表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/156

一年生(25)


 お昼休み———


 私はいつもはカール達と食事をとっているが今日はパウリーネ様と二人で食堂にいる。

 みんなの前で披露する芸の相談をするためだ。


「ヴィヴィアーネ様と一緒に食事をすることができて嬉しいですわ」


 パウリーネ様の言葉に入学した初日パウリーネ様に食事に誘われたことを思い出した。


「私もパウリーネ様とご一緒出来て嬉しいです。今度アリーも交えて女子会しませんか?」


 と言ってみると


「まあ、是非!」と返事が返ってきた。


 およ?パウリーネ様は爵位持ちと爵位無しの区別をつけているような人だったけど?

 

 私の訝し気な視線を受けてパウリーネ様はばつが悪そうな顔をした。


「以前は申し訳ありませんでしたわ。私変なプライドを持っていたと反省しておりますの」


「パウリーネ様!!」


 私はテーブルに乗り出してパウリーネ様の手をぎゅっと握ってしまった。

 私こそごめんなさい。パウリーネ様のことを色眼鏡で見ていたのは私も同じでした。

 パウリーネ様はちゃんと反省も成長もできる人だった。いつまでも前のことを根に持っていたのは私の方だった!


 嬉しくなって「うふふ」と笑うとパウリーネ様もはにかんだように笑った。


「パウリーネ様、可愛い!!」


「いやですわヴィヴィアーネ様」


 ますます照れるパウリーネ様。


「ああもう、ヴィヴィって呼んでくださる?」


「よろしいのですか?」


「もちろんよ!」


「では私のこともリーネと」


「よろしくね、リーネ」


「よろしくですわ、ヴィヴィ」


 と、二人目の女友達をゲットしたことは嬉しいんだけどどんな芸をするのかは何にも決まっていない。

 放課後、寮の私の部屋に集まることにした。




 

 トントン


 マリアがドアを開けてパウリーネ様じゃなくてリーネが入ってきた。


「ヴィヴィアーネ様じゃなくてヴィヴィ、私お友達のお部屋を訪問するの初めてですわ」


 と言いながらマリアにクッキーを渡した。


「まあ、ありがとうリーネ。でも手土産は今回だけにしてね。もっと気軽に遊びに来て欲しいの」




 私たちはソファーに座りマリアが紅茶を入れいただいたクッキーを出してくれた。


「それで……どんな芸をしようかしら」


 うーん……と二人で考える。


「歌を歌う?」


「わわ私、音痴ですの!」


 素早くリーネが否定する。


「ダンス?」


「ヴィヴィは男性パートは踊れまして?」


「ううん、リーネは?」


 これも無理そう……考えながらクッキーを一つまみ。あ、美味しい!

 途端に閃いた。


「クッキーを焼くのは?」


「え?ヴィヴィはできますの?」


 リーネが目を丸くした。

 マリアが部屋の隅で吹き出しそうな顔をしてる……


「マリア、私だって成長したのよ。もう焦げたクッキーなんか焼かないわ」


「ふふっそうですねヴィヴィ様。でも私にもお手伝いさせてくださいね」


 マリアの助力があれば百人力だ。


「あの、私にもできるかしら……」


 不安そうなリーネに太鼓判を押した。


「大丈夫。すぐ作れるようになるわ。そしてそれでね……」


 夏季休暇のピクニックを思い出した私はある計画をリーネに耳打ちした。


「それ……面白そうですわ!!」



 翌日私とリーネは厨房に許可を取りに行き、親睦会の前日に厨房を使わせてもらえることになった。





 親睦会は大いに盛り上がった。


 ヘンデルス様の音頭で始まった親睦会。まずはお茶と軽食やケーキを囲みながら和やかにおしゃべりする。

 場が温まってきたところでカールが言った。


「そろそろ芸を披露しないか?」


 その声で真っ先に立ち上がったのはアリーだった。


「では、私たちから披露するわ」とエーリク様の腕を取った。


「みんなの素晴らしい芸を見た後ではハードルが上がっちゃいますからね」


 と茶目っ気たっぷりに微笑んでみんなの前に立った。


「僕たちは歌を歌います。あの、僕の家の領地は王国の北東部の山間地なんです。領地に伝わる伝統の歌なんだけど……」


 エーリク様と呼吸を合わせてアリーたちは歌いだした。

 ゆったりした旋律の素朴な民謡だった。

 驚いたことにアリーは歌が上手かった。

 包み込むような優しい声をしていた。


 最初並んで立って歌っていた二人は中盤からゆっくり動き出した。

 ゆっくりした動きのその踊りは歌にとってもフィットしていて私たちは目が釘付けになった。


 余韻を残して歌が終わる。


 ハッと気付いたみんなは精一杯の拍手をした。


「うわーー!最初から凄い芸を披露されちゃったなあ」


 カールが嘆くとアリーとエーリク様は顔を見合わせて笑った。


「じゃあ、僕がハードルを下げるよ」


 立ち上がったのはヘンデルス様とトーマス。


「僕たちは剣の型を披露するよ」


 そう言って部屋の隅に用意されていた剣術の授業で使われる剣を取りに行った。



 二人で向かい合い真剣に構える。


「「はっ!」」


 気迫のこもった掛け声とともに型を披露していく。


「かっこいい……」


 剣術の授業を取っていない女子たちはうっとりと眺めていた。もちろん私も。


 終わった時には二人ともうっすら汗をかいていた。

 私とアリーが拍手をしているとリーネがすっと立ってヘンデルス様にタオルを渡す。


「ありがとう、リーネ」


 え?え?


「なんか二人仲良くないか?」


 カールが揶揄うとヘンデルス様は照れたように言った。


「冬期休暇で王都に帰ったら婚約を結ぶ予定なんだ」


「「「えーーー!!」」」


 学院に通っている間に婚約を結ぶ人が多いとは聞いていたけれど……うん、お似合いの二人だわ。


「おめでとうございます!ヘンデルス様、リーネ」


 私が紅茶のカップを掲げるとみんなも口々に祝福した。


「おめでとう!」


「このクラスの婚約第一号だな」


「お似合いだわ」


「「ありがとう」」


「すっかり二人に持ってかれちゃったな」


 カールがトーマスに言うと


「僕は注目されるのが苦手だから助かった」


 トーマスも小さい声で「おめでとう」と微笑んでいた。



「えー、コホン。次は俺たちが披露するよ。前の二人みたいにカッコよくはないけど」


 カールの声でヨアヒム様も前に出ていった。

 ヨアヒム様はなんだか飄々とした雰囲気の男子だ。


「俺たちは物真似をやります」


 言いながらカールが横にすっと下がる。


「席に着けーー!授業を始めるぞ――」


 ヨアヒム様の声に吃驚した。

 声質じゃなく言い方や体の動きが担任のエルトマン先生にそっくりだ。


「「似てるぞ――!」」


 みんなも大うけだ。

 ヨアヒム様は歴史の先生や領地特産の先生、魔道具の先生など次々に真似をしていく。


 みんなお腹が痛くなるほど笑った。


「カールは何もしないのか?」


 ヘンデルス様の声にカールは渋々言った。


「じゃあ、一つだけ」


 そして端から歩いてくると一礼した。


「あー、君たちはー今日この学院に―入学したわけだが―」


「それ、学院長の真似か?」


「似てないわよ」


 エーリク様とアリーの突っ込みにまた笑った。


 ひとしきり笑った後で最後は私たちの出番だ。


 私とリーネはサロンの隅に置いていたバスケットをもってみんなの前に立った。


「あの、私たちはみんなの前で披露するような芸は無いのでクッキーを作りました」


 私たちの言葉にヘンデルス様が感激している。


「リーネの手作りのクッキー……」


 リーネも顔を赤らめているがそれは置いといて


「でもただ配って食べてもらうだけじゃつまらないので……」


 私の言葉を聞いてカールが呟いた。


「え?まさか?ウソだろ」


「男子五人、前に出てきてくださーい!」


「ゲッ!」


 カールとトーマスは渋々、他の三人は不思議そうに前に出てきた。

 私たちは五人の前にお皿に載せて五枚のクッキーを用意した。


「この中のどれか一つが激辛クッキーです」


「「やっぱり……」」


 ため息をついたのはカールとトーマス。


「王太子殿下に激辛料理を食べさせたんだから俺たちにためらう筈ないよな」


 カールがボソッと言うので足を踏んでおいた。


 男子たちは慎重に選び各自クッキーを手に持った。

 ふふん。簡単に見分けられるようにはしていないわ。


「それではお召し上がりくださいませ」


 リーネが言うと五人は恐る恐るクッキーを口に運んだ。


「……」


「……」


「……み、水!辛—--!!」


 引き当てたのはカールだ。

 私はカールに急いで水を持って行く。

 それをゴクゴク飲んでカールは言った。


「これって芸を披露したのはヴィヴィたちじゃなくて俺じゃないか?」


 カールの言葉にみんなが笑った。



 カールの提案した親睦会は大成功。今まで名前しか知らなかったクラスメイトの意外な一面を沢山知った。


 残りの二人も絶対に引きずり込もうとみんなで決意して懇親会は終わった。




 




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ