表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/156

一年生(16)——夏期休暇


 時は戻ってヴィヴィが攫われた直後———


 ヴィヴィから投げられた矢をカールははっしと掴んだ。


 フェッツが敵の腕を切り付けると相手がナイフを取り落とした。


 反転して別の敵に向かう。


 ピー―――


 呼子の音が聞こえるとフェッツに向かっていた三人が一目散に逃げだした。


 フェッツも後を追う。テントの内外から五~六人ほどの男たちが出てきて逃げていく。

 男たちはホロ付きの荷馬車とその周りにいた馬に飛び乗ると広場から凄い勢いで去っていく。


「ま、待て――――!」


 フェッツは必死で追うが馬の脚に追い付けるものではなかった。


「フェッツさん!馬車のところに戻ろう!」


 カールと二人で馬車まで戻る。


「ヴィヴィが攫われた!」


 カールの言葉に馬車で待っていた三人も吃驚した。


「ラルス!この三人を乗せて急いでお屋敷に帰れ!ハーゲン団長に報告して指示を仰げ!俺は奴らの後を追う」


「フェッツさん、奴らはもう見えなくなっちゃってるよ」


 カールが半泣きで言う。


「それでもホロ付きの荷馬車の目撃証言を追えば方向ぐらいはわかる。指示を仰いだらこの場所で待ち合わせだ」


「了解です!なるべく早く戻ってきます」


 そうしてカール達は屋敷に送り届けられた。


 報告を聞いてハーゲンは一喝した。


「バカヤローー!!」


 後ろでマインラートが頭をかかええいる。


「お小言は後だ。おい!領騎士団で動けるやつ全員呼んで来い!」


 ハーゲンの指示を受け騎士の一人が駆け出して行った。





 それからハーゲンは外せない任務に就いている以外の全ての騎士を連れ街に向かった。

 カール達は何か手伝いたいと申し出たが却下されお屋敷で大人しく待つように言われた。


 街の広場に着いたハーゲンは戻ってきたフェッツの話から荷馬車が向かったのは街の北東の倉庫や工場が林立している地域であるとあたりをつけた。

 そのあたりは引っ切り無しに荷馬車が行き交っているので目立たない。

 ヴィヴィが連れ込まれたのは倉庫の一つだろうと思われた。


 もちろん領境の街道には騎士を派遣し怪しい馬車や荷馬車を通さないように監視済みだ。

 そちらからは報告が上がっていない。


 曲芸団の残っていた者たちからはハーゲンが直接話を聞いた。


 曲芸団とヴィヴィを攫った一味はレッダー子爵領で興行をしていた時に知り合ったらしい。

 一緒に回らないかと持ち掛けられ彼らは弓の名手やナイフ投げの得意なもの、また裏方として力仕事で頼りになるものも多かったのでここまで一緒に興行を続けていたのだという。


 彼らをまとめていたのはジャンという男だが本名かどうかもわからない。

 曲芸団はそのまま騎士の監視下に置かれ、興行も中止となった。




 その後ハーゲン達は街の北東の倉庫地帯の近くに移動した。


 信頼のおける人物から場所を提供してもらい倉庫の一つを本部とする。

 ここからは慎重にいかなくてはならない。


 犯人たちを刺激して逃げ出したりましてや人質のヴィヴィを傷つけることがないようにしなくてはならないのだ。

 騎士たちは倉庫で働く人足のような服装に着替え聞き込みに回った。




 夜も更けたころハーゲンのいる本部に二人の人物が訪れた。


「エルヴィン様!王太子殿下!」


 ハーゲンを始め騎士たちが一斉に跪く。


「いい。今は非常事態だ」


 ジークの言葉に立ち上がるもハーゲンはもう一度頭を下げた。


「ヴィヴィ様を誘拐されてしまいました。申し訳ありません。すべて私の落ち度です。処分はヴィヴィ様を救い出してからお願いいたします」


 エルヴィンは頷いた。


 二人の騎士が前に出て跪き頭を垂れた。


「申し訳ありません!俺たちの失態です!」


 ラルスとフェッツだ。


「とにかく今はヴィヴィを無事に救い出すことを考えよう。ヴィヴィが囚われている場所の目星はついているか?」


 エルヴィンの問いにハーゲンは調査の結果を伝えた。


「怪しいと思われる建物は五つに絞られています。こことここはすぐ近く、こちらの建物ともう一つも比較的近くです。残りの一つは少し離れていますね」


 五つの建物に分散して踏み込むには人数が足りない。かといって順番に踏み込んでいけばその騒ぎで犯人に感づかれてしまう。


 どうにかしてもう少し怪しい建物を絞り込みたかった。


 かといって今は真夜中。倉庫はどれも一見明かりが見えず静まり返っている。

 騒ぎを起こせば目立ってしまう。夜明けを待つしかないかとじりじりしていた。




 そして空が白み始めてきたころ異変は起こった。



「ハーゲン団長!竜が現れました!」


 部下の報告を聞いてハーゲンは外に出た。

 追ってエルヴィンとジークも外に出る。



 飛んできた竜はやがて一つの建物の上で旋回を始める。

 怪しいと絞り込んだ五つの建物のうちの一つだ。

 ブレーデル商会のその倉庫は見慣れない人相の悪い奴らが出入りしていると報告が上がっていた。



 ギャー――オ―――――


 竜の咆哮が響き渡る。


 ハーゲンはぐずぐずしてはいられなかった。


「全員踏み込め!中にいる者たちを制圧しろ!」


 騎士服をまとい抜剣した騎士たちが倉庫に踏み込んでいく。


 その後を追いエルヴィンとジークも倉庫に踏み込む。

 ハーゲンが制止する暇もなかった。


 

 そうして廊下や事務室での乱闘を潜り抜け奥の倉庫になだれ込んだジークたちはヴィヴィを発見した。


 ヴィヴィの前で一人の人物が彼女を守っている。

 加勢すべく騎士たちが切り込みほぼ制圧できたと思った時だった。



 倉庫の端にいた男がヴィヴィに向かって矢をつがえたのが見えた。


 ジークは走ってその矢の軌道上に躍り出たのだった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ