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一年生(26)——冬期休暇


 懇親会も終わり残るは終業式と卒業式、そして卒業式後のパーティーを残すのみだ。


 授業は後二日あるけれど気分はそんな感じだ。


 パーティーで着るドレスは侯爵邸から送られてきている。

「僕がエスコートしたかった」というフィル兄様の手紙と共に。


 卒業生はパートナーとの入場になるが在校生は関係ない。時間までに入場して拍手で卒業生を迎える役割だ。気楽なものである。


 私はアリーとリーネと一緒にホールに向かう約束をしている。




 

 卒業式当日。午前中は卒業式に参列し、その後寮に戻り夕方からの卒業パーティーの準備をする。

 ドレスを着るのはプレデビューの時以来だ。


 アリーとリーネと一緒に女子寮から外に出るとカール、トーマス、ヘンデルス様がいた。


「あれ?どうしたの?」


「ヘンデルスがパウリーネ嬢をエスコートしたいんだって」


 カールが言うとリーネが頬を赤らめた。

 肝心のヘンデルス様はリーネに見とれるばかりで一言も喋らない。

 カールに背中を叩かれやっとリーネに手を差し出した。


「その……リーネ、綺麗だ」


「ありがとうございます……」


 二人で顔を赤らめ俯いている。


 初々しい二人はほっておいて私たちは四人で歩き出した。

 カールがおどけてアリーに言った。


「俺がエスコートしてやろうか」


「遠慮しますわ」


 トーマスと顔を見合わせて笑った。


 途中でエル兄様とジークとも合流する。


 みんなでわちゃわちゃと話しながらホールに到着した。






 皆で拍手をして卒業生を迎え入れ、学院長の挨拶でパーティーが始まる。

 卒業生がパートナーとファーストダンスを踊った。





 和やかにパーティーは進む。

 アリーとケーキをほおばっているとジークとエル兄様がやってきた。


 凄い!後ろにダンスに誘ってもらいたい令嬢の山がくっついてくる。

 それなのに二人とも目に入らないような態度だ。


「ヴィヴィ、一曲踊ってくれないか」


 ジークに手を差し出された。

 後ろの山から悲鳴が漏れる。


「……いいの?後が怖いんだけど」


「うーん、睨まれたらごめん」


「ふふっよろしくお願いします」


 私はジークの手を取った。エル兄様はアリーをダンスに誘っている。

 アリーは頬を染めていてその横でカールがなぜか焦っていた。




 前も思ったのだけどジークのリードはとても踊りやすい。私は羽根が生えたような気分になる。


「私、考えてみたら練習以外ではジークとしか踊ったことがないわ」


 ポツリと呟くとジークは「光栄だな」と笑った。


 ジークとダンスを終えると令嬢が殺到する。

 ジークはその中の一人の手を取りダンスフロアに引き返していった。


 エル兄様もアリーとのダンスを終えると次の令嬢の手を取った。


「人気者は大変ね」とアリーと笑いあっているとカールがいつになく真剣な顔をして言った。


「アリー、お前と踊ってやってもいいぞ」


「あら、踊ってもらわなくても結構よ」


「う……違う……踊ってくれないか?俺はエルヴィン様ほどダンス、上手くないけど……」


「ふふっよろしくお願いします」


 アリーとカールは手を取り合いダンスフロアに向かう。


「え?なになに?二人ってそういう関係なの?」


 トーマスに聞くとトーマスも「知らなかった……」と呟いた。


 トーマスと話をしていると私たちの前に立つ人物がいた。


「ヴィヴィアーネ嬢、僕と踊ってくれないか?」


 三組のミヒェル様だ。夏季休暇前のSクラスの一件以来たまに話をする間柄だ。

 もちろん拒否する理由はない。


「喜んで」


 ミヒェル様の手を取ってトーマスに「行ってくるわね」とダンスフロアに向かった。


 ミヒェル様のリードはジークほどは慣れていなかったけど楽しく踊れた。


 途中で誰かとぶつかりそうになりヒヤッとしたが相手が上手く避けてくれた。


 誰だろうとみてみるとジモーネ様……とジーク。


 ジモーネ様は得意満面でこっちを見ていたけど、ジークはごめん!というような顔でこっちを見ていた。


「今のは二組のジモーネ嬢だろ。彼女あんまりダンスが得意じゃないんだな。ヴィヴィアーネ嬢にぶつかりに来てたぞ」


 ミヒェル様の言葉に笑ってしまった。



 その後カールとも踊ったりして楽しく卒業パーティーを終えた。

 ちなみにトーマスはダンスが苦手だそうで一度も踊らなかった。






 


 冬期休暇になり私はエル兄様と王都のお屋敷に帰ってきた。


 フィル兄様は王宮の仕事が終わりお屋敷に帰ってくると私が帰ってきたのを見てぎゅうぎゅう抱きしめ「おかえり」と言った。


「兄上、俺もいるんだけど」


「ああ、エルヴィンもおかえり」


「扱いに違いがあり過ぎないか?」


「僕は二人とも愛しているよ。ただ……」


「ただ?」


「エルヴィンは抱きしめてもゴツゴツしているからなあ」


 私とエル兄様は一気に脱力した。

 フィル兄様がエル兄様を抱きしめる図はちょっと見てみたい気もしたけど。




 フィル兄様は夕食の間も私をどこに連れていきたいとかこんな新しい店が出来たから一緒に行こうとか話をしていたけど、お父様に「フィリップはそんなに休みがないだろう」と言われて項垂れていた。


「フィル兄様は意中の女性はいらっしゃらないの?」


 ふと私はこの冬期休暇に婚約するヘンデルス様とリーネのことを思い出し聞いてみた。


「何を言うんだヴィヴィ!ヴィヴィ以上の女性なんてどこにもいないよ!」


 お兄様……私は妹です。私と比較してどうするんですか……

 私よりずっとずっと素敵な大人の女性はいっぱいいると思うのだけどお兄様の眼中には入らないらしい。


「まあもう少し自由にさせておいてもいいだろう」


 お父様があきらめムードで言った。


「エル兄様は?」


「えっ!?……俺のことはどうでもいいだろう」


 なんか怪しい。エル兄様には意中の相手がいそう。

 今度ジークに聞いてみようと私は思った。


「それはそうと明後日のプレデビューの夜会は行かなくていいのか?」


「はい。お留守番してます」


 お父様の問いかけに私は答えた。先月に既に手紙で打診され欠席と返事はしてある。学生のうちに唯一出席できる夜会であるが私は夜会にあまり興味がない。リーネとヘンデルス様は出席すると言っていたが、アリーもカールもトーマスも行かないと言っていた。


「ヴィヴィが行かないなら僕も欠席しようかな」


「フィリップ、お前は仕事で出席しなければならないだろう」


 お父様が何度目かのため息をついていた。

 エル兄様はジークが心配だから出席するらしい。


「ジークに群がる虫を少しでも払わないとな」


 と言っていたけれどエル兄様がいたらますます群がってくると思う。

 ……エル兄様、頑張ってください。





 冬期休暇中、私はお屋敷でゴロゴロしたりフィル兄様のお休みの日に出かけたり、アリーやカール、トーマスとも街へ出かけた。



 嬉しかったのは……


「ハーゲン!!」


「ヴィヴィ様今日は私を含めた三名が護衛を務めます。よろしくお願いします」


 そう、ハーゲンは領騎士団の団長を辞任した後一介の騎士になったんだけど、領地に居るとついみんなが頼ってしまうらしく王都勤務になっていた。


 王都のお屋敷の警護やお父様の護衛をしているらしい。

 冬期休暇の間は私が出かけるときは護衛をしてくれると言っていた。



 

 冬期休暇も半分ほど過ぎたころ私はカール達に会いに街に出かけた。











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