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ヴィヴィ五歳(5)


 エルヴィンとヴィヴィはすぐに仲良くなった。


 もともと面倒見の良い性格だったエルヴィンは自分より年下の存在を喜び何かと世話を焼いた。

 それに今までじっとしているのが嫌でたまに抜け出していた家庭教師の授業に真面目に取り組むようになった。


 ルードルフは今までエルヴィンに受けさせていた家庭教師の授業をヴィヴィも一緒に受けさせることにしたのだ。


 最初家庭教師は難色を示した。五歳の子供と八歳の子供ではレベルが違い過ぎる。ましてや侯爵家の教育レベルはほかの貴族と比べても高い方である。

 しかし蓋を開けてみるともちろんエルヴィンには及ばないもののヴィヴィの知識は五歳児をはるかに超えていた。知識の種類に偏りはあるものの——ヴィヴィは貴族のことや国王の名前、この国の名前さえ知らなかった——五歳で読み書き計算が完璧にできるのは珍しい事である。


 家庭教師は俄然乗り気になった。そしてエルヴィンも妹に追い付かれまいと授業に真剣に取り組むようになった。

 また、エルヴィンはヴィヴィより少し高度なことを学んでいるのだが、授業のたびにヴィヴィが「エルにいさますごーい」とか「エルにいさまはむずかしいことをいっぱい知っていますね」と褒めるのでエルヴィンはますますやる気が出てくるのだった。


 二人は大抵午前中は家庭教師について勉強し、その後エルヴィンは剣術の稽古、ヴィヴィは淑女教育を受ける。遅めの昼食をとって午後は二人で遊ぶ。


 ルードルフは基本毎朝王宮に出仕する。現在は王太子の教育係をしているため王太子と同い年のエルヴィンを伴っていくことも多かったが、エルヴィンは現在は新しくできた妹に夢中なので王宮についていくことは無くなっていた。


 そんなある日ヴィヴィとエルヴィンが庭で遊んでいると「エルヴィン」と呼ぶ声がした。

 

 二人が振り返るといつもはもっと遅くならないと帰らない父ルードルフが立っておりその傍らに一人の少年が立っていた。

 先ほどの呼び声はその少年が発したものだ。


 ヴィヴィは嬉しくなって「おとうさま!」と駆け寄ろうとし少年を見て躊躇する。


 エルヴィンはヴィヴィの手を引いて二人の前に行くと「ヴィヴィ、従兄弟のジークだよ」と少年を紹介した。


「いとこ?」


「うーん……兄様みたいなもんだ」とエルヴィン。


「ジークにいさま?」


 ヴィヴィの問いにジークは背を屈めヴィヴィと目を合わせて答えた。


「ジーク兄様だよ。ヴィヴィ、私とも仲良くしてくれるかな?」


 ジークの青空のような澄んだ青い瞳はヴィヴィをとても安心させた。


「うん、ジークにいさまもいっしょにあそびましょう」


 傍らでルードルフは静かに微笑んでいた。





 それからジークにいさまは度々遊びに来るようになった。


 ジークにいさまが来るとおとうさまも早く帰ってくるし、ジークにいさまはいつも落ち着いていて優しくてヴィヴィはすぐに大好きになった。


 ジークにいさまはお昼ご飯を食べた後に来ることが多かったが、たまに朝から来てエルにいさまやヴィヴィと一緒に授業をうけたりエルにいさまと剣術の稽古をすることもあった。


 ジークにいさまはエルにいさまよりもっともっといろいろな事を知っていてヴィヴィにわかりやすく教えてくれた。剣術の稽古はエルにいさまと同じくらいの強さで二人はいいライバルのようだった。


 剣術の稽古でジークにいさまとエルにいさまが対戦するときジークにいさまはヴィヴィのところに来て言った。


 その日はヴィヴィの淑女教育がお休みでヴィヴィは二人の稽古を見学していた。二人の稽古を見てワクワクしてこっそり棒切れを振って真似をしたりしていたのである。


「ヴィヴィ、これを持っていてくれる?」


 ジークにいさまは首から外したあるものをヴィヴィの掌に載せた。


「ふわ……きれい」


 銀のチェーンに通されたそれは複雑な模様がびっしり刻まれた指輪だった。中央に大きな青いピカピカした石がはまっている。


「母上の形見なんだ」


 ヴィヴィには〝かたみ〟が何かわからなかったが大事なものであるということはわかった。

 ヴィヴィはそっと掌の指輪を両手で覆い胸元に引き寄せた。








 その日の夕刻、ヴィヴィは気になっていたことをエルにいさまに聞いた。

 〝かたみ〟ではなく母上の方だ。


 ヴィヴィは〝おかあさま〟に会ったことが一度もなかった。


「エルにいさま、おかあさまはどこにいるの?」


 エルにいさまは辛そうな顔をした。


「母上は僕が四歳の頃死んじゃったんだ」


「しんじゃった……?」


「うん。あ!母上の肖像画見せてあげる!」


 エルにいさまはヴィヴィの手を引いて三階の奥まった一室まで行った。

 そうっとドアを開けると……


 そこには沢山の絵が飾ってあった。


 正面の大きな絵は椅子に座って赤ちゃんを抱いている凛とした雰囲気の美しい女性とその斜め後ろに立つ男の人。男の人の前には可愛い顔の男の子が立っていた。


「父上と母上と兄上。この赤ちゃんが僕だよ。……あれ?ヴィヴィがいない」


 そういった後でエルにいさまはポンと手を打った。


「あ!まだ生まれてないんだからいるわけないか」


 おかあさまだという女の人の絵はその部屋中に飾られていてヴィヴィは夢中になってその絵を見ていた。


「おかあさま……」と呟きながら……







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