐々にアウレール様が遅れ始める。

 私たちは二人並んで進めるくらいの踏み固められた小道を歩いているのだがアウレール様はきょろきょろとあたりを見るのに忙しかった。そしてしばしば立ち止まるのでみんなから遅れがちになるのである。


 アウレール様がひょいと道から外れて森の中に踏み出そうとした時、トーマスに首根っこを掴まれて引き戻された。


「何処へいくんだ?アウレール」


 カールが問いただす。


 アウレール様はしばらくもごもごと言い訳をしていたが、突然開き直ったように大声で宣言した。


「僕はここから別行動する!」


「「「はあ!?」」」


()()()()()()とバスラ―先生は言った。別行動なんかできるわけないだろう」


 呆れたようにヘンデルス様が言うがアウレール様は「僕なんて目立たないしいてもいなくてもわからないよ……」と呟いている。


「何故アウレール様は別行動をしたいのですか?」


 私は聞いてみた。

 暫く下を向いていたアウレール様はポツリと言った。


「ここには珍しい植物が沢山あるんだ……」


「「「植物??」」」


「僕は植物の研究をしたいんだ。ここには図鑑でしか見たことがない植物がたくさん生えているんだ」


 私たちが呆気に取られているとアウレール様は続けた。


「僕は本当は植物の研究第一人者の教授がいる学校に行きたかったのに魔力があるからってこの学院に入らなきゃならないなんて……でも今日この森に入って初めてこの学院に入ってよかったと思ったんだ」


 ふーっとため息をついてカールが言った。


「そうか……お前はこの学院自体来たくなかったんだな」


「君の事情はわかったけれど、今は団体行動だ。君だけ置いていくわけにはいかないよ」


「そうだな。一人欠けたら信号筒を打ち上げなくてはならない。そうしたら君も含めて僕たちは強制退去だ」


 カールに続いてヘンデルス様やエーリク様も意見を言った。


「でも……」


 不満そうなアウレール様に私は言った。


「アウレール様、今日は私たちに協力して欲しいの。ここに残っても強制退去だわ」


「退去させられるまでの時間だけでも……」


「それより頑張って優勝しましょうよ。優勝のご褒美のサロンでのディナーはいらないから竜の森の植物採取の許可を貰えるように頼んでみるの」


「それ、いいな!」


 カールが真っ先に賛同してくれた。


「そうね。今日こそこそ観察するより堂々と許可を貰って採取する方がいいと思うわ」


 アリーも同意する。ほかの人達も頷いている。

 ヨアヒム様はちょっと豪華ディナーに未練がありそうだったが。


「みんな……いいのか?」


 アウレール様はおずおずと聞くとカールがドンと背中を叩いた。


「クラスメイトだろ!」


「でもまずは優勝しなきゃならないぞ!」


 ヘンデルス様の言葉でみんな張り切って出発した。

 が、アウレール様は相変わらずきょろきょろと森の中に興味をそそられるため先頭のヘンデルス様の横を歩くことに決められ、後ろをトーマスが歩いた。




 うっそうとした木立は徐々に上り坂になっていってやがて私たちは崖の前で歩みを止めた。


 私たちの前に五メートルほどの崖が聳えている。聳えているというほどでもないか。


「うーんここを登れっていうことだよな」


 とカールが言った。


「一人が登って上からロープを垂らすしかないだろう」


 ヘンデルス様の言葉にエーリク様が名乗り出た。


「僕が登るよ。僕の領地は山間部だからね。このくらいの崖なら簡単に登れる」


 そう言ってエーリク様はひょいひょいと崖を登っていく。

 私たちは万が一を考え崖下に障壁を張ったがエーリク様は難なく崖上に到達した。近くの木にロープを結び崖下に垂らす。


「女性から行こう」


 ヘンデルス様の指示で私はロープに飛びついた。

 ロープを掴みながらスルスルと崖を登っていくと下から驚きの声が漏れた。


「おーいヴィヴィ!お転婆が役に立ったなー」


 カールが下から叫んでいる。


 リーネも危なっかしくはあったが何とか登ってきた。

 次にアリーだが、アリーは全く登れなかった。

 コツを教えて何度かチャレンジした後「無理だわ!」と悲鳴を上げた。

 そしてグレーテ様も「無理です」と主張した。


 一同が困っていた時、トーマスが小さい声で言った。


「僕の背中に女の子を括り付けてくれ」


 トーマスはみんなの中で一番背が高く逞しい。

 嫌がるグレーテ様を説き伏せトーマスの背中に括り付ける。


 トーマスは二人分の体重をものともせずに崖を登り切った。


 残るはアリーだ。

 ヘンデルス様が口を開こうとした時カールが言った。


「俺がアリーを背負う」


 カールは小柄だ。昨年一年で大分身長は伸びて女子よりは大きくなったけれど男子の中では一番小さい。

 それでもカールは譲らなかった。


 おっかなびっくりアリーがカールに背負われる。落ちないようにしっかりロープで固定した後カールは崖を登り始めた。


 顔を真っ赤にして一歩一歩崖を登る。

 

 アリーが背中から「頑張って」と声をかけると「絶対にアリーは落とさないから安心してくれ」と笑った。本当は笑う余裕もないくせに。


 何とか崖を登り切りアリーを降ろすと土の上で大の字になった。


「はーーっ重かった」


「失礼ね!」とアリーがむくれた。



 その後も私たちは協力して難所を乗り越えた。山頂に到着してチェック印を貰って昼食をとる。


 山頂はちょっとした広場になっていて二組が昼食を取っていた。三組は出発するところだ。三組のミヒェル様が手を振ってくれたので振り返した。


 五組はもう出発していて姿が見えず、四組は山頂に着く前にすれ違っていた。


「僕たちも早く食べて出発しよう」


 私たちは手早く昼食をとる。二組が出発していくのが見えた。

 

 

 そんなに高い山ではないが、山頂からは下の森が見える。時折竜が飛び立って森の上を旋回したり子竜が親竜と飛んで行く様も見られた。


 来るときには遠くに二度ほど竜が草を食べているのを見かけただけだったので私たちは沢山の竜が森の上空を飛ぶさまをしばし眺めた。



「出発しようぜ」


 カールが声をかけて私たちは西ルートを下山していった。

 最初多少揉めたもののその後は順調だったので私たちは油断していた。



 三分の二ほど過ぎたあたりで突如アウレール様が駆け出した。コース外の森の中に入っていく。


「アウレール!何処へいくんだ!」


 ヘンデルス様が声をかけたがアウレール様は叫び返した。


「ごめん!少しだけ!」


 そう言って走って行く。私たちは顔を見合わせた後アウレール様を追いかけた。


 突如アウレール様の姿が消えた。


「わあああ―――」


 叫び声がする。その場所に駆け付けると草が生い茂って見えなかったが急な坂になっておりアウレール様は転げ落ちたらしかった。


 少し下ったところで蹲っているアウレール様に呼びかけた。


「アウレール様、大丈夫ですか?」


 私の言葉も聞こえないほどアウレール様は興奮している。


「これ!ここは物凄く貴重な植物の群生地なんだ!何て凄いんだ!!」


 私たちは顔を見合わせて肩をすくめた。

 何とか説得してコースに戻らないと……


 その時ヨアヒム様が何かを発見した。


「あれは何だ?」


 少し離れたその場所に私たちは近づいた。


「これ……野営の後じゃないか?」


 誰かが言った時、私はもっと重大なものを発見してしまった。


「あ……あれ……」


 震える声で指をさす。

 ここから見える森の中……その中に竜の亡骸があった。



 何故亡骸とわかったか……その竜は爪や牙、鱗などが剝がされていたからだった。


「酷い……」


 私たちは声もなく立ち尽くす。


「信号筒で知らせよう」


 ヘンデルス様が信号筒を取り出した時後ろから声がした。


「おっと、その魔道具から手を放しな」


 私たちが一斉に振り向くとアリーとグレーテ様を羽交い絞めにして喉元にナイフを当てる二人の男が立っていた。









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