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一年生(17)——夏期休暇


 お屋敷に無事帰ってこられた安心感からか私は猛烈に眠くなってきていた。


 待って、何か伝えたいことがあったような……でも猛烈な眠気の前に何も考えられない……

 待って……重要な事……


 立ったまま寝て床に崩れ落ちる前にジーク兄様に抱き留められベッドまで運ばれたことを私は後から知った。



 しっかりと睡眠をとり目覚めたのはその日の夕方。

 今度は耐えがたい空腹で私は目を覚ました。

 

 これって貴族令嬢としてどうなの?と思うがお腹の虫は治まってくれない。


 マリアに手伝ってもらって着替えると私は食事室に向かった。


 マリアにもしっかり泣かれた。お願いですから危ないことはしないで下さいと懇願された。

 うん、心配かけてごめんね。



 食事室には皆が揃っていた。

 私が入っていくとみんなホッとしたような表情を浮かべた。


「ヴィヴィ、疲れは取れたか?まずはしっかり食べろ」


 ク~。エル兄様の言葉に私のお腹が答える。

 みんなは爆笑したが私は赤面ものだ。

 でもしっかり出された食事は平らげた。


 食事がすむとハーゲンが入ってきた。


「ヴィヴィ様、申し訳ありませんが誘拐されていた時の話をお聞きしたい」


 私は人払いをお願いした。

 そうしてサロンに移動する。


 現在サロンにいるのはエル兄様、ジーク兄様、マインラート、ハーゲン、そして私の五人だ。

 マインラートが防音の結界を張った。マインラートはアウフミュラー侯爵家の分家筋で爵位無しの貴族である。


「捕えた密猟者たちはどうしているの?」


 私はまずハーゲンに彼らがどこにいるかを聞いた。


「屋敷の地下牢に入れております。見張りは牢の前に二人、地下に通じる階段の前にも二人。それとヴィヴィ様と一緒にいたお二方も屋敷に留まってもらっています」


「密猟者の正体はトシュタイン王国の人間だわ」


 私のいきなりの爆弾にみんなは息を呑んだ。


「ヴィヴィ様はどうしてそれがわかったんですか?」


「倉庫を抜け出した時に話を聞いてしまったの。その後また掴まっちゃったんだけど」


 みんなが凝視している中を私は続けた。


「彼らはガスパレ殿下の手の者だと言っていたわ。竜と貴族の女性を貢ぎ物にするって」


「竜は素材としても高価だからわかるけど何で貴族女性なんだ?」


 エル兄様の質問には答えたくなかったけど渋々口を開いた。


「ガスパレ殿下がお妾さんにして魔力の高い子供を産ませるんだって」


「「「なっ!?」」」


 みんな嫌悪の表情を露にした。


「ふーーーっヴィヴィ様が餌食にならなくて本当に良かったです」


 マインラートがため息をついた。




 トシュタイン王国は、いやこの国以外の大陸の国々には現在魔力を有する者がほとんど残っていない。


 それには竜との契約が大いにかかわってくる。


 大昔、この大陸が聖リードヴァルム大帝国に支配されていた頃は大陸中の貴族たちは魔力を持ち、貴族全てに契約竜がいたそうだ。

 この国ヴェルヴァルム王国はその頃はヴェルヴァルム大公領でもちろん竜の森は開かれていた。



 しかしその後、八つの公爵領が結束して武力蜂起し、大戦が起こる。聖リードヴァルム大帝国は瓦解した。八つの公爵領はそれぞれ独自の王国となり聖リードヴァルム大帝国は只のリードヴァルム王国として当時の首都周辺のわずかな土地を領土とする王国に変わった。


 それでも竜神の末裔を王族とするリードヴァルム王国は長らく不可侵の存在だったのだが、三十年程前にトシュタイン王国が突如リードヴァルム王国に攻め入りリードヴァルム王国は滅んだ。


 今のトシュタイン王国の国王はその功績が認められて国王の座を手に入れたのである。


 八つの公爵領が武力蜂起した際、我がヴェルヴァルム大公領は鎖国という政策をとった。


 ヴェルヴァルム大公はリードヴァルムの初代である竜神の二人の息子のうちの弟の末裔である。


 しかしその頃のリードヴァルム皇帝の非道は目に余るものがあり、さりとて公爵たちに与することもできなかった。

 結果、国を閉ざしヴェルヴァルム王国として今に至る。


 

 国を閉ざしたことにより我が国にある竜の森を他国の貴族が訪れることが出来なくなった。

 竜との契約を結ぶことが出来なくなったのである。


 そしてそのことは予想外の結果をもたらした。

 他国の貴族、王族たちは竜を手に入れられなくなったばかりではなく代を重ねるごとに魔力の衰退が見られるようになった。


 竜と契約を交わすことが魔力を維持することにつながるらしい。

 これはようやく最近の研究で明らかになってきたことである。

 我が国は魔力の衰退が見られなかったためだ。


 リードヴァルム王国の王族は竜神の末裔だけあって魔力の衰退はなかったそうだが、しょせん弱小国。長い歴史のうちに周囲の国を攻め併合し、大国となったトシュタイン王国にあっけなく滅ぼされてしまった。


 という歴史はフィル兄様から教えてもらった。学院ではまださわりを習っただけだ。


 魔力が無くても国を治めることはできる。周辺国がそうやって変化していく中でトシュタイン王国は竜同様魔力を欲していた。周りの国々を武力で併合し大国となったトシュタイン王国にとって竜と魔力は喉から手が出るほど欲しいものだった。


 トシュタイン王国はそれを欲し過去何度も我が国に攻め入り、またはテロや様々な事件を起こしていた。

 三十年程前も我が国の王女様が攫われた。しかしそれは失敗に終わる。王女様を攫った馬車が谷底に転落したのだ。


 誘拐を画策したトシュタイン王国の第一王子は失脚しリードヴァルム王国を攻め滅ぼした当時の第三王子が国王となった。……らしい。



 この辺の話はたぶん学院では習わない。

 こっそりフィル兄様が教えてくれたことである。

 王族や公爵、侯爵家の人間は襲われやすいから気を付けるようにと言っていた。


 って言われていたのに今回誘拐されちゃったんだけど……


 でも実際その話を聞いていても私に実感はなかった。トシュタイン王国というのはなんだか物騒な国だなあという印象しかなかった。


 今回誘拐されて話を盗み聞きして初めてフィル兄様に教わったことを身近に感じたのだった。


「捕えたものを尋問してトシュタイン王国の関与を立証できるか?」


 エル兄様の問いにハーゲンは難しい顔をした。


「できるかもしれませんが……」


「エルヴィン様、これは私たちの手に余ります。旦那様に報告して王宮に犯人を引き渡した方がよろしいでしょう」


 マインラートの提案にエル兄様も頷いた。


 既に私が誘拐されたことは報告済みだそうで(やばい!)トシュタイン王国の件も急ぎ報告することとなった。


「それとヴィヴィ様と一緒にいた二名のことですが……」


 ハーゲンが言った時、激しく扉がノックされた。


 急ぎ結界を解き入室を促すと、入ってきた騎士が言った。


「ハーゲン団長、大変です!犯人が逃げました!」






 









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